中編4
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男子坂

男子坂(おとこざか)と地元では知られている坂がある。

この坂は俺が小学生の時に通学路として通っていた道だ。

小学六年の下校途中にこの坂を通った時のこと。

六年生、小学校では最上級生だ。

その頃の俺は....俺達は六年生で登校班のなかでは1番の権力者だった。

季節は冬で下校時には既に薄暗かったのを記憶している。

六年生は二人で俺と木元、五年生は一人、四年生は0、三年生は二人、二年生も二人、一年生は0。

まぁ過疎気味の田舎の話しだと想像してくれればいい。

その頃の俺と木元はK-1にハマッてた。

六年生という名の権力者がとった行動は下級生を各陣営に別けての殴り合いを強要していた。

木元と俺は必殺技を下級生に伝授しては指示をだすというセコンド的な役割をしていた。

正直、今考えれば凄く酷い事を強要していたのだと思う。

でも当時はなんとも思わなかった。

いまでこそ人の痛みが分かるようになったように思うし、仕事でハンマーや刃物やなんか使うのだが、ハンマーで指を叩いたり、刃物で切ったりした痛みを経験してる俺には昨今の殺人事件で子供の頭をハンマーで殴打とか刃物を何回も突き立てるとか.....考えられない位に怖い。

骨が見える程に指を切り付けた時なんかは、痛みを感じる前に冷汗がでた。

殴られたら痛いという常識的な感覚の欠如とそれを他人に置き換えて考えれないのは凄く怖い事だと思う。

まぁ話は大分それて申し訳ないがそんな他人にたいしての思いやりがなかった俺と木元は毎週土曜日の集団下校時間に二対二のバトルをしながらの下校途中に男子坂であった出来事。

男子坂はほんとは名前なんてない坂なんだけど、子供達の間では通称でそう呼ばれてた。

男子坂は土手を上がって橋を渡る、土手を下るってだけの短い坂だ。

説明しにくいんだけど凄く角度はきついけど距離は短い坂だと思ってほしい。

名前の由来は土手の付近に住んでいたお婆さんだ。

当時は小学四年生で登校班の班長(六年生)に聞いた話で下校途中に婆さんは声をかけてきては説教をするそうだ。

「男の子は強くなけりゃいかん」

「男の子は面倒見がよくなけりゃいかん」

「男の子は元気に走り回らにゃいかん」

とか説教には男の子が絶対につくそうだ。そして説教されるのは六年生の男子だけ。

婆さんの行動は大人達も知ってはいたが黙認してた。

婆さんは数年前に孫(当時五年生)を事故で亡くしていたらしくその事がきっかけで説教をするようになったらしい。

で俺達は下級生に顔面禁止の決闘ゴッコをさせながら下校していた時に初めて婆さんに遭遇した。

婆さんは驚いていたようだった。

俺達からすれば決闘ゴッコは血がでることもなく骨が折れたりなんて事もないし、下級生もある程度わかってやってる部分があるから遊び程度のものだったが婆さんからすれば下級生に殴り合いをさせてヤジをとばす俺と木元は悪魔のように見えたのかもしれない。

その光景を見て驚いた表情から激怒の表情に変わった時に婆さんの口から漏れた言葉は今も記憶している。

「....お前らみたいなのがいたから...」

その後は怒号のように

「男の子は....男の子は.....」

と聞き取れない程に叫んでた。

俺は完璧に腰が引けてたし、下級生は泣いてた....

...木元は気が強く焦点のズレた怒りを向けてくる婆さんを蹴り倒してしまった..

..腰を地面に打ち付けた婆さんは起き上がれないでいた。

それを見た木元は馬乗りになって殴り掛かろうとしてた....俺はビビって木元の手を取り逃げるように下級生にも促す....その出来事があってから決闘ゴッコはやめた。

それから婆さんは見かけなくなった。

そして初めの方で書いたが季節は冬、下校時には既に薄暗かった時に事故は起きた。

金曜日だった。

その日に俺は一人で下校していた。いつもは木元と二人なんだがその日木元は居残りをしてた。

木元は勉強嫌いでガキ大将みたいな奴だった。いつもランドセルの中はスカスカで机の中は教科書でパンパン。

約六年使用したランドセルはペチャンコだったのを覚えてる。

男子坂を歩いているとあの婆さんに出くわした。

婆さんはシワだらけの顔で

「気をつけて帰りぃよ」

と声を掛けられた。

正直、俺は気味が悪くなり俯いたまま駆け出した。

その日の夕方に木元は事故に遭い亡くなった。

現場は男子坂。

当時は教えてもらえなかったが後に聞いた話では坂で転んでうずくまっている所を後ろから来たトラックにひかれ即死だったようだ。

確かに仕事でトラックを運転する機会もあるのでわかるが土手を走っていると勾配がきつく距離の短い坂はトラックのように運転席が高いと下方向に死角ができる。

でも木元は男子坂で転んだ事なんかないし、下級生でさえ転ぶことなんかなかった.....考えても仕方ないし考えれば考えるほどにシワだらけの笑顔しか浮かばなかった。

木元の事故があってから通学路は変更された。

俺は婆さんに会うこともなく卒業した。

それから高校まで卒業し就職した俺は先週金曜日に会社の飲みに参加し泥酔状態でタクシーに乗り、帰宅途中に暫く寝ていたらタクシーの運転手さんは男子坂を通るつもりの道筋を辿っていた。

泥酔していたし余りハッキリしないのだが男子坂に差し掛かり橋を渡り、坂を下る二秒ほどの間にペチャンコのランドセルを背負った小学生とその後ろを歩く老婆の姿を見た気がした。

....今更考えても仕方ないが木元は婆さんに仕返しで転ばされたのでは...一人での下校を狙っていたのでは.....証拠はないし、中学生の頃に婆さんは亡くなったと聞いた、今更真実を求めても解るはずもないが....

これから命日には手を合わせに来ようと思う。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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