短編2
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山姫8(最終話)

長くなって申し訳なかった。

これで最後になります。最後まで付き合って下さった方々ありがとう。

数週間後、僕らは居酒屋で落ち合い、あの時の事を話しあった。

C「実はさ、おれ山姫ってなんとなく知ってたんだ。」

B「それ‥どういう事だよ?」

C「いや、おれもよくわかんないからさ、確かな事は言えないんだけど‥」

Cの話では、山姫というのは実は各地に存在するらしい。

例えば“山姥”であったり“雪女”であったり‥地方によって色々だそうだ。

また、大昔、山奥にひっそりと住んでいた少しキチガイな人間や、変わった人間が、時折山で遭難する人間を殺して食べたりしていたという史実が、文献として残っている。

多くの伝承はこれに基づかれ、今日に至るのでは、とCは推測したのだった。

山の中で生活していれば、栄養(特に鉄分)が不足しがちだ。

普段、カエルなどの小動物を食していた人達にすれば、たまに迷い込んでくる、下界の人間(自分達とは違う存在)は、さぞかしご馳走に見えたのだろうし、猪や熊などを相手にするより、簡単に血肉が手に入ったのではないではないかと言う事だった。

それが、ほとんど山姫伝説や山姥伝説の正体だと言う。

A「まぁそれはそれで納得いくけどさ、おれ達は見てるんだぞ?実際に。ありゃ生きた人間じゃないね。」

C「そう、そこなんだよ、おれも合点がいかないのは。で、考えたんだ。もしかしたら、Y島には山姫が本当に存在してんじゃないかって」

A「はぁ?」

C「もしあの夜、あんな事が起きてなかったらおれ達どうなってたと思う?」

B「そりゃ‥登山続けただろ。」

C「もし続けてたら?」

僕らはハッとした。

僕「‥土砂崩れに遭ってたかもしれない。」

C「そう。不思議な事に、山姫はあのおじさんの所にも現れた。山姫は教えてくれたんだよ。雨で地盤が緩んで、土砂崩れが起きるぞ、早く山を下りろ、ってね。凶事だった。おれ達は救われたんだ。山姫が助けてくれたんだよ。」

A「‥確かに。あんな事なかったらおれ達は確実に土砂崩れに巻き込まれてた。」

僕らはその時思い出した。

山姫は“気まぐれに命を奪う森の神”だが、“たまに遭難者の命を救ったりする、森の守り神”だったという事を。

僕らは山姫に救われたのだろうか。

それとも山姫自体が“天災”だったのだろうか。

どちらにせよ、実在した“キチガイ説”‥人間が一番恐ろしいのかもしれない。

怖い話投稿:ホラーテラー ケンジさん  

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