中編4
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ひっくり返った

『ひっくり返った』

この話は、親友Tの実体験。

俄かに信じがたい話であり、常識的に考えたら不謹慎な投稿かもしれない。

ただ、聞いてほしいんだ。

何かのヒントになるのなら。

幼なじみで、親友であるT。

当時17歳の彼は高校を中退し『鳶』の仕事に就いた。

籍は入れてないが良き伴侶と出逢い、1歳になる娘もいた。

順風満帆な生活、当時の彼は幸せだった。

俗に言う親バカだったが彼のノロケ話を聞いて、私も羨ましがったのを覚えている。

荒れている彼を知っていた分、落ち着いて良かった…安心したんだ。

そんな日常の中、彼に不幸が襲った。

仕事中の転落事故。

5階建ての建築物での作業中、組み立てをしている足場からの転落。

全身をコンクリートに打ちつけられた。

救急車で搬送され、手術が行われた。

全身8箇所の骨折。

重傷であったが命をとりとめた。

しかし彼はこの事故で大事な物を失ったんだ。

事故から1ヶ月後、Tの母親から事故の知らせをもらった。

彼が大怪我をした事、入院している事、そして精神的におかしくなっている事を…

外傷から異常を起こした可能性は低く、転落時のショックからとの説明を受けた。

私はすぐに彼の入院先に行き、面会をした。

……そこには、やんちゃなTの姿は無い。

目はうつろで、私を見ていない。

問いかけにも応えず時々唸るような奇声を発する。

幾度とない面会を繰り返し、時がたつにつれ傷も癒えた。

でも彼の精神は壊れたままだった。

内縁の妻は献身的に看病をし、いつか回復する。そう信じてた。

病院から施設に移りリハビリをするも、変化もなく数年の月日がたっていた。

私自身も自分の仕事、生活に追われ見舞いに行くことも無くなった…

忘れようとしてたのか…

ーーーーーーーーーーーーーーー

日々繰り返す日常

事故から5年目の夏、携帯に電話が入る。

着信……T

通話ボタンを押し、恐る恐る「はい」と応えた。

受話器越しに懐かしい声が響く。

「お前、何してんの?最近、見舞い来ねーし!あっあれか、女が出来たか?クックック。とりあえず話ある。こっちこいな」

「う、うん」

ツーツーツー

勢いよく家を飛び出し彼のいる施設に向かった。

続きです。

扉を開けると笑顔の彼がいた。家族が揃い、彼女も両親も泣いてた。

6歳になる娘を抱きかかえ、私に「ただいまっ」って言った。

「おかえり」と泣きながら応えた。

当時に比べるとかなり痩せてしまったが、屈託のない笑顔はTそのままだった。

後日、色々な話を聞いて驚かされた。

彼は精神に異常持ってから今までの記憶を全て覚えていた。

彼女の言葉も私の言葉も。

第三者的に見ていたらしい。

ここからはTの言葉。

あのさー話を理解し返答しようとするんだけど、『奴』に邪魔されるだ。

言葉があいつを通すことによって奇声に変わってる。

動こうとしても『奴』に押さえつけられてさ…

俺はそいつに支配されてたんだ。

怖かったよ

『奴』は姿を変える。蜘蛛になったり百足になったり…俺の苦手な物になりやがる。

…自分で作り出してたのかもな。

このままだったら死んでしまいたいって何度も思ったよ。

でも娘の成長が嬉しかったし、アイツが俺の事見捨てないでいてくれたからさ。

あと、お前もな。

あの日なんだけど…俺さあ、娘を膝の上に乗せられたのね。抱きしめたくて堪らなかった。

そしたら当然『奴』が俺を雁字搦めにする。俺、もう死んでもいいって位に、泣きながら力を振り絞ったんだ。娘を抱かせろって。そしたらソイツさあ、ブリって音立ててひっくり返えってやんの。

元に戻れずに足バタバタさせてさ。

そしたら体中の血液が流れ出すの感じて…気づいたら娘、抱きしめてた。

…そして今に至る。

感覚的に言うぞ、『ひっくり返ったんだ』

精神、体、脳みそ、ぜーんぶ何もかも。

そしてTは、今も幸せに暮らしている。

このような臨床例があるのかは知らないし、調べてもいない。

Tも医者に色々聞かれたらしいが詳しく話てはいないようだ。

実際に精神病を患っている方々には不謹慎な話だと思う。

心からお詫び致します。

こんな話、信じて貰えないかもしれない。

ただ、こんな『奇跡』もあるんだと伝えたかったんだ。

オチのない話に付き合ってくれてありがとう。

怖い話投稿:ホラーテラー そらっぺさん   

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