工務店に勤めているYさんが、とある一戸建てのリフォームの仕事を受けたときの話。
作業に入る前にYさんは部下をつれてその一戸建ての下見に訪れた。
その家に住む一家は、すでに家財道具を運び出し、仮住まいに引っ越していた。
まずはグルリと家の周りを回って外側の状態を確認し、次に家の中の状態確認のために入ると、図面を見ながらリフォームの箇所や、必要な資材、あるいはその量をチェックしながら見積もりを確認して回ったという。
チェックしながら、おかしなことに気がついた。
階段を登った二階には小さく短い廊下があり、その左右に洋室と和室への入り口があった。
図面上ではその突き当たりの壁には、採光用の小さな窓がついているはずなのだが、その窓がなく、壁だけになっている。
さらに、廊下はもう少し奥行きがあるように記されている。
図面と違うな……、とYさんは、首を捻った。
洋室に入って奥を見てみても、和室に入って奥を見てみても、廊下の突き当たりよりも少し奥に壁がある。
まてよ?見回った時との記憶が違うのか?と思ってもう一度外に出てみた。
確認すると、確かに二階の西側の壁には図面どおりに小さな窓がある。内側は違うのに、外側は図面どおりだ……。
もう一度中に入って二階に上がってみると、窓がないのではなく、窓のある壁の手前にもうひとつの壁があることがわかった。
これでは二階の廊下の奥行きが浅いはずだ……。
なでこんなことをやっているんだろう?
不思議に思ったYさんは、とりあえず確認作業だけを終えて、リフォームを始める日に調べてみることにした。
リフォーム初日、Yさんは車の中から大きな金槌を持って二階に上がった。
二、三人いた部下は、最初にただ立ち会うためだと思っていたのに、Yさんが金槌を持って家の中に入ってきたので、何事かとついてきた。
Yさん、Yさん、そんなもの持ち込んで、いったいなにを始める気ですか?
尋ねられたところでYさんも、確認してみないことにはなんとも言えなかった。
二階に上がると、早速、突き当たりの壁を金槌で軽く叩いてみた。
すると、まるでコンクリートブロックを叩いたときと同じような音が響く。
図面ではコンクリートブロックなどは使ってない。
Yさん、何ですかこの音?
Yさんは、答えることなく金槌で思い切り叩き続けると突然穴が開いた。
確かにコンクリートブロックだった。
その穴の向こうをさらに叩くと、小さな窓のある壁だ。
それにしても何でこんな風にしたんだろう?
そう思って中の周りを覗くと、採光窓の上に大きな御札が貼ってある。
さらによく見ると、天井付近の角の左右に一枚ずつ、その下の床近くの左右に一枚ずつ。
合計五枚の御札がぴったりと壁に貼ってあった。
それを隠すように造られていたのがこの壊したばっかりの壁だ。
この隠された奥行き、わずか五十センチ。
この五十センチを知らずに、施主さんがまたここに住むのか……。
Yさんは得も言われぬ怖さで鳥肌がたったという。
壁は綺麗にリフォームされた後、そのまま施主さんに引き渡されたという。
Yさんはこの仕事をしていると二、三年に一軒の割合で、このような何かを閉ざした家と出逢うのだという。
怖い話投稿:ホラーテラー 銀色の鷹さん
作者怖話