中編3
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人それぞれ

中学時代の同級生A君の話。

彼は小学校の頃から頭も良く、中学に入ってもテストは学年で常に10位以内になり、中学卒業近くの頃は1位にもなっていた。

中学卒業後は、県内でトップクラスの進学高校へ入学。

そこでも学年で上位だったらしい。

そのまま大学も、有名どころを現役合格。

国連英検特Aをはじめ、いろんな上位資格も取得していた。

「あいつすげえなあ」

同郷の俺らの間で、出世頭になるのは確実だと思っていた。

ところが、大学に入って2年目頃から、だんだん学校に行かなくなり、いつの間にか地元に帰ってきた。

何があったのか聞くと、だんだん頭にモヤが掛かった状態になり、焦燥感に襲われて、

勉強はおろか、日常生活すら辛かったとか。

「新しいことがさっぱり覚えられなくなったんだよ」

とりあえず、地元に帰ってきて家具店のバイトを始めたけど、

仕事教えられても全然覚えられず、

「あんた○○大学に行ってたんだろ?」と呆れられる始末。

おまけに、覚えられないばかりか、商品の名前や、他の人の名前も覚え間違いばかりし、

店の責任者の人から、辞めて欲しいと言われて、バイトは終了。

その話聞いて、まさかと思ったが、こうやって面と向かって会話してても

ボーッとして、どこか遠くを見て心ここにあらずという感じで、

昔からの友人の俺が言うのもなんだけど、ちょっと近寄りがたい人になったなと思った。

思い当たる節があるのだが、言い辛い。

どうしようか迷っていたら、彼の方から先に言ってきた。

「鬱病かもしれないなと思って、何箇所か病院行ったけど、貰った薬飲んでも眠くなってくるから止めた。

 ああいうのって、気分は楽になるけど、要は鈍感になってるだけだし。」

ああ、やっぱり鬱病なのか?

俺、詳しくないから一般論になっちゃうけど

病院でちゃんと治療して貰うのに越した事はないんじゃないか?と言った。

「いいんだよもうどうでも。変に薬飲んでると、体が重く感じるし、朝起きられないし」

うまくいかなくて、病院に不信感すら抱いているのではないか…。

しかし、彼自身がそう言うなら、これ以上無理強いするのも悪い気がするから止めておいた。

それから4年間の間に、彼はバイトや契約社員を何箇所かやったが、

どこも続かず、転々としていた。

仕事が覚えられず、覚えたと思ってても覚え違いも多く、ボーッとしている時も多く、

どこでも呆れられて、干されて嫌になって辞めるか、その前に先方から首切られるか、

どちらかのパターンだった。

その間も、たまに彼の所に遊びに行った。

行くたびに気になったが、本棚を見ると、呪術や神秘学などの書籍が異常に増えてきた。

会話の内容も、オカルトめいたネタを出すことが増えてきた。

聞いていて感じたが、今の彼は、そういう方面には興味津々のようである。

仕事などとは違い、オカルト路線の、特に自分の興味持った事柄は覚えられるらしい。

俺と同じ部屋に居ても、会話途中でいきなり何かを思い出したように、パソコンに向かい、海外のサイトを見たりしている。

元から英語が得意で、ドイツ語も多少出来るため、そちらの国のオカルト情報などもある程度読めるようだ。

かと思えば、会話途中で腕組みをして、それまでの話に全然関係ないのに、いきなり

「なあ、幽霊ってやっぱり実在するのかな」

と、うつむき加減で大真面目に言い出したりする。

彼とはだんだん話も合わなくなってきて、もう3年くらい会わなくなった。

他の同級生からの伝聞に依れば、ますますオカルト路線に傾斜して、古代神話や悪魔主義の方面にも関心を持ってきたとか。

今じゃバイトすらしておらず、部屋に居るか、近所をぶらぶらしているか程度らしい。

どこでどう人生のルートが曲がってきたのかわからないが、彼はこの先どうするのだろうか。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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