中編6
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超能力

言う先入観を与えていたようだ。

「指輪しないんですか?」と聞いてきた彼女に、「金属アレルギーなんですよ~」と

答えると、続けて『でも、好き・・・』と心の声が聞こえてきた。

人に好かれることはいいことだとは思うが、「好き」と思いながら、彼女の笑って

いない目を見たときに、なぜか強烈な寒気を感じた。

その後、商談を終え、普段通りにお客様(彼女)をエレベーターの前まで案内し、

「ありがとうございました。宜しくお願いします。」と告げ、彼女は降りていった。

エレベーターの扉が閉まる瞬間、また『好き・・・』と心の声が聞こえてきた。

私はなんともいたたまれない気分になり、その後の仕事も手に付かす、今日は

早めにあがるかと、仕事の整理を始めた。

あらから整理がつき、6時半頃に帰宅しようとエレベーターに乗ったときに、突然

『まだかしら?』と心の声が聞こえてきた。       彼女だ!

なぜかは分からないが、彼女だと言うことは確信できた。私が降りてくるのをずっと

どこかで待っていたのだ。3時間以上も・・・。

私は怖くなり、途中の階で急いで降り、外が見える場所から彼女を探した。

いたっ! 会社のビルの斜め向かいにあるコンビニから、雑誌を立ち読みするふり

をして、こちらを伺っている彼女がいた。

私は半ばパニック状態だったが、誰に相談できる訳でもなく、何とか冷静さを保ち

非常階段を使って、ビルの裏側から抜け出した。

そのまま、地下鉄のりばへ下り、もう大丈夫だろうと、駅のホームで空いている

椅子に腰をかけた。

3分ほどして、家に向かう電車がやってきた。扉が開き、乗り込もうとした瞬間、

『見つけた』と彼女の心の声が聞こえた。もういい加減にしてほしかった。

直接、しつこいと言ってやりたかった。

タイミング的に、同じ電車に乗っているだろう彼女に「恐怖」よりも「怒り」が

こみ上げてきた。

その間も彼女からは『「○○駅』『○○駅』と私の降りる駅の名前が聞こえて来ていた。

私は決心し、いつもどおり駅をおり、改札を出た後に、普段噛みもしないガムを買う

ためにキオスクによった。少しゆっくり目に買い物を済ませ、ガムを一粒口に入れた

後に、改札から知らん顔して出てくる彼女に、あたかも偶然のように自分から声をかけた。

「○○さん! 先ほどは(商談)ありがとうございました。奇遇ですね~。今帰りですか?」

彼女の家が私の家とは正反対なのは知っていたが、わざとらしく聞いてみた。

すると彼女はうれしそうに笑いながら「こんちには~。奇遇ですね~。私はまだ仕事中

です。一軒取引先に回らなくてはいけなくて・・・」と言いながら、『私の家の話、覚えてない

のかしら? 良かったけど、 むかつく・・・』と心の声が後を追って聞こえてきた。

私は怒りを隠しながら、「大変ですね~。それではお疲れ様です」と言って彼女と分かれた。

私は、私が彼女がここにいることを知っていると彼女に伝えることで彼女の行動を抑制

出来ると考えていた。

しかし、甘かった。

私と別れ、反対方向へ向かった彼女は、『お家はあっちの方なんだ・・・』とつぶやいて

いた。

当然家を知られたくない私は、普段乗りもしないバスに乗り、家から遠ざかる方向へ

向かった。バスならば車内も狭く、同乗すれば一目瞭然、そんな無茶なことはしない

だろうと考えたからだ。

しかし、彼女からは『タクシーで、・・・・ 逃がさない・・・・』とどす黒くべったりと

した感じの思いが伝わってきた。

このままでは家に着くまで付いてくる。もう一度くぎを刺さなければダメか?と判断し

バスが、ホームセンター前の停留所に止まったときに、バスから降り、ホームセンターの

中へと入った。

案の定、彼女はタクシーでそこに乗りつけ、私には見つからないように私の後を付けて

来ていた。

『なにをしてるの?』 『お家に帰らないの?』

そんなつぶやきが聞こえる中、私は急に回れ右をし、彼女と再びはちあった。

私は「あれ?どうしたんですか?よく合いますね~」と声を掛けると、彼女は慌てた様子

で、「ほ、本当ですね。得意先がこの近くなんですよ~」と取り繕っていた。

「××さんは、何かお買い物ですか?」 『はやく家に帰れよ・・・』 と続けざまに彼女の

二つの声が聞こえた。

私は意を決して、「ええ、娘に頼まれていた風船を買いにきたんですよ」と答えた。

私には家族がいること、幸せそうであることをアピールして、彼女が入る隙などないと

思わせたかったからだ。

しかし、彼女からは「そうですか~、いいパパなんですね」 『かぞく・・・、かぞく・・・

かぞくか・・・カゾクイナケレバ・・・・・』

私は、商談のときに感じた悪寒を再び強く感じていた。

良かれと思った行動で、家族まで危険にさらしてしまうかも知れない。私は切り抜ける

為にはどうすればいいか考え、妻へメールをした。

詳しい内容は伝えず、今いるホームセンターの3階にある駐車場へ車で迎えに来てほしい、

到着したら、車からは出ないでメールで連絡してほしいと伝えた。

家からここまでは10分か、15分位だろう。その間、買う予定も無い日用品を眺めながら

店内をウロウロとしていた。

『マダオウチニハカエラナイノ?』 何度彼女から聞こえて来ただろう。必死に冷静さを

保っていたが、『あ!』 突然彼女から別の声が伝わって来た。

『包丁よね』 『包丁がいるわよね』

私は限界だった。額には冷たい汗がながれ、膝もカクカクしていた。一刻も早くこの場を

離れたかった。

そのとき、携帯に妻からのメールが届いた。

「着いたよ~、おまたせー」

私は風船を購入し、何事も無い様に装いながらホームセンターから外へ出た。

私は、外へ出た途端に駐車場へ上がる為の車用の道を猛ダッシュで駆け上がり、3階で待つ

妻の車へと飛び込んだ。

妻は「どうしたの?」と驚いていたが、「あまりスピードを出さないように、いつも通りに

帰ってくれ」と伝え、シートの下へ身を隠した。

『どこだ?』 『どこだ?』 『どこだ?』 と彼女の声がしきりに聞こえてきたが、

ホームセンターとの距離が離れるにつれ、その声は聞こえなくなっていった。

家に帰ってから、妻には一通りすべて話した。妻は超能力のことも知っていたので、理解

してくれたが、「怖いね」と心配そうな顔をしていた。

私は、声も聞こえないし、たぶん大丈夫だよと伝えたが、どこか不安な気持ちはぬぐえ

なかった。

その後、家族で食事を取り、娘に風船を渡し、皆で遊んだあと、お風呂に入り床についた。

心労のせいか、普段は夜中まで起きていることが多かったが、その日はあっという間に

眠りについてしまった。

『・・・・・』

 

物音がして、目が覚めた。時計を見ると夜中の2時前位だった。熟睡したせいか、妙に

目が冴えてしまった。台所で冷たいお茶を飲み、娘にタオルケットを掛けなおして、もう

一度床につこうとしたときに、また声が聞こえてきた。

『・・・・・・ダ』 『・・・・・コダ』 『・・・・ドコダ』

彼女はまだ探していた。しかもこっちへ近づいて来ているようだ。

家の場所が分かっているのか? いや分かるはずはない。 執念か? 私はじっと彼女の

声が遠ざかるのを待っていた。

『・・・セッカク・・チョウモ・・・ノニ・・・』

恐ろしいことをつぶやきながら、遠ざかっていく声。

その日彼女は最後にこうつぶやいた。

『アシタ、ミンナコロシチャエバイイヤ』

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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面白かった!
実際にこんな能力があったら大変ですね。。