短編2
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呪詞

町に特殊な婆さんが居た。

と言っても1度しか会った事は無い。

普通の寡婦だった婆さんが特殊になったのは昭和30年代。

農作業中に雷が直撃した。当時の新聞に載ってるかもしれない。

生死の境から町へ戻ってきた婆さんは、予言が出来るようになっていた。

「世の中の全部が見える」

それが100%当たる。

天気、無くし物、見合いから病気、霊障まで。

初めは町の近所の人が噂をした。

有名になるにつれ、何時間もかけて婆さんに会いに行く人が増えた。

でも婆さんの生活は変わらない極貧生活。

金を一円も取らないからだ。

婆さんは

「金じゃ俺の眼は見えねえ。代わりに貰うものはちゃんとアンタから貰ってるぞ。」

と言っていた。

気味悪くなってきた近所の人は、婆さんと孫娘(A)から距離をとりだした。

遠巻きにして疎ましがる。

怖がる。

なのに用がある時は行く。それ以外は腫れ物に触る扱い。孫娘にも同じ扱いだ。

婆さんはある日

「俺は○月○日に消える。世話になった返しはするから」と近所へ言い出した。

変な事を言いだした、と思ったら本当に予言の日に倒れてそのまま没した。

当時のカルテは脳卒中。

(看護師の噂話から)

問題はここから。

婆さんは

「生き死には判るが教えられない。人の境を超える事になる」

と人の生死には頑として答えなかった。

その婆さんが自ら、人の境を超えて伝えた自分の没日。

婆さんを冷遇してた人が一気に亡くなり始めた。

病気、事故、蒸発。

初めは偶然と言ってた町の人もソワソワし始めた。

亡くならなくても、破産に一家離散、など。

婆さんにマイナスの気持ちを持った人にはマイナスが降り掛かった。

怯えた人の中には町を出て引っ越した家もあった。

だけどダメ。

少なくとも3年以内に失業や病が降り掛かった悲惨な話だけが町に聞こえてきた。

その頃には泣き泣き町の予算で、他のおがみ屋を頼んだ。でも何人に頼んでも手に負えないと来てくれない。

婆さんの孫娘はますます腫れ物扱い。仲良く遊んでた自分も気になり、恐る恐る聞いた。

「婆ちゃん、怒ってる?」

Aは「アンタには怒ってないと思う。でも婆ちゃんに嫌な気を持つと怖いよ。」

と言った。

その後成長しAは絶対に戻るからと言いながら、高卒後に行方不明になったまま。

今だに当時の町資料を見ると、死亡者や転居がある時期から続出しているのがわかる。

婆ちゃんが怖い時にはこう言えば大丈夫、とAが教えてくれた。

短い意味不明の言葉。

おそらく一生忘れない。

今でもたまに唱えてる。

怖い話投稿:ホラーテラー ナオさん  

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