中編3
  • 表示切替
  • 使い方

たたずむ老婆

つい先日、久し振りに従兄と会い、その時に従兄本人から聞いた話…。

従兄の息子(二十歳)は関西の大学に通っている。

従って、学校の近くにマンションを借りていた。

従兄は言う…。

『このご時世、仕送りも馬鹿になんねぇんだ。あと2年あると思うと気が滅入るよ。』と嘆いていた。

話が進むに連れ、その息子の住むマンションであったある事を語り始めた。

従兄の息子、篤(仮名)の住む部屋は一番手前の角部屋。

学校が終わると週4日のアルバイトに明け暮れていた。夕方6時〜深夜0時まで…。実質6時間の立ち仕事は二十歳の若者であっても、学校が終わって直ぐなので、部屋に戻るとバタンキューらしい。

ある夜、いつものようにバイトから帰って来ると同じ階に住む、お婆さんが自分の部屋の前でたたずんでいた。

(こんな夜中に、どうしたんだろう…。)

そう不思議に思ったが、あまりジッと見るのも失礼なので軽く会釈をして(俯いていたそうだが一応…)部屋に入った。

しかし、その日を境に不思議な事が起こり出す。

ある日、そのお婆さんの部屋から《パン!パン!》と薄い鉄板を叩くような音が聞こえてきたらしく、篤はドアの前に行き耳を傾けた。

《パン!パン!パン!パン!》

ずっと鳴っている訳では無いが時折、聞こえる。

(中でなんか作ってるのかな?)

部屋に戻ろうと振り返った瞬間!

『何か御用ですか?』

篤の後ろにいたのは初老の男性だった。篤は驚きながらも、

『いや、何か叩くような音がしたんで…。お婆さんに何かあったのかなと思って…。』

男性は顔つきが変わり、

『余計な事はせんでええ!』

そう言って部屋に入って行った。

(なんだ!この間の事があったから心配しただけなのに。)

それから数日、やはり深夜帰るとお婆さんは自分の部屋の前でたたずんでいる。

あまりにも頻繁に目撃するので、篤は管理人さんに相談したそうだ。

『あの〇〇〇号室のお婆さん、僕が帰るといつも自分の部屋の前で俯いて立っているんです。

息子さんに虐待でもされているんじゃないでしょいか?』

すると管理人さんは、

『あぁ、あの男性は息子さんと違います。何年か前に籍を入れた言ってましたなぁ…。列記とした旦那さんですよ。

ご心配なら、旦那さんに会った時にでも言っておきます。』

それを聞いて一安心した。

ある日の夕方、バイトも無く買い物をして部屋に戻ると、篤の部屋の前にあの男性がいた。

『管理人から聞いたんやけど、婆さんが夜…外に出とるんか!』

いきなり言って来た。

しかし、怒鳴るんでもなくむしろ怯えているかにも見えた。

『えぇ…。僕も毎日では無いですが、たまにお見受けするもんで、管理人さんに相談したんです。』

毅然な態度で話すと男性は、

『そうですか…。ご、ご迷惑…おかけしましたなぁ…。』

俯き加減で部屋に戻って行った。心無しか、その背中は震えていたそうだ。

季節も温かくなり始めた頃、マンションの住人達が異変に気付き出した。

マンション全体にする異臭騒ぎ。その臭いは篤の住む階から臭って来ている。

あまりの臭さに管理人に調べるよう、伝えたところ臭いの元は、あのお婆さんの部屋からだと解った。

本当に耐えられない臭いだったらしく、篤は友達の家に身を寄せていた。

数日後、テレビを見てビックリ

自分の住むマンションがテレビに出ていた。

内容は…。

女性(88歳)は病気で数ヶ月前に死んでいた。同居している男性(63歳)は葬式を出すお金が無く、どうしようか考えている間に時間だけが過ぎ、こういう形で発覚したそうだ。

籍は入って無く、内縁の夫だった。

インタビューには管理人さんが出ていたらしい…。

勿論、篤は他のマンションに引っ越しをした。

しかし、篤は引っ越しの前夜に見てしまったそうだ。

自分の部屋の前で悲しそうにたたずむお婆さんを…。

【完】

また、短い話でごめんなさい。

怖い話投稿:ホラーテラー 元・悪ガキさん  

Concrete
コメント怖い
0
1
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ