中編5
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40のボタン

ある男が判決を下された。

殺人容疑、「判決:ボタン40個」であるという。

近頃よくある話になったが、男は競馬でさんざん負けてその苛々で3人刺したという無差別殺人だ。

裁判の中で男は「どうせ死刑だろ。とっとと殺せ。」と思っていたため、判決の意味をよくわかっていなかった。

裁判が終わってすぐさま男は警察官に個室に連れて行かれた。

個室には何か分からない大型の機械とベッドがあった。

「ここに寝ろ。」

男は横にさせられ、脳波をはかるときのようにいろんな線を頭や体にテープでつながれた。

すると警察官が、「ここにボタンが40個ある。今からひとつ押すごとにお前を睡眠薬で眠らせる。それを40回繰り返せば釈放だ。」

訳がわからなかった。

3人殺っておいてただ単純作業をして逃がしてもらえるのか?

奥から研究員のような男が出てきた。

殺人犯の腕をとって、ボタンを押す音とともに睡眠薬を注射した。

最後に覚えているのは、研究員のあまりにも冷たい笑顔、そして時計が夕方6時ちょうどを指していることだった。

夢の中で目が覚めたが、本人は夢の中であることを自覚していない。

見慣れた光景、自宅だった。

テーブルの上には一人分の映画チケットがあった。

今日の夕方から放映のものだった。

時にすることもなかったため、映画に行くことにした。

映画のタイトルは「しりとり」。

いかにもつまらなそうだった。

こないだ「大日本人」というのを見たが、周りの人間が失敗作と言っていた割にはなかなか面白かった。

そんなことがまたあるのだろうと思い、半信半疑で映画館に向かう。

席はC-40だった。

40という数字で何かを思い出しそうになったが、もやのように消えうせた。

映写機に映像が映った。

まず、他の映画のCMがいくつか流れた。

「日本の映画やドラマは不良モノや青春・恋愛ものばかりでつまらん。」

そう思いながらメインの映画の開始を待った。

うんこをしたかったが、あえて我慢することにした。

映画がはじまった、オープニングテーマもなく唐突に。

そこには幼稚園児くらいの子供たちが30人ほど集まっていた。

全く汚れのない無垢な笑顔は輝きにあふれていた。

そこに一人の男がやって来た。

恰好を見ても幼稚園の先生という感じはしない。

子供たちを見るなり言った。

「は~いみなさ~ん。しりとりをしましょうか。」

子供たちはテンションを上げ騒ぎ始めた。

「じゃぁ最初は○○君ね。どうぞ。」

「とうふ。」

すると画面が真っ黒に切り替わり、豆腐に糸が繋がれていた。

その糸が左右に引っ張られ豆腐はばらばらになった。

また画面が切り替わりあの子供らの笑顔にあふれた。

「じゃぁ次、××さん。」

「ふ、ふ…ふね。」

画面が真っ黒に切り替わり、船に糸が繋がれていた。

糸は細いくせに左右への力で船は大破した。

頭の切れる殺人犯はピンときた。

「しりとりで出たものが次々に壊されていくだけの映像なんだ。」

次の子供は猫と答え、猫は気持ちいいほどに血を撒き散らして死んだ。

この後12~3人に順番が回った。

いい加減飽きてきて睡魔が襲う。夢の中であっても。

半分薄れた意識の中でかすかに子供の声は届いていた。

「◆●★▼。」

その瞬間殺人犯ははっきりと目を覚ました。

自分の名前が出たからだ。

次の瞬間、男の瞳は暗闇の中で開かれた。

体からかなりの数の糸が飛び出していて、どこか向こうへ繋がっていた。

男の中は恐怖で満たされ、自然と命乞いをしていた。

男の体は四方八方に飛び散った。

とてつもない痛みが駆け巡っていった。

我慢していたうんこが血を汚した。

そして現実の夢に目覚めた。

場所はベッドの上。

大量の汗、心臓はまだ落ち着いていなかった。

警察官が、「さぁ、次のボタンいくぞ!」

殺人犯が言葉を発する間もなく、ボタンの音とともに睡眠薬が注射された。

また夢に落ち、その中で目を覚ます。

目の前は闘技場のようだった。

向こうの門から仔イノシシのような怪物がいた。

周りはスタンドで囲まれていて、そのうえで見物客が騒いでいる。

突然仔イノシシが襲ってきた。

殺人犯はとにかく逃げた後、あたりをもう一度見回し電子ボードを見つけた。

そこには、「VS MURDER 28体目」とあった。

周りの客は双方を応援している。

どうやら自分が何体の怪物を倒せるのかを予想して賭け事をしているようだ。

手に持っていたピストルみたいな武器で攻撃した。

ありがたいことに仔イノシシは非常に弱く一発で仕留めた。

次の怪物が出てきて倒す。

この繰り返しが延々と続いた、そこで気付いた。

「自分が死なないと終わらない。」

傷もかなり増えてきて意識も朦朧としてきた。

何体倒しただろう?

電子ボードを見ようにももう首が上がらない。

最後の一撃、いつか経験したようなとてつもない痛み。

そして現実に変える。

また大量の汗にまみれ、今度が疲労が重くのしかかる。

「さぁ、次のボタンだ!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!これはどういうことなんだよ!」

殺人犯は警察官に真実を聞こうとした。

警察官は、「まぁ逃げられんことだし、話そうか。」

「ここに40のボタンがあるが、この一つ一つが夢に対応しているんだ。お前は今の二つのボタンで二つの夢を見た。その夢の結末は必ずお前の死につながっている。40終わるころにはお前は精神を完全に壊され、別の人間として生まれ変わるんだ。ある意味で今から俺たちはお前を殺す。覚悟しろ。」

「やめろ!やめてくれ!何でもするからそれだけは!!」

無慈悲にボタンの音が響き、注射された。

このとき殺人犯は知らなかった。

2回目目覚めた時まだ6時08分であったことを。

一つの夢が4分であるとすると、2時間40分で殺人犯の人格は変わる。

でも3人の被害者のこと考えたら軽いよね。

40の死を体験した男が日常に戻っていく。

なかまのたまり場を横切ったがだれも男に気付かない。

過酷な夢のせいで顔つきなどすっかり変っていたからだ。

怖い話投稿:ホラーテラー tkさん  

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