中編3
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ルームシェア

新しい俺の家が決まった。とあるマンションの一室。

室内は築10年にしては綺麗だ。最近のリフォームは本当に魔法のようだと思う。

特になんのトラブルも無く、月日は過ぎた。

小さな異変に気付くまでは……。

いつものように会社の残業で夜遅くに帰宅したところ、冷蔵庫の中の食材が目に見えて減っていた。

これは泥棒に遭ったな、と思ったが……違う。

鍵は閉まっていたし、食材以外は荒らされた形跡がなかった。

念の為、警察に相談したが「気のせいでしょう」で片付けられた。

それにしても、釈然としない。

買い置きした食材は確実に減っていく。高校時代から続けている日記に苛々を書きなぐり、正気を保とうとした。

「誰だかしらないが喰った分の金くらい置いとけ!」と。

――次の日は土砂降りの一日だった。

営業で棒になった足を引きずるように帰宅。無造作に置かれたテーブルのお金に目がいった。

福澤諭吉二枚。

給料日前のカツカツのはず……。だから、部屋に、それもこんな所にある福澤諭吉を見逃す訳ない。俺のじゃない。

この出来事を記そうと日記を開いてみた。綺麗な文字でこう書いてあった。

『私はここで貴方とルームシェアをしている女です。食材を勝手に使い込んですみません。これからは食費をちゃんと支払います。すみませんでした』

ルームシェア? 俺はすぐに不動産に確認の電話を入れた。勿論、借りたのは俺一人。

――それから、奇妙な交換日記は始まった

女は、次第に俺の事を気遣ってくれるようになる。帰宅すると、ついさっきまで煮込んでいたカレーが、湯気の立つハンバーグが……。俺の夕飯を用意してくれていた。それだけじゃない、洗濯、アイロン、部屋の掃除。

生まれてこのかた、女性に優しくされた事のない俺は悪い気はしなかった。

しかし、一つ気になることがある。どうして女は姿を一度も見せないのだろうか?

女が言うには「タイミングが決定的に合わない」と。

ルームシェアしてるのに流石にそれは不自然だ。位相空間にでも住んでいるのだろうか?

ある朝、たまに挨拶を交わす、隣の大学生に言われた。

「彼女さんに昨日、カレー分けて貰いました。本当に美味しかったです。しかし、綺麗な彼女さんですね」

やはり、実在する人間か。綺麗なのか……うむ。

悪い気はしない。

それから、女の姿を見ないまま奇妙な同棲は一年続いた。

ある晩、帰宅すると赤子用の服が畳まれて、ソファーの上に置かれていた。

日記には『今日、病院に行ったらおめでたですって……貴方との子よ』と書かれていた。

……そんなはずは無い。

肌にも触れていない。

それどころか姿すら見た事がない。

急に怖くなった。

次の日、仕事が全く手につかなかった。頭の中でぐるぐると今までの事が蝿のように飛び回った。

そうだ、引越しして逃げよう。それが導き出したたった一つの結論。

帰宅。ソファーの赤子用の服をおもむろに手に取った。おかしい。背中に冷や汗。額には脂汗がブワッと出た。

袖が八つある。

市販のやつを女がリメイクしたみたいだ……。なんでそんなに必要なんだ?

急いで日記に目を通した。

『貴方、今日赤ちゃんが生まれたの』

え?今日?どういうことだ?普通じゃない。

『でね、私は赤ちゃんの養分になるから、これでお別れ。今までありがとう。この子をよろしくね……』

よろしくって、何なんだよ。日記を持つ手が震え出す。

その時だった。

『……おぎゃー……おぎゃー……おぎゃー』

微かに赤子の泣き声がして、

天井裏を何かがはいずり回る音が聞こえた。

怖い話投稿:ホラーテラー 薄荷飴さん  

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