長編11
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10%以下のメッセージ

俺は幼い頃から幽霊が見える。

見たいんじゃない、見えてしまう。

そのせいか驚きは全く無く、もう慣れっこだ。

“心霊写真”というものに出くわした事はあるだろうか。

何気なく撮った写真に得体のしれない“何か”が写り込んでいる、という経験をされいている方は結構多いのかもしれない。

しかし、“心霊写真”と呼ばれる写真のほとんどは人間の誤認と言われている。

光の反射や影の加減等のせいで、見間違える要素としては十分ありえる事象だろう。

だが、なかには科学では解明できない不可解な写真もあるのは確かだ。

なぜ、写真という媒体に心霊現象が写り込むのかはわからないが、“彼ら”は意味もなく現れはしない。

きっと、そこにいる人間に何か、伝えたいメッセージがあるのだろう。

そのメッセージの意味が良かれあしかれ、だ。

だが、“彼ら”は意味のないメッセージを伝えはしない。

“彼ら”は必ずあなたに気づく様に、囁くように写真に現れ、何かを残していく。

これはそんなお話。

冬も終わりを告げ、街は春に向け活気づいていた。

並木を見ると、小さく蕾が膨らんでいる。

だが、まだまだ寒いのは事実だ。

寒さに弱い俺は、バイクに乗り、ユキ(彼女の名前)との待ち合わせ場所のファミレスへ向かった。

今日はデートではなく、ユキの後輩が悩んでおり、俺に相談に乗って欲しい、という事だった。

ユキからの電話で唐突に言われただけなので、内容はまだ知らない。

だが、いくらユキの仲間とはいえ、何で何の面識もない俺が?という感じだったが、ユキが不機嫌になると余計めんどくさいので、渋々引き受けた。

ファミレスについた俺は、ユキの手振りに気づき、席に腰を下ろした。

ユ「紹介するね。高校の後輩でカナっていうの」

カ「初めまして。今日はわざわざ来て頂いてありがとうございます」

俺「どーも。それで話って」

カ「‥あの、ユキさんから彼氏さんがすごい霊感強いって聞いてて。だから‥きっと私の事もわかって下さるんじゃないかと思って、思いきってユキさんにお願いしたんです」

‥‥霊感?

ユキの奴、余計な事話したな。

嫌な予感が俺の身体中を駆けずり回った。

俺はユキを睨み、深く溜息をついた。

ユ「ごめんね。だって内容話したら、絶対来てくれなかったでしょ?お願い。聞いてあげて」

俺「聞くだけな‥」

カ「なんか‥すみません‥。あの、この写真見て貰えますか?」

カナはそう言いながら、1枚の写真をテーブルに置いた。

俺「‥写真?もしかして‥心霊写真?」

カ「はい」

俺「心霊写真かー‥気のせいじゃねぇの?」

カ「お願いします‥何かわかって下さると思って」

俺「ん~‥」

見た所、普通の写真だ。

何の変哲もない、ありふれたごく普通の日常を撮った写真。

カナの笑顔が印象的だった。

だが、不可解なモノがそこに写り込んでいる事に俺は気づいた。

俺「‥あ。これ、顔‥か?」

カ「はい」

カナがピースを作っている手の横に、女の顔“らしき”モノが写り込んでいた。

俺は霊感が強い為、霊を呼び寄せやすい体質らしく、度々この手の写真に出くわすことがあるから慣れている。

カ「‥これも見て下さい」

カナは俯きながらそう言うと、20枚程の写真をカバンから取り出した。

その内1枚の写真を見た俺は、ギョッとした。

‥あの、同じ“女の顔”がカナの真横に写っていた。

俺はコーヒーを置き、慌てて他の写真も見た。

すると、どの写真にもその“女の顔”があった。

カナが一緒に撮った、彼氏や友達、家族‥どの写真にもだ。

これも気づいた事だが、写真の日付が最近になればなるほど、“顔”がはっきり写っていた。

さすがの俺もこんなのは初めてだった。

ユ「こわっ‥」

カ「‥これでも私の気のせいでしょうか?」

カナは僅かに震えながら俺を真っ直ぐ見つめる。

俺「‥いつから写り込む様になった?」

カ「気づいたのは1ヶ月位前です」

俺「ここにある写真で、一番古い日付が〇月△日ってある。この写真で全部?」

カナは黙って頷いた。

俺「って事は単純に、〇月△日からこいつは写真に写り込んでた事になるか。

‥で、問題は何で“付きまとわられてるのか”って事だよな。何か心当たりある?何でもいい。この顔に見覚えのある知り合いがいるとか、誰か知り合いに不幸があった人がいるとか」

カ「いえ‥わかりません。こんな人知り合いにいませんし、誰も不幸にあってませんし‥毎年、夏になれば先祖のお墓参りにも行ってます。本当に、心当たりがないんです」

俺「じゃあ“そいつ”が君の写真に写り込む様になって、何か変わった事は?」

カ「夢を‥変な夢をよく見る様になりました」

俺「夢?」

カ「はい。真っ白な世界で‥すごく綺麗な所にいて、そして小さな女の子が、何か私に言うんです。顔がよく見えなくて何を言ってるのかもわからなくて‥私が話し掛けようとすると、いつもそこで目が覚めるんです」

俺「夢ねー‥」

カ「っていうか‥その‥見えるんですよね?幽霊的なモノが。‥今、いますか?」

俺「‥いや‥何も」

カ「あの‥何とかなりませんか?本当に怖いんです。幽霊や心霊現象なんて、今まで信じてませんでしたけど‥怖くて夜も眠れなくて」

俺「でも夢を見るだけで、被害っていう被害は何も遭ってないんだろ?」

カ「そうですけど‥何か不気味で」

俺「何とか‥って言われてもなぁ。ってかやっぱこういうのは俺に頼むより、寺とかの坊主に頼んだ方が良いし‥お門違いだろ」

カ「一応、何人かの霊媒師の方に相談はしたんですけど、なかなか要領を得なくて‥本当に、他に頼る人がいないんです。何とか、よろしくお願いします。その霊が何なのか、どうして私に付きまとうのか、知りたいんです」

ユ「今、この幽霊が何なのか調べられない?ほら、霊視的な事できないの?」

俺「こんなうるさい場所じゃ無理だな。集中しなきゃダメだ。しかもお前簡単に言うけどな、アレめっちゃ疲れんだぞ?その日の体調とかもあるし‥」

だがカナの本当に不安そうな顔を見ると、『嫌だ』なんて言える訳がなかった。

俺「まぁ‥あんま期待しないでな」

カ「ありがとうございます!どうか、よろしくお願いします」

俺は煙草を揉み消しながら、写真を手に取り見つめた。

写真からは何も悪意は感じなかったが、ただ、この霊が何か焦っている様な‥普通の浮遊霊なんかではない感覚がする。

この時に僅かだが、妙な違和感を感じていた。

ファミレスを後にし、俺はユキをバス停までバイクで送りに行った。

ユ「ねぇ、何とかカナを助けてあげられない?」

俺「何もできねーかもなぁ。だってこれ下手したら“徐霊”とかそういうレベルだよ。‥でもあの霊は、カナちゃんに常に付きまとってる訳じゃないみたいだ。その証拠にさっきは確かにいなかった」

ユ「あ、バス来た。とにかく、カナの件よろしくお願いね。バイトもあるし、大変だと思うけど、カナは大切な後輩なの。力になってあげて。わかってくれる?」

俺「わかってるよ。‥めんどくせーけど」

ユ「ありがとう」

次の日、俺はフォトグラファーをしている友人・杉田の所を訪ねた。

前に開いた写真個展が当たり、2つか3つの企業と契約する事ができ、仕事に忙殺されているのだが、杉田は俺の為に都合をつけてくれた。

杉「‥こりゃすげーな」

杉田は例の写真を、険しい顔つきで見ながらコーヒーをすすった。

ちなみに杉田は心霊肯定派だ。

カメラを扱うという仕事柄、“何か”が写真に写り込む事もあるのだと。

俺「フォトグラファーだろ。その写真どう思う?」

杉「いや‥こりゃ典型的な心霊写真‥だと思う。俺はもう何年も写真撮ってるけど、しかしここまでハッキリ写ってるのを見るのは初めてだ。しかも何枚も。」

俺「ニセモノって可能性はあるか?」

杉「それはないな。俺も最初それを疑って合成の跡がないかチェックしたんだが、極めて自然な状態で撮影されてるよ。細工も何もされてない」

俺「ってことはやっぱそうかぁ~‥めんどくせぇ~」

杉「うん。つまりこの“顔”が、あたかもその場にいた様に撮れてるって事だ。いや‥そうじゃなきゃむしろ不自然だよ。“10%以下”のレア物だわ」

俺「なんだよ“10%以下”って?」

杉「知ってるか?“心霊写真”と俗に呼ばれる写真の90%以上は人の勘違いって言われてる。例えばほら、新幹線や車を真正面から見るとなんとなく“顔”に見えるだろ?人は無意識の内にそう連想しちまうんだ」

俺「あぁ、10%以下ってそういう意味」

杉「科学じゃ説明できない現象って言ったらいいのかわからないけど。なんでこんな10%以下の写真が撮れると思う?」

俺「お前誰に聞いてんだよ。いいか、心霊写真てのは“念”の塊みてーなもんで、何かの意味があんだよ」

杉「そこなんだよな。“彼ら”は意味もなく写り込まないんだ。ちゃんと理由があるんだよ」

俺「その理由がわかりゃあ苦労しねーよ」

杉「まぁな。でも一つ言える事は、こいつはすごい執念を持ってる。だってこんな写真の量で、こんなにハッキリと写ってるんだ。この女の子に対する“何か”に相当固執してるんじゃないかな。

っていうかお前昔から霊感ハンパじゃねーじゃん。俺なんかよりその辺よっぽどわかるだろ?」

俺「別に俺は霊能探偵でもなんでもねーよ。ただ写真とか本当苦手なんだよなぁ‥こいつと会う事ができんなら、手っ取り早く直接話つけられんだけどな」

杉「おいおい。幽霊と会話するみたいに言うなよ」

俺は自宅へ帰るとベッドに写真を並べ、ぼんやり眺めていた。

改めて見てもやはり、別に危険がある霊ではなさそうだ。

しかし、これほどはっきりと写っているのに、表情がイマイチわからない。

哀しんでいるのか、怒っているのか‥無表情でもない。

俺「やるか」

決心した俺は、息をつき、じっと写真を見つめ、俗に言う“霊視”を試みた。

俺はこれを“コンタクト”と呼ぶが、これが非常に疲れる。

わかりやすく言うなら、長距離マラソンをしている様な感じだ。

霊能者が、パッパッと霊とコンタクトをしているのをよくTVで見かけるが、俺はあれが信じられない。

しかもその日の体調や気分にもよるから、結構面倒な作業だ。

頭を空っぽにし目を閉じた。

神経を研ぎ澄ませ心の中で霊に語りかける。

外から石焼き芋のスピーカーが流れる。

‥ダメだ‥もっと集中しろ

3分位経っただろうか。

耳から何も聞こえなくなった。

すると瞼の裏に光がぼんやりと浮かび上がり、小さな女の子が見えた。

ショートカットの、5歳にも満たない様な子供だった。

コンタクト(霊視)成功だった。

―――こいつがカナちゃんに纏う霊か。まいったな‥思ったよりガキだ

子供の霊はあまり幼過ぎる場合、話合う事が難しい。

得にこの様な写真を媒体としたコンタクトは難局を極める。

俺は、女の子に話しかけてみた。

俺(誰だ?名前は?)

子(‥‥‥)

俺(カナちゃんの夢の中にも出てきてんだろ?怖がってんぞ。何でカナちゃんについて回るんだ?)

子(カナ、危ないの)

俺(危ない?何が?)

子(カナは知らないの。でもカナ、おっぱいが悪いんだよ。死んじゃうかもしれない)

俺(‥おっぱい?ふざけてんのか?怒るぞ)

子(ふざけてないもん)

俺(お前は今どこにいる?カナちゃんの所か?)

子(カナのとこなんていけないよ)

俺(なんで行けない?それより名前は?誰なんだよお前?)

子(あたし、お名前がないの。それよりもカナ、危ないんだよ。お兄ちゃん、助けてあげて)

ヴーン‥ヴーン‥!

俺はケータイのバイブ音にハッとし、コンタクトから“こっち”へ引き戻された。

汗が頬をつたっている。

急激な疲労が体を襲い、力が入らなかった。

息を切らせながら、ボーッとした頭で女の子との会話やカナの話を考えていた。

すると俺はハッとした。

――そういう事か‥もしかしたら‥

やかましく鳴りつづけるケータイを見ると、ユキからの着信だった。

ユ「今から来れる?カナが‥。詳しい話はあとでするから。今、私の家にいるの」

俺「‥わかった‥俺も今行こうとしてたとこ。すぐ行くよ」

俺はクタクタの体にムチ打ち、バイクを30分程走らせた。

ユキの家に着くとカナは小さく震えていた。

俺「どうした?」

ユ「カナが‥自分の部屋で試しに写真撮ってみたんだって。そしたらこれが‥」

手渡された写真を見ると、カナの胸の辺りに覆いかぶさる様にその霊は写っていた。

よく見ると、この顔にあの子の面影がある。

これには正直、俺も鳥肌が立ってしまった。

カ「私ダメです‥呪われてるのかも。いつでもこの霊に見張られてるんです」

ユ「カナ、落ち着いて。ここは大丈夫だから」

カ「体が怠い‥寒気もする‥」

ユキは震えるカナを抱き抱える様になだめる。

ユ「カナすごい熱‥‥。写真撮り終わってから体調悪くなったんだって‥病院連れてかないと。ねぇ、これも霊のせいなの!?」

俺「なぁカナちゃん。どうやらこの霊は女の子らしいんだ。それも5歳にも満たない位の。心当たりあるか?」

カ「いえ‥」

俺「まぁいいや。一つ言えるのは、この子はカナちゃんにとり憑く悪霊でもなんでもないって事。とにかく病院に行こう。話はそこからだ。えーと‥外科だな」

ユ「え?熱なんだから内科でしょ」

俺「いいから俺の言う通りにしろ」

そして、その後の検査でカナが“乳がん”だということがわかった。

幸い、まだ初期段階で転移もない状態であり、乳房を切り取る事なく完治するとの事だった。

ただ、あと1ヶ月程医者に診せるのが遅かったらどうなるかわからなかったのだそうだ。

落ち着いた頃、俺とユキはカナの見舞いに行った。

ユ「カナ、本当に良かったね」

カ「ありがとうございます。お医者さんもすぐ退院できるって。『よく自覚症状もないのに乳がんだって気づいたね』って驚いてましたよ」

俺「あの子が警告してくれてなかったらヤバかったな」

カ「‥そのお話なんですけど、よく考えてみたら心当たりがありました。私、‥実は双子だったんです」

俺「へ?どういうこと?」

カナが、前に母親から聞いた話だそうだ。

カナは一卵性の双子だったのだが、出産時にカナの姉となるハズだった子が死産してしまい、カナだけ生きて生まれてきたのだと。

“名前”すらないまま亡くなってしまったのだという。

カ「死んでしまったけど、私には本当はお姉ちゃんがいたんですよ。悪霊でもなんでもなかった。天使だったんです。天使になって、私を助けてくれたんです。ありがとう‥お姉ちゃん」

カナは目に涙をいっぱいに溜めて、窓の向こうの空を仰いだ。

まるで、そこにあの子がいるかの様に。

辺りはすっかり暗くなり、病院を後にした俺はユキを家まで送った。

ユ「カナの事、本当にありがとね。でも、カナのお姉さんのことどうして見えなかったのかな」

俺「元々、あの子は成仏してたんだよ。昔じーさんから聞いた話だと、成仏した霊は、こっちの世界には来れないんだ。

どうりで見えねーハズだよな。

だけど、ここからは俺の想像だけど、“念”‥というか“想い”を手紙みたいにして、天国からカナちゃんに送ってたんじゃねぇかな。

写真であれ夢であれ、どんな手段を使ってもカナちゃんに“警告”したかったんだと思う。

死んでからも、天国からカナちゃんの事見守ってたんだよ、きっと。

まぁ死後の事なんて知らないけど」

それ以来、カナは妙な夢を見たり、写真に“あの子”が写るという事がなくなった。

昔から双子というのは“以心伝心”で、不思議なものだという。

もしかしたらカナが夢で見た不思議な世界は、姉がいる天国の光景だったのだろうか。

これからも、もしカナの身に何か起きたら、また“メッセージ”が天国から届くのかもしれない。

怖い話投稿:ホラーテラー 京太郎さん  

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