昔々のお話。
当時私が5〜6歳、弟が3歳頃住んでいた家の裏に、踏切があった。
随分と昔なので記憶が曖昧だが、今のように踏切に柵やフェンスなんかなく、普通に線路上へ入れたと記憶している。
弟にも私にも、いつも遊んでいる近所の子供達がいて、その日も弟は近所の子達と踏切付近で遊んでいた。
夕方、私と母が家にいると、近所のおじさんが血相をかえて家に飛びこんできた。
「○○くん(弟)が電車に轢かれた!!」
私も、母も、呆然。
急いで外へ飛び出した。
踏切付近には人だかり。
騒ぎの中で、女の人の泣き声と叫び声が聞こえる。
「A!いやぁ!どうして!」
その女の人をよく見ると、弟がいつも遊んでいた子の母親だった。
Aが……ということはやっぱり弟も……。
横で母も同じことを思っているのか、泣いている。
すると後ろから、
「ママ!」と聞き覚えのある幼い声が。
声のほうを向くと、父に抱かれる弟がいた。
なんでも、夕方前に弟は先に帰ったらしい。
家には帰らず、理由は忘れたが仕事が早く終わった父と一緒にいたと。
その日もやはりいつものようにA達と遊んでいて、もしも先に帰っていなければ…。
家に知らせに来てくれた近所のおじさんは、いつも弟がA達と遊んでいたために、弟も轢かれたと思ったらしい。
それでも、手放しでは喜べなかった。
それから何ヶ月か後、
踏切付近をAの母が徘徊する姿をよく見るようになった。
噂では精神的に病んでしまったAの母が、子供の誘拐未遂事件をおこしたらしい。
旦那さんが近所に頭を下げて回る姿をよくみた。
けれどあんな事故があった後では、誰も彼女を責められなかった。
それから少し経って、我が家はその地域から引っ越した。
引っ越した理由は、大人になってからも知らなかった。
二児の母になった私は、最近久しぶりに会った母に、理由を聞いた。
「ああ…、あの誘拐未遂の噂がでた後、Aのお母さんが○○(弟)を連れていこうとしてて…。
それがちょっと普通じゃなくて、必死に○○を踏切に連れていこうとするのよ。
○○くん、あそこで遊ぼうって。
そんなことが何回もあって、○○が心配になって引っ越したの。
きっといつも一緒に遊んでた○○だけが助かったことが、許せなかったんだろうね…。
気の毒だったわ…」
今も忘れられない悲しい出来事。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話