短編1
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天狗様

知り合いの話。

山道を歩いていると、頭上から「おーい」と誰かが呼んできた。

見上げても誰もいない。

首を傾げていると、すぐ背後から言葉がかけられた。

「どこに行くのだ?」

つい反射的に「近くの里の親戚だ」と答えてしまう。

すると見えない誰かはこう宣った。

「腰の酒をくれるなら運んでやろう」

確かに酒をぶら下げてはいたが、これはその親戚への手土産だ。

「いやそりゃダメだ・・・」と返す間もなく、いきなり背中から抱き上げられる。

目の前の風景がグニャリと溶けたかと思うと、次の瞬間、見覚えある屋敷の

前に立っている自分に気がついたという。

慌てて腰をまさぐったが、酒瓶は綺麗に空となっていた。

しかもそこは、確かに親戚の屋敷ではあったけれど、その日彼が訪れる

予定の家ではなかった。親戚違いだ。

「間違えて配達された上に、足代までしっかり取られちまった。

 まったく、この山の天狗様はそそっかしくて困るよなぁ」

彼は頻りにそうぼやいていたという。

怖い話投稿:ホラーテラー 雷斗忍愚さん  

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