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中編4
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寒い旅館

今から2年程前の話。

当日私は運送関係の仕事をしており、関西から東北地方へと荷物を運んでいた。

運び先はとある工場で、おもに薬品関係の物を製作している所だ。

何といっても工場の周りは緑に囲まれていて、山の紅葉が凄く綺麗な場所だった。

普段はごちゃごちゃしている町に住んでいる為、ここに来ることが何よりの楽しみだった。

そんな私にはもう一つ楽しみがあった。

旅館だ。

運送業をしている人達が使う専用ではないが、ほぼ専用といった旅館がある。

飯は無いのだが、格安だ。

何といっても自然を一望できる露天風呂。

これこそが私の最大の楽しみだ。

旅館は本館と旧館に別れていて、あまり客が来ないのだろう、旧館の方はほぼ使われていなかった。

旅館で一泊するないなやまた関西に戻る。

毎日それの繰り返しだ。

家族がいれば、仕事が離婚の原因になるだろう。

春に入社して10ヶ月程経った頃、日本は冬になり工場に行くときにはタイヤにチェーンを巻いて行っていた。

雪が積もっているからだ。

冬は本当に大変で、大雪が降れば高速道路は通行止め、山も通行止め。

かなり足止めを食った時もあった。

そんな真冬の日。

風邪を引いたのか、頭が少し痛くてクシャミや鼻水が止まらない。

あいにく熱はなく、仕事を休む訳には行かなかった。

関西から出発して、北陸地方に入ろうとした時、雪が降ってきた。

パーキングエリアでチェーンを巻き、どんどん目的地まで進んだ。

交通渋滞に巻き込まれながらも、なんとか目的地に着いた。

荷物を降ろして旅館に向かった。

旅館に着くと、衝撃的な事を言われた。

本館がいっぱいです、旧館になりますが宜しいですか?

なんと何らかの団体客がいるようで珍しくも、否初めて本館がいっぱいになった所を見た。

仕方なく旧館に泊まる事に。

旧館に着くと、あまり使われていないのが良くわかる。

埃がまっているあの独特の匂いが鼻を刺した。

木造は木造でも、今にも潰れそうな木造だ、歩く度にギシギシと音をたてている。

本日、旧館に泊まるのは私1人だそうだ。

少し怖い気もしたが、風邪で頭が痛かった為、どうでもよかった。

床の間に着くとお気に入りの風呂にも入らずに寝てしまった。

疲れていたのだろう、目をつぶった瞬間から記憶が無かった。

ギシギシ…ギシギシ。

誰かの足音で目が覚めた。時計を見ると午前2時。

なんだよ…こんな夜中に、私がむくっと起き上がると足音が止まった。

なんだ?

私は不思議に思い、廊下に出てみた。

先が見えない暗さがなんともいえぬ怖さを醸し出していた。

シーンと静まりかえり、物音1つ聞こえない。

時折すきま風の音が聞こえる。

ォォォオオオォォォ

ゾクゾクと足から鳥肌がたった。

何もないな…。

そう言い聞かせまた布団に入る。

ギシギシ…ギシギシ。

やっぱり何かいる。

恐怖のあまり布団から出る事が出来なかった。

するとドアの向こうから声がする。

低いテレビでたまに見るスローモーションの時のような声だ。

寒い…寒い…寒い。

お兄ちゃん寒い。

お母ちゃん寒い。

おじいちゃん寒い。

おばあちゃん寒い。

私は恐怖のあまり泣きまくっていた。

足も手もガタガタ震え、息も出来ないくらい寒かった。

20分くらいその状態が続いた時、ドアの向こうから違う声が聞こえてきた。

お客さん大丈夫ですか?

お客さん大丈夫ですか?

店の人が来てくれたのか。

私はドアの扉を開けた。

するとそこには女将さんであろう着物を着た人が立っていた。

顔は真っ白で、綺麗な顔立ちに細い体。

異常に身長が高い。

1㍍80くらいあるんじゃないだろうか。

大丈夫ですか?

はい大丈夫です。

わざわざすいません。

大丈夫ですぅか?

え?大丈夫…です。

その時私は考えた、普通連絡もしていないのに、こんな時間に客の部屋に来るかな?

ダぁイジョーぶぅデスか?

みるみる顔が崩れていく。

うわぁぁ!

大声で叫んだ。

オッヒッヒッヒ。

口が裂けた奇妙な笑いに気を失ってしまった。

気が付くとドアの前で倒れていた。

帰りぎわフロントに文句を行ってやろうと思い、真っ先にフロントに向かった。

するとおかしな事を言いだす。

お客様、昨日はお泊りになっていること聞いてませんが…。

え?

いやいや、ちゃんと案内してもらったんすけど…。

向こうもしらを切るいっぽうで、私は腹を立て宿泊簿を取り上げた。

載っていない…。

しかも本館はすかすかだった。

まるで意味が解らない。

内心?マークがいっぱいなのだが、何故か平謝りする私。

ふと、フロントの上に写真があるのが見えた。

歴代の女将が並んでいる。

私は鳥肌がが立った。

昨日の女は、紛れもなく初代の女将だった。

写真の中から昨日のようにこちらをみてるような気がした。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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