中編4
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バイクの話で申し訳ないんですが。

一昨年の夏,北海道にツーリングに行ったんです。

あさってはいよいよ東京に帰るっていう日のことです。ちょっと足を延ばしすぎてしまったんですね。

夕方頃に着いた街で一泊すればよかったのに,「もうちょっと先まで行ってやろう」

なんて欲をかいたのが間違いだった。行けども行けども,次の街なんて見えてこないんです。

街どころか,人家すらいっこうに見当たらない。日もどんどん暮れてくる。

「そのうちに,泊まるところぐらい見つかるだろう」なんて考えたのが,いけなかった。北海道の広さを,甘く見ていました。

星明りだけの,ほとんど真っ暗闇の中を,ずーっと一人で走っていました。

そのうち、前方に大きな建物が見えてきました。最初は,学校だと思ったんです。

よく考えれば,こんなド田舎に,そんなに大きな学校があるわけないんですけどね。

(今夜はここの軒先で野宿させてもらおう)と思って,敷地の中に入っていきました。

敷地に入ってみると,どうやら学校ではなさそうです。(どこかの会社の研究所かな?)とも思いました。

鉄筋コンクリートの,比較的大きな,無愛想な建物なんです。

灯りも何にもついていなくて,建物のシルエットだけが,星空をバックにして黒く浮かび上がっている。

それにしても,人間社会の生活に関わっているような匂いが,全く感じられない建物なんですよね。

ところが近づいてみると,中から「ザワザワ,ガヤガヤ」と,大勢の人がいるようなざわめきが聞こえてくる。

(ここはどこかの会社の社宅かもしれいな。事情を話せば,泊めてもらえるかも)

なんて呑気なことを考えて,ノコノコ近づいて行きました。

でもね,そこでふと足が止まったんですよ。「おかしいぞ」と思って。

だって変ですよね。建物には,灯り一つついていないんですよ。

「非常口」の緑色のランプが見えるだけで,窓は全部真っ暗なんです。

時計を見たら,夜中の一時を過ぎている。そんな時間に,大勢の人間が起きてることなんて,普通はあんまりないですよね。

それなのに,相変わらず中からは「ザワザワ,ガヤガヤ」聞こえてくる。

最初は「宴会でもやってるのかな」なんて思ったんだけど,どうもそんな楽しそうな雰囲気じゃない。

大勢の人間が,めいめい好き勝手なことをつぶやいている。

ひょっとしたら,みんなして念仏でも唱えているんじゃなかろうか……。そんな感じなんです。

……気配って,確かに感じるんですね。

私のすぐ目の前,1メートルばかりのところに,建物の出入り口があります。

粗末な鉄製のドアで,上に「非常口」の緑色のランプがある。

その灯りだけが,辺りをボーっと照らしている。

そのドアの向こうに誰かがいるような気配が,はっきりと感じられるんです。

(いる。絶対にいる。間違いなくこのドアのすぐ向こうに,誰かが立っている……)

くり返しますけど,私とドアの距離が,ほんの1メートルですよ。

そのドアのすぐ向こうに,へばりつくようにして誰かが立っている。

見たわけじゃないけれど,確かに感じるんです。

そして建物の中からは,相変わらず「ザワザワ,ガヤガヤ……」

その頃には,大体状況が把握できるようになりました。

人がいるのは,ドアのところだけじゃない。

真っ暗な窓という窓の向こうに,大勢の人がいて,みんなで私を見つめているようなんです。

ブワー! って,一瞬にして全身の毛が逆立ちました。

バイクのところまで,すっ飛んで帰りましたよ。

ブルブル震える手でキーを差し込もうとしたんだけれどなかなか入らない。

やっとのことでエンジンがかかったら,後はもう一目散。絶対にミラーを見ないようにして走り続けました。

どれほど走ったのか記憶がないけど,ようやく前方に赤いランプが見えてきた。派出所でした。

お巡りさんは,いました。考えてみれば,

ここ七,八時間の間に,ようやく出会えた本物の人間です。

私はよっぽど蒼白な顔をしていたらしくてお巡りさんは,最初私が犯罪にでも巻き込まれたのかと思ったようです。

ゆっくり事情を聞いてくれました。しかし私の話を聞いた後,彼は同僚と額を突き合わせて,

何やらボソボソと話してるんです。「ウソだろ?」「マジかよー!」なんて小声で言ってるのが,聞こえてくる。

目の前でそんなふうに言われたら,誰だって気になりますよね。

私は,「どういうことなんですか? 教えてください!」って聞きました。

するとお巡りさんは,私の顔をまじまじと見つめて,こう言ったんです。

「君ね,この街道沿いにある大きな建物っていったら,一つしかないんだけど,それって火葬場なんだよ……」

怖い話投稿:ホラーテラー miちゃまさん  

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これは怖いね。