短編2
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停滞

先輩はとても怖い話が好きでよく話しを聞かせてもらっていた。心霊スポットにも同行させてもらったりしていた仲だ。

そんな中の一つの話。

行事が目白押しの春頃だった。色々な準備などに追われ慌ただしい毎日を送っていた時、件の先輩が声を掛けてきた。

それも唐突に、運動盲って知ってるか?と。

突然だった為にうまくリアクションが取れずに居たがいつもの事。僕らは目で合図をすると他の生徒の目を盗んでそそくさと校舎の影に腰掛けた。

で、なんですか?と聞くといつものニヤニヤ顔。実はな、と言葉を切った

一昨日なんだが町で買い物してたんだ。何を?そこ突っ込むなよ。んでな、交差点を渡ってる時ふと気づいたんだ。停まってるんだ。

はぁ? 意味が分からずイライラした。

まぁ聞け、停まってるんだよ。全て。人も車も。まるで運動盲の世界だ。

いやいや、運動盲って動いてる物が見えない障害でしょ?先輩視覚障害なんてないでしょう?

うん、ない。だから驚いた。そもそも全ての物が停まってるなんてありえないだろ?

確かにおかしかった…先輩の話を要約すればとにかく全ての人間や交差点内の車が停まっていたらしい。普通に考えてそんな事はありえない。人は誰かしら常に動いているし車だって青信号になれば動く。全てが停まっていた、まるで全員が示し合わせたかのように。

あの…薬ですか?

バカ言えよ。と流された。

本当に運動盲の世界の様だったよ、真剣な顔でぼそりと呟いた。確かに動いている物を認識出来ない運動盲の世界みたいだけどそれとはまた別。異質だね。本当に異空間にでも迷い込んだかと思った。

白昼夢でも見たんじゃないですか?とちゃかした

かもな。一息吐き繋げた

だって皆動きもせず俺のこと見てニタニタ笑ってるんだぜ?

ゾクリとした。全身の血液が氷のように冷たくなる感覚。

僕は言葉を発せなかった。身動きさえ出来ない程緊張していた。

でもまあ大丈夫だったよ。

先輩のあっけらかんとした口調で我に返った。

クラクションの音が鳴って皆動き出したよ。なんだったんだろな?あれ。ははは

僕はとにかく恐ろしかった。彼が体験した世界が。例え全ての人が示し合わせ陥れたとしても、例え全てマネキンだったとしても、例え彼が狂ったのだとしても。どれも恐ろしい。

願わくばそんな経験したくはないと祈った。

怖い話投稿:ホラーテラー 雪さん  

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