「しりとり」 ~真面目 Ver.~

中編3
  • 表示切替
  • 使い方

「しりとり」 ~真面目 Ver.~

普通の男がいた。

独り暮らしで彼女もいない。

要は特に刺激のない生活を送っているのだ。

急に刺激のある生活に転換しようとしても大きな労力がいる。

「このままだらだら行くのか…。」

後は働いて退職して独りで過ごしていくと考えると萎えてくる。

趣味なんかも特になかったため、毎日エロサイトに通う始末。

毎分溜息をせざるを得ない空気の中にいた。

そんなある日、ポストに封筒が入っていた。

中身は映画のチケット。

応募なんかした覚えはない。

しかし宛先はあっている。

送り主さえ分からずなんか気味が悪かった。

チケットを見てみると、映画のタイトル「しりとり」とある。

TVのCMでも観たことがない。

「なんやこれ…。」

明日上映になってるが、ここいらに映画館はない。

すると封筒からまたひらりと紙が落ちてきた。

拾い上げると映画館への地図だった。

しかも結構な距離だった。

だが、なぜか映画に無性に行きたくなった。

「…絶対に行こう!」、そう思った。

翌朝、準備を始めた。

遠足の前日のようにわくわくで眠れなかった。

家から出て移動中も「しりとり」という字が頭を回る。

映画館は大変賑わっており、さらに気分が高揚した。

スクリーンに何かが映しだされた瞬間、客は静まった。

あいさつ代わりのCMが何本か流れた。

子供のころ「学校の怪談」のCMが流れた時、目と耳を塞いだのをよく覚えている。

そんなCMの映画よりも今から始まるメイン映画のほうがはるかに楽しみになっていた。

映画がはじまった、オープニングテーマもなく唐突に。

そこには幼稚園児くらいの子供たちが30人ほど集まっていた。

全く汚れのない無垢な笑顔は輝きにあふれていた。

そこに一人の男がやって来た。

恰好を見ても幼稚園の先生という感じはしない。

子供たちを見るなり言った。

「は~いみなさ~ん。しりとりをしましょうか。」

子供たちはテンションを上げ騒ぎ始めた。

「じゃぁ最初は○○君ね。どうぞ。」

「とうふ。」

すると画面が真っ黒に切り替わり、豆腐に糸が繋がれていた。

その糸が左右に引っ張られ豆腐はばらばらになった。

また画面が切り替わりあの子供らの笑顔にあふれた。

「じゃぁ次、××さん。」

「ふ、ふ…ふね。」

画面が真っ黒に切り替わり、船に糸が繋がれていた。

糸は細いくせに左右への力で船は大破した。

頭の切れるその男はピンときた。

「しりとりで出たものが次々に壊されていくだけの映像なんだ。」

次の子供は猫と答え、猫は気持ちいいほどに血を撒き散らして死んだ。

この後12~3人に順番が回った。

いい加減飽きてきて睡魔が襲う。夢の中であっても。

半分薄れた意識の中でかすかに子供の声は届いていた。

「◆●★▼。」

その瞬間、男ははっきりと目を覚ました。

自分の名前が出たからだ。

次の瞬間、男の瞳は暗闇の中で開かれた。

体からかなりの数の糸が飛び出していて、どこか向こうへ繋がっていた。

男の中は恐怖で満たされ、自然と命乞いをしていた。

男の体は四方八方に飛び散った。

とてつもない痛みが駆け巡っていった。

目を開けると見慣れた光景。

ワープしたかのような錯覚だった。

起き上がろうとすると鋭い痛み。

それも体の外側・内側全部に。

自身の体を見てぞっとした。

手術でできた縫合の後のような傷が無数にある。

「うっ!うぁ~~~~~~~~!」

ツギハギ人形になった自分の体にあぜん。

鏡を見ると血の気が引いた。

顔にも糸の跡が山ほどある。

血が止まっていない傷も疎らにあった。

訳が分からなくなり、映画館を確かめに行った。

顔はボロボロなのでサングラス・マスク・帽子をしていった。

さっき映画館があった場所には何もなかった。

本当に何もなかったのだ。

「う…何だ、何だよこれ~~!!」

その場に血のついた糸屑を撒き散らしながら狂ったように叫んだ。

怖い話投稿:ホラーテラー tkさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ