中編4
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大雨の深夜、タクシーで

こんばんは。

さ、さ…どうぞ。

ドア閉めますね。

いやあ、雨の中遅くまでお疲れさまでした。

○○南ですね。はい、かしこまりました。

じゃあ、○○通りをまっすぐ行かせていただきます。

ごめんなさい…ナビも付いてなくて。

とにかく、メカに弱いもんですから…

「ずいぶん殺風景なタクシーだな…」なんてよく言われちゃいましてね。

それにしても、すごい雨だなぁ…

お客さん、かなり濡れちゃいましたでしょ?

今日の深夜から明日の朝にかけて雨?

あ、そうですか…天気予報で言ってましたか…

すみません。テレビならまだしも、ラジオもあまり聴かない方でして。

だめですよね…天気予報くらいチェックしとかなきゃ。

ちょっと、ワイパー早くしますね。

え!?

今日みたいな場所で客乗せることなんてないだろうって?

いや、お客さん…ありますよ。

おそこが先祖代々の墓地だって方はけっこういます。

著名人も多く眠ってらっしゃるとかで、ファンの方たちがいまだにお参りされますしね。

まあ、たしかにこの時間となると…

あまりないかなぁ…?

あっ、すみません…

でも私も出勤したところだったし、

乗車いただいた場所がどこであろうと、

ほんと今日はお客さん、ありがたいですよ。

え!?

こんな夜は恐い体験談をお聞きになりたい…?

霊感とか、幽霊とか、そういう類いですか…

私のですか…?

す、すみません…

そういう感って、私まったくありませんでして…

私、目の前から知った人が歩いてきてもわからないくらい

鈍感でしてね。ほんとおはずかしいばかりで…

あっ…! 

でも昔、仲間からは聞いたことはあります。

それでもよろしいですか?

以前、港区の大火災になったホテルご存知ですよね?

そ、そうです、そうです…

あの火災で何人も亡くなられましたよね?

それから一年後くらいのことだったかな…

例のホテル跡地の前でですね…

仲間があるタクシーの後ろについてたそうなんですが、

前の車、誰もいないのにドア開けてメーターあげて

行っちゃったっていうんですよ。

その話聞いた時は、さすがにゾクッとしましたね。

あとですね…

別の仲間の話で、

深夜、若い女性を乗せたそうなんです。

道案内するから○○区の家まで急いで行ってほしいって言われて、

で、すっ飛ばして着いたと思ったら、

○○霊園の前だったそうで、

料金もらおうと思ったら、後部座席に誰もいなかったって…

出たっ!と思って、

ゾッとして、急いで発車しようと思ったら、

車の周りを老人や、子供や、兵隊の姿してる人や…

とにかく、大勢に車ごと取り囲まれたっていうんですよ。

なんかね…

『ありがとう…ありがとう…』って、

全員が頭下げてたように見えたって、

仲間は言ってましたけどね…

あの話も恐かったなぁ…

ハハハ…よくある話ですか?

ご、ごめんなさい。

じゃあ、全部ハッタリですかね…

でも、その仲間ですがね…

それからですよ…病気がちになっちゃいましてね。

「あの霊園は出る…あそこは怖い…」って、

青白い顔色して、いつも言ってました。

ヤツ、そのうち辞めちゃいました。

今どうしてるかなあ…

あっ…

事故ですね…

うわぁ、こりゃひどいなぁ…

同じ業界のこんな場面、見たくないなあ。

これだけ前見えないんだから、もっとスピード落とさなきゃ…

スリップだってあるんだから…

お客さん、す、すみません…

ちょうど迂回路知ってますから、そっちから行きます。

この道はあんまり通りたくないけど、

お客さんがお急ぎの時は、たまに通るんですよ。

都内でもここまで急勾配の道ってあんまりないですからね。

この下りがね…ジェットコースターみたいで、恐いんですよ。

今日みたいな雨の日だと特にね…

アクセル踏まなくてもこんなにスピード出ちゃう道って、

ほんとめずらしいですよ。

あぁ、恐い…

ほら、このとおり…別の広い通りに出られるんです。

よかった…もう大丈夫です。

いやぁ、ご、ごめんなさい。

嫌な場面に遭遇させちゃって…

でも、あの事故ったタクシー、何型だったのかなぁ…

あっ、血液型のことです。

失礼ですが、お客さんは?

あっ、A型ですか。私と同じです。

そ、そうなんです…慎重派です。

業界では、B型の事故率って、高いそうなんです。

けっこう無茶するタイプの運転手が多いそうでしてね。

でも、稼ぐ運転手もB型が多いって話です。

ところかまわずお客さん乗せちゃうからですかね…

自慢じゃないけど、私なんて恐がりだから、

無茶してまで稼ごうなんてできないですよ。

さっきみたいな目に遭いたくないですからね。

ありゃ、痛いだろうな…

逝っちゃうだろうなぁ…

ハハハ…ご、ごめんなさい。

偉そうなこと言って申し訳ありませんけどね。

まがりなりにも、この道40年ですからね。

なんとなくわかるんです。

私だって一度だけやっちゃったことありますから。

それからですよ…

事故った運転手さんのその後がなんとなくわかるようになったのは。

あの時はね…

前のトラックがね、夜なのにライト点けてなかったんです。

今夜みたいに大雨の夜でした。

ありゃ、わからなかったなぁ…

さっきの下り坂でのことです。

アクセルも踏まなかったのに…

気がつけば、前のトラックが急ブレーキです。

さっきの運転手さんはつらいだろうけど…

私の時はまだよかった。

とにかく早かった…

あれだけひどく潰れたのに、

痛くもかゆくも、なんにもなかったですからねぇ…

(終)

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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