長編28
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親友

小学校の頃、私には親友がいました。

○○君と言う名前で、なぜかあだ名は『トッド』と

呼ばれていました。

あだ名の由来は謎ですが・・・。

トッドとは性格も合い、家も近かったせいか、平日も

休みの日も関係なく、お互いの家を行き来したり、二人で

自転車で遠出したりと四六時中一緒にいました。

勉強もスポーツも競い合い、親友で、ライバルで、理想的

な関係だったと思います。

トッドとは3年生から6年生までの4年間同じクラスだった

のですが、私が、トッドのある【秘密】を聞いたのは確か、

5年生の時でした。

初めの異変は遠足の時。

学年全員でバスに乗り、学校から20km位のところにある

山に遠足に行きました。

その山は春は桜が咲き誇り、夜は街の夜景が一望できる所で

私たちが遠足に行った初夏も、緑があふれ、とても気持ちが

良かったのを覚えています。

山頂でお弁当を食べ、皆で探検ごっこをして遊び、あっと

いう間に帰る時間になりました。

先生の合図で皆バスに戻り、帰路に着きました。

私たちの学年はおおよそ120人位いて、クラスごとにバス4台

に分かれて乗っていました。

もちろん、私は親友のトッドと、行き帰りと隣の席に座って

いました。

バスが動き出し、山の近くのトンネルをくぐり抜けた辺りで

ふと気が付くと、トッドが真っ青な顔をして、下を向いて

いました。

「トッド、大丈夫か? 気持ち悪いのか?」と聞くと、

トッドは

「何でも無い。大丈夫」

と答えました。

しかし、見るからにトッドの様子は普通ではありません。

「どっか痛いのか? 大丈夫か?」

とさらに聞くと、トッドは俯いたまま返事をしません

でした。

私は、これはまずいと思い、

「先生!トッドが気分悪いみたいです。」

と先生に報告すると、バスの中は

「どうした? 大丈夫? 気持ち悪いのか?」

と皆が騒ぎ出しました。

そして先生が

「吐きそうなの? バスを止めようか?」

と言った瞬間に、

「何でも無いって言ってるだろ? ほっといてくれよ」

と、トッドが大声で怒鳴りつけました。

車内は静まり返り、一時を置いた後、先生が

「我慢できないときは言ってね」

と一言つげ、席に戻りました。

あんなトッドを見たのは初めてでした。周りの友達も、

親友の私でさえも、その後、トッドに話しかけることは

出来ませんでした。

バスが学校に着き、解散会を終えた後、トッドは逃げる

ように一人で帰って行きました。

今まで何度も喧嘩をして、仲直りを繰り返してきた親友

ですから、今回のことも、明日になればいつも通り元に

戻っているだろうと思っていました。

しかし、トッドはそれから3日間学校を休みました。

休み明けの、翌週の月曜日、トッドは学校に来ました。

トッドは元気が無く、何か悩んでいるように見えました。

私はトッドに元気を出してもらいたくて、ちょっかいを

出しました。

トッドの左手の手首に巻いてあった、紙で出来たミサンガ

のようなものを引っ張りながら、

「なんだこれ? おしゃれのつもりか?」

と、言うと、あの時と同じように、真面目な顔で

「やめろよ!」 と怒鳴られました。

トッドはすぐにハッとなり、「ごめん・・・。」と一言告げ

また黙り込んでしまいました。

その日の放課後、私も少し落ち込んだ感じで、家に帰ろうと

すると、トッドに呼び止められました。

「神社に行かないか?」

その神社は神主さんもいない小さなもので、境内に

本当に小さな遊具があるところでした。

私たち二人は神社に着くと、境内の端にある切り株

のような形のイスに座り、そしてトッドが話し始めました。

トッドの話はにわかには信じがたく、小学生だった私は

はじめ、全く信じていませんでした。

それでも、トッドの真面目な顔や、左手のミサンガのような

物も関係あると聞かされ、徐々に信じるようになりました。

※ 以下トッドの話です。

遠足の日、帰りのバスの中でトンネルを通っている時、

窓の外に男の人を見たんだ。

その男の人は、バスが走っているにも関らず、ずっと同じ

場所に浮いている様な感じで着いて来ていた。

俯きかげんで、ずっとおれ(トッド)を睨んでいた。

そして、トンネルを出たときに、初めて気が付いたんだけど、

外にいると思っていたその人の姿は、バスのガラスに写った

ものだったんだ。

つまり、お前(私)の隣に立って、ずっとおれ(トッド)を睨んでいた

んだよ。

あの後、家に帰って、すぐに布団にもぐりこんで震えてた。

かあさんが夕飯だと呼びに来たけど、食べたくなって、

ずっと布団にもぐってたんだ。

そしたら、いつの間にか寝ちゃってさ、布団から出て時計を

見たら夜中の3時位だった。

でさ、時計を見たときに何か変なものが写っていて、振り向いたら

真っ暗な部屋の中に、あの男の人が立ってたんだよ。

おれを睨みながら・・・。

もう、パニックになっちゃって、また布団にもぐりこんで

ガタガタ震えていたら、布団の中に手が入ってきて、左手を

つかまれてベットから引きずりおろされたんだ。

その後は、泣きながら両親の部屋にダッシュだよ。

あの日あったこと全部話して、泣きながら説明したんだけど、

とうさんは全然信用していないみたいで、怖い夢を見たんだろう

位にしかとってくれなかった。

でも、なぜかかあさんは、

「分かった。かあさんがなんとかするから、今日はここで一緒に

 寝よう。」と言ってくれたんだ。

たぶん、つかまれた左手にアザが出来ていたから信じてくれた

んだと思う。

次の日、朝起きたら、かあさんが朝食を用意しながら、

「今日は学校休んで良いから」って言ってた。

とうさんを仕事に送り出した後、かあさんはどこかに電話を

かけていた。

後で聞いたら、かあさんの遠い親戚に神社で神主さんをしている

人がいて、その人に一度息子(トッド)を見てもらえないかと

相談したらしいんだよね。

でも、その神主さんは儀式的なお払いはするけど、除霊とか

そういうのはしたことが無かったんで、断られたんだけど、

代わりに、知り合いの人を紹介するって事で、しばらく電話が

くるのを待ってたんだ。

1時間位してからかな、電話がなって、かあさんが出ると、

その神主さんの知り合いで、岸さん(仮名)という人で、一度会って

話をしたいから、こちらに来てくれって事だったらしい。

その場所ってのが結構遠くて、ちょっと悩んだらしいんだけど、

おれ(トッド)が昔、怪我した事や、病気で入院したことがあること

を言い当てて、「息子さんの為に、どうしても来てください。」と

言われて、会いに行くのを決心したんだって。

それで、その次の日から、1泊2日で岸さんに会いに行ったんだ、

かあさんと2人で。

とうさんはやっぱりどこか信用していなくて、それに仕事が

どうしても休めなかったから、もし長引くようだったら週末の

土日に合流するって事で来なかった。

電車を2本乗り継いで、4時間位で目的地の駅について、そこから

バスでまた1時間。バス停からは徒歩で30分位かかるらしいん

だけど、岸さんのお弟子さんって人が、バス停まで迎えに来て

くれていた。

そのバス停で降りた人は、おれとかあさんだけだったから

分かったんだと思う。

そこから車に乗って岸さんの家に向かったんだ。

岸さんの家はとても大きかったけど、想像していたものとは全然

違くて、普通の家だった。おれはお寺なんじゃないかなと思って

たんだ。

お弟子さんに案内されて家の中に入ると、本当に普通の格好をした

かあさんより少し年上な感じのおばさんが立っていて、それが

岸さんだった。

でもなんだか、普通と違う雰囲気をしていて、ずっと笑顔なのに

圧迫感があった。なんか、見えない力にグイグイ押されてる感じ。

岸さんはおれの顔を見ると、

「あなたが○○君ね。遠いところをようこそ。さあ、あっちの部屋で

 お母さんと3人でお話しましょう。」

と言って、奥の部屋に案内してくれた。

おれは、遠足の日にあったこと、その日を境に不思議なものが

はっきりと見えるようになったこと、実は以前から何か不思議な

感じがすることがあったことを岸さんに話した。

かあさんも少し驚いていたけど、こう言う話を聞くのは初めてじゃ

無い感じだった。

岸さんは、おれとかあさんにこう話した。

「○○君は潜在的に霊感が強く、何かをきっかけに、その力が

 表に出てきたんだと思います。今の状態では霊の方から助けを

 求められても、何も出来る状態ではないので、今回のように

 手を引っ張られたりすることがあると思います。

 まずは、今後、このようなことが無い様に、お払いをして

 お守りを付ける様にしましょう。あとは・・・・・・・・・」

それで、お払いをしてもらった後に、針金の付いた和紙のような

小さな紙に、文字がいっぱい書いてあるものを、細い紐の様に丸めて、

左腕につけてくれた。

岸さんは、

「水にぬれても大丈夫だけど、紙が破けたり、紐がちぎれたりしたら

 新しいものに変えてね。」

と言って、そのミサンガ見たいなお守りをたくさんくれたんだ。

その後、かあさんと岸さんが少し話して、その日は岸さんの家に

泊めてもらうことになった。

次の日、朝食をご馳走になった後、岸さんは家の中を案内してくれた。

広い家の中はおれ(トッド)のばあちゃん家みたいで、普通だったけど

長い廊下を渡ったはなれには、やっぱりかと言う様な、仏壇?見たい

なのがあって、外からは分からなかったけど、お寺みたいな感じだった。

はなれには、昨日のお弟子さんがいて、掃除をしていた。

よく見ると、高校生位の人が3、4人いて、その人たちも掃除して

たんだけど、みんなお弟子さんなんだと言ってた。

その後、また岸さんとかあさんが少し話をして、それから、おれたち

は帰ることにした。

帰りはお弟子さんが駅まで送ってくれた。

電車の中で、かあさんは昔のことを話してくれた。

かあさんも小さいときに不思議なものをたびたび見たことがあった

事。

かあさんのおばあちゃんも霊感が強く、不思議な体験をした

話を聞かされた事。

だから、おれ(トッド)の話も信じてくれたし、あんまり驚かなかった

んだなーと納得したんだ。

一通り話を聞いた後、トッドに聞いてみた。

「今も、その・・・幽霊みたいの、見えるの?」

するとトッドは真面目な顔で、

「うん、見えるよ。でも、このお守りをつけてからは、なんて

 言うか、向こうからは見えてないって言うか、寄ってこなく

 なった気がする・」

トッドは今日、学校で怒鳴ったことを再度誤り、その日は家に帰った。

私は家に帰ってから考え込んでいました。

正直ショックだった。

幽霊の話や、怖い話は好きだったが、自分の身近に自分の知らない

世界があること、そして何より、なぜかトッドが遠くに行って

しまう様な気がして・・・・。

次の日、学校でトッドと遊んだ。

いつもの様に遊ぼうとした。

でも、二人ともいつものようなテンションにはなれなかった。

トッドもなんとなくだけど、私も含めた周りの人と、少しずつ

距離を置いている様な感じだった。

トッドとはずっと親友だったが、お互いの家を行き来すること

もあまり無くなっていった。

月日は流れ、私たちは中学生になった。

私たちの中学校はなぜか入学時に男子は皆坊主頭、女子は皆

おかっぱ頭にするのが決まりだった。

(私たちが卒業して数年でその慣例はなくなった。)

私は、トッドと一緒に床屋に行き、お互いに初めての坊主頭を

見せ合い、笑いあった。

中学は、周りにある複数の小学校が集まり、1学年の人数も

増えた。

小学校は4クラスだったが、中学校は8クラスあった。

トッドとはクラスも離れ、新しい友達も出来、部活も始めた

ため、いつしかトッドとは全く遊ばなくなって行った。

1年経ち、2年生に進級の時、クラス替えがあった。

皆、誰と一緒のクラスになるか、好きな子はどのクラスか等

ドキドキしていた。

私は、トッドと同じくクラスになれるかなと思い、廊下に

張り出された各クラスの名簿を見ていった。

私は5組だった。同じクラスには幼稚園の時の悪がき仲間

がいて、賑やかになりそうだなと思った。

その後、6組からずっと名簿を見ているが、トッドの名前が

無い。

結局最後までトッドの名前が見当たらず、1年生の時にトッド

と同じクラスだったやつに聞いてみると、夏休み明けに転校した

との事だった。

父親の仕事の都合だったらしく、クラスのみんなにもろくに

挨拶も出来ないまま転校したそうだ。

かつての親友も、距離が開けばそんなもんかなと思いつつ、

少し物悲しい気持ちになった。

その日の夜、トッドの夢を見た。

夢の中のトッドは、神社で話した5年生のトッドで、あの時と

同じように、

「ごめん・・・・。」

と、一言謝っていた。

しばらくすると、学校で噂が流れた。

トッドが病気で亡くなったと言う噂だった。

大人づてに聞いた、確かな話ではなかったが、私はなんとなく

そうなんだろうな、と思っていた。

また、月日は流れ、私は中学3年生になっていた。

夏休みのある日、ぶらりと散歩に出た。

自宅を建て替えていた為、家族は一時的に近くにあるマンションに

住んでいた。

建て替え中の家の前に行き、なんとなく工事現場を眺めていた。

ふと気が付くと、家の前にあるポストに、郵便物がたまっていた。

いつもは母が取りに来ていたが、2日ほど雨が降っていたので

ポストを確認しなかったのだろう。

ポストから手紙を取り出すと、チラシや、電気料金の明細に

混じって私宛の手紙が2つ入っていた。

一つは真っ白な大き目の封筒に筆で私の名前が書いてあった。

なんだか気持ち悪いなと思いながら裏を見たが、何も書いて

いなかった。

もう一つの手紙は、小学校の頃に流行ったキャラクター物の

便箋で私の小学校のときのあだ名が書いてあった。

ずいぶん古い感じの手紙だなと思いながら裏を見ると、トッド

の本名が書いてあった。

「トッドから手紙が来た。なんだよ、死んだなんてやっぱり

デマだろ?心配させやがってー」

と、独り言をいいながら、あわてて手紙を開けると、

「○月○日に、裏山の秘密基地で会おう」

と、一言書いてあった。

「○月○日って、今日じゃないか!」

私は履いてきたサンダルのまま、ポストの中身を持ったまま、

裏山の秘密基地に走り出した。

小学校の時、よくトッドと遊んだ裏山。

それほど高い山では無かったが、昔小さな城が建っていたらしく

城壁の跡のようなものがあったり、戦時中に横穴を掘って

防空壕を作ったりしていたので、以外に危険な場所が多かった。

私たちの秘密基地は、ちょっとした崖を下る途中にある、

防空壕として使っていた横穴を改造したものだった。

改造と言っても、横穴の入り口に、壊れた傘や板なんかでフタを

しただけのものだったが、その中で、懐中電灯で照らしながら

トッドとおやつを食べたりしていた。

あの時とは違い、体も大きくなったが、さすがにサンダルで

登るのは、小さな山ながらきつかった。

それでも、トッドに会えるうれしさで、秘密基地のあった場所に

急いだ。

裏山にはしばらく来ていなかったが、全然変わっていなかった。

「たしか、あの辺りだったよなー」

と、また独り言を言いながら探していると、目印の小さな崖を

見つけた。

「あった、あったー。ここかー。この下だよなー。」

木につかまりながら、崖の下を覗き込む。

「うっわー、こえーーー。よくあんなところ行ってたなー」

大きくなった時の方が怖いことって、よくあることで、その崖は

中学3年生の時の私にはとても怖く感じた。

辺りを見渡すと、誰もいない。

正確には、山を掃除しているおじいちゃんがいるだけで、

私と同い年くらいの男の子などいなかった。

それから30分くらい待っていたが、一向に来る気配が無い。

おかしいなーと思いながら、もう一度手紙を見ると、確かに

時間なんかは書いていなかった。

・・・いや、書いていないのは時間だけではなかった。

この手紙には、私の家の住所が書いていない。

消印もない・・・。

よくよく見れば、手紙に書いてある文字は、酷く幼稚な感じで

まるで、小学生が書いたような字だった。

「消印がないってことは、ポストに直接入れたってことか?

 住所も書いてないし、この手紙は・・・」

そう、つぶやいた時、近くに気配を感じ、顔を上げると、

10m位離れたところに、男の子が立っていた。

その男の子は俯きかげんで顔が見えなかったが、あの時の

トッドだった。

そう、小学5年生の時の、トッド・・・。

頭の中を色々な事が駆け巡った。

「あのトッドは、本物なのか? 幽霊なのか? 私に会いに

 来たのだろうか? それとも・・・」

「トッド!!」と声をかけようとしたその時、俯いたままの

トッドがスゥッと右手を伸ばし、崖の方を指差した。

私は一瞬、崖の方を見て、すぐにトッドの方に振り返ると

トッドは、5m位の距離まで、一瞬で近づいていた。

「うわっ!」と声をあげ、後ろに下がろうとしたが、足が

動かない。

トッドは、俯いて崖の下を指差したまま、私に少しずつ

近づいてきた。

ゆっくりと近づいてくるトッドの左肩辺りには、黒いモヤモヤ

した煙のようなものが付いていた。

手が届きそうなくらい近づいて初めて分かったのだが、その

モヤモヤの中には、目があった。

黒目が縦に細く、猫の目のような感じだったが、その目は

ニンマリと笑っていたのが分かった。

私は、両手を前に出し、「やめろーーー!」と叫んだ。

すると、一瞬「ピシャン!」と小さな雷のような音がして

トッドとモヤモヤはスゥーっと消えていった。

モヤモヤが消える時に、舌打ちのようなものが聞こえたのは

気のせいかもしれない。

トッドが消えると、私の足は動けるようになり、私はその場に

へたり込んた。

何が起きたんだろうと、しばらく放心状態だったが、とりあえず

家に帰ろうと思い、地面に落ちた郵便物を拾っていると、あの

大き目の真っ白な封筒の周りが、焼けこげた様に薄く茶色に

変色していた。

家に帰り、その封筒を開けてみると、中にはトッドからの手紙と

あの時トッドがしていた『お守り』が入っていた。

中に入っていたトッドからの手紙を読んで、私は驚いた。

トッドは今、あの時お世話になった岸さんのお弟子さんをして

いること。

私に危険が近づいていること。

その原因はトッドにあること。

同封しているお守りを常に身に着けておくこと。

そして、岸さんの家まで会いに来てほしいということが書かれて

いた。

私はどうして良いのか分からなくなり、家の中をウロウロ

していたが、「これでは、埒があかん!」と意を決して、

手紙に書いてあった番号へ電話をかけた。

3回ほどコールした後、

「はい、岸でございます。」

と、落ち着いた感じの女性が電話に出た。

私は、「あのう・・・、えっと・・・、僕は・・・」と、

ドギマギしていると、

「△△君ですね? どうやら、手紙は無事届いたみたいね。

 大丈夫?」

と、すべてを見透かしたように岸さんが話しかけて来た。

岸さんは、トッドが今出かけていて、いないことを告げた

後、手紙に書いてある通り、お守りを常に身に着けておく

こと、そして、トッドも会いたがっているので、ぜひ遊びに

きてほしいと言っていた。

岸さんは、電話口で少し躊躇する私に、

「あなたたちの為に、どうしても来て下さい。」

と、力強く話した。

私は「はい。」と答え、トッドに会いに行く決心をした。

次の日、私は、朝早くから出かける準備をし、トッドの

待つ、岸さんの家に向かった。

両親には、中学最後の思い出に友達とキャンプに行ってくる

と言い、家を出た。

夏休みだということもあり、何も疑われなかったが、岸さん

の家までの道のりは遠く、交通費を自分のお小遣いから出した

のはとても痛かった。

小学校の時、トッドから聞いていたように、電車を乗り継ぎ、

バスに揺られ、目的地に着いた頃には、お昼を回っていた。

「ここから歩きか・・・、お尻がいてーなー」とぼやいて

いると、二十歳位の男の人が話しかけてきた。

その人は、岸さんのお弟子さんで、私を迎えに来たとのこと

だった。

そこから車に乗せてもらい、岸さんの家に向かった。

聞いていた通り、岸さんの家はとても大きく、見た目は普通

だったが、何か大きな力で守られているような風格があった。

家に着くと、別のお弟子さんに客間のようなところに

案内された。

冷たいお茶を頂き、しばし待っていると、見た目は普通だが

なにやら雰囲気のあるおばさんと、その後ろに、昔の面影が

少しある、同い年くらいの青年が入ってきた。

「トッド!!」と、私が立ち上がろうとすると、そのおばさん

が、にこっとしながら両手を前に出し、「おちついて。」と

言い、ゆっくり話しかけてきた。

「始めまして、私が岸です。今日は、遠いところをようこそ。

 無理を言ってごめんなさいね。

でも、どうしても、あなたに来てもらわなくてはならな

かったの。」

岸さんはそう言うと、今回の事についての説明をしてくれた。

※以下、岸さんの話です。

世の中には、よく幽霊が見えるだとか、霊媒体質だとか、

いわゆる、霊感が強い人っているでしょう?

普通は、力が強ければ守られる力も強くて、怖いものが見える

くらいで済んでしまうんだけれど、稀に、向こうからの力を

無防備な状態で受けてしまう人がいるの。

○○君(トッド)もそうなんだけど、彼を頼って寄ってきた霊

たちが、彼の周りで、その思いを増幅させ、形を成し、最終

的には、彼に悪影響を及ぼしてしまう・・・。

そのままにしていたら、命にかかわるほど危険なことなの。

○○君がここにいるのは、向こうからの力に負けないような

力をつけてもらう為なのよ。

あなたを迎えに行った子や、ここへ案内した子がいたでしょう?

あの子たちも、同じ理由でここにいるの。

○○君のような体質の人は、15歳の時に向こうから受ける力

がもっとも大きくなるの。

それまでは、あなたにも送った「お守り」で、なんとか防ぐ

ことが出来るのだけれど、今の○○君の状態は、お守りでは防ぎ

きれないのよ。

だから、土地そのものが守られている私の家に来てもらって

向こうからの力に負けない力をつける為の修行をしているのよ。

岸さんは続けて話した。

昨日、あなたが見たもの・・・。

あれは、あなたたちが小学校の時、○○君が霊を見たって話を

聞いたわよね?

その霊が、他の霊と混ざり合って、思いが増幅し形となって

現れたものなの。

もともとの霊は、山で自殺した男性の霊。

○○君に助けてもらいたくて、苦しみを分かってほしくて

彼に憑いて来たの。

○○君は、向こうからの力を強く感じる体質だから、姿を

見たり、手を引っ張られたりしたけど、そんなに悪い霊では

なかったのよ。

でも、ずっと憑いてるうちに、○○君の力に呼び寄せられた

他の動物霊や物霊などと混ざり合って、悪霊と呼ばれるものに

なってしまったの。

その悪霊は、お守りがあるから悪さはできなかったのだけれど、

ずっと、○○君に憑いていたのよ。

さっきも話したけど、15歳になる時に、向こうから受ける力が

一番大きくなるの。

お守りだけでは防ぎきれない・・・。

だから、○○君にはここに来てもらっているのだけれど、ここは

土地そのものが強い力で守られている為に、霊が全く入って

これないの。

行き場を失った霊は、普通、憑いていた人に強く関係のある人や

強く思っている人のところに現れる。

血の繋がりのある肉親や、恋人のところなんかにね。

だから、今回も○○君のご家族には、身代わりのお札と、霊を

封じこめるお札を準備していたのだけれど、ご家族のところには

現れなかった。

私も驚いたわ。こんなことは初めてだったから。

○○君にも、他に心当たりがないか思い出してもらったの。

彼は一番にあなたのことを思い出したわ。

それで、調べ見たらやっぱりだったと言う訳。

ここから調べてみたのだけれど、あなたの周りに歪みがあるのが

分かったの。

だから、急いで手紙とお守りを遅らせてもらったのよ。

私は複雑な気持ちだった。

死んだと思っていた親友は、実は生きており、その親友のせいで

危険な目にあったが、それはトッドが私を「親友」だと思っていた

証拠でもあったからだ。

岸さんが話をする間、岸さんの隣に座っているトッドと何度か目が

あったが、トッドは、ずっと申し訳なさそうな顔をしていた。

私は、一つ溜息をつき、

「大丈夫です。ちょっと怖かったけど、なんともなかったし、

 それにトッドが生きてるって分かって、本当に良かったと

 思ってます。」

そう、強がって答えると、岸さんは

「あなたは強いわね・・・。あなたなら、大丈夫かもね・・・。」

と、言って、トッドと目を合わせた。

トッドは一瞬不安そな顔をして、俯いた。

岸さんは少し考えた後、私に、こう話した。

「あなたに、お願があるの・・・・・。」

岸さんは真剣な顔で私の目をまっすぐに見つめた。

昨日、あなたが見たもの・・・、あの悪霊は、○○君(トッド)

がここに来た時点で、○○君の家族の誰かの前に現れ、

そして封じこまれるはずだったの。

私は、○○君のお母様の前に現れると思っていたわ。

その為に、○○君のご家族には、悪霊に皆を○○君と

勘違いさせる為の「身代わりの札」を準備し、そして

悪霊が危害を加えようとした時に、その悪霊の力を利用して

悪霊自身を封じ込める「封じの札」を仕掛けておいたの。

でも、悪霊はご家族の前には現れなかった。

今まで沢山の悪霊を見てきたけれど、家族以外の前に

現れたのはこれがはじめてよ。

○○君は、あなたに対してよほど強い思いがあったの

だと思ったのだけれど、今日あって、その理由が分かったわ。

○○君とあなたは似ているのね。

見た目じゃなくて、中身っていうのかしら。おかしな

言い回しと思うかも知れないけど、『魂』が似ているのだと

思う。

あの悪霊は、あなたに憑いて来ている。

○○君の代わりに、あなたに取り憑こうとしているわ。

だから、事が起こる前に、悪霊を封じるのを手伝ってほしいの。

あなたの為にも必要なことだから、ね?

私は、ここに来る少し前から、なにか変なものが見えることが

たびたび会った。

気のせいだろうと思いたくて、誰にも話さなかったが、トッド

からの手紙を見て、岸さんと電話で話をして、やぱりそうかと

思っていた。

もしかしたら、心のどこかで、こんな事への覚悟をしていた

のかもしれない。

私はゆっくりと頷きながら、「分かりました。」と答えた。

その日は、岸さんの家に泊まり、例の悪霊を封じる儀式?は

明後日行うことになった。

岸さんの話では、今日・明日は日取りが良くないとの事だった。

私は、特にすることも無かったので、トッドたちの手伝いをした。

トッドたちは、岸さんの家の中や外の庭の掃除をしていた。

なにせ、広い家だったので、それだけで結構時間がかかっていた。

その後も、皆の食事の用意や、それが終わったら学校と同じような

勉強、それと、お寺の中のようになっている部屋で、どこかで

聞いたことのあるようなお経を唱えていた。

皆、私と同い年くらいの人なのだが、何人かは20歳位の年上の

人も混ざっていた。

その人たちは、外に買い物に行ったり、勉強の先生をしたりして

いた。

私はトッドといろいろ話したかったが、他の人もいるし、何より

真剣に作業しているトッドには話かけ辛かった。

夕飯が終わり、夜のお経が終わると、少しの自由時間があった。

私は、トッドと同じ部屋に泊まることになったので、部屋に布団

を敷きながら、トッドと話をした。

何を聞いていいか、何から聞こうか悩んでいると、トッドの方から

話しかけてきた。

△△ちゃん、ごめんな、おれのせいでこんなことになって。

おれも何から話していいか分からんけど・・・。

トッドはまず、自分がなぜ岸さんの家にいるのかを教えてくれた。

はじめに先生に(岸さん)にお払いをしてもらってから、毎年2回は

ここに来て、お払いを受けてたんだ。

お払いを受けるたびに、あのお守りの数が増えていった。

最初にお払いをしてもらった時に言われてたんだけど、15歳になる

年に、ここに来て、ここで修行をしてもらうって・・・。

修行は数年間かかるって・・・。

そのまま、外の世界にいるのは危険だから、向こう側からの力に

抵抗力をつける為の修行が必要なんだってさ。

まあ、修行といっても、ほとんどは掃除とか洗濯とか料理とか普通の

家事ばっかりで、後はお経を読んでる位かな~。

先生曰く、ここでの生活が一番の修行なんだって。

実際、この土地から外へ出るのは禁止されてるしな。外へ出ていいのは

先生や、修行が終わった兄弟子さんたちだけなんだよ。

○○ちゃんを迎えに行った人や、買出しに行ってる人は兄弟子さん

って訳。

ちょっと窮屈な気もしたけど、ここでは、お守りもつけなくて良いし、

変なものも見ないで済むから快適だよ。

その後、トッドは転校先で起こった幽霊騒ぎや(十数年前に行方不明に

なった女生徒の遺体を発見した事)、予知能力(病院で、親戚の人の死期を

言い当てた)の話をしてくれた。

そんなこんなで、周囲からは敬遠されるようになり、他人とはあまり

関わりを持たなくなって行ったそうだ。

おれにとって、今一番の思いでは、○○ちゃんと遊んでた時かな~。

だって、おまえ、結構無茶するもんなーーー。

そういったトッドは昔の、小学校のときのトッドの顔だった。

私は、

「おまえに言われたくねーよ。いっつもおれを面倒に巻き込みやがって。」

そう言って笑った。

トッドも笑ってた。

二人で敷いたばかりの布団に寝転がって、天井を見ながら、あの時は・・・

あの時も・・・、ああでもない、こうでもない、昔話に花を咲かせた。

笑うと気持ちが落ち着くものだ。私も、トッドもすっかり昔を思い出し

また、お互い『親友』と呼べる存在になれたような気がした。

私は、一つため息をつき、トッドに聞いてみた。

「おれ、明後日、どうなるんだ?」

岸さんが悪霊を封じることを私に頼もうとした時、トッドは顔を

曇らせていた。

私は、その顔がずっと気になっていた。

トッドは、少し間をおいて、

「相変わらず鋭いなー。」

と、言った後、話始めた。

明後日、たぶん、左耳を怪我すると思う。

もしかしたら、聞こえなくなるかも・・・

ほんとにごめんな・・・・・。

さっきした予知能力のこと何だけど、霊が原因で起こる事件や事故

なんかの未来が見えることがあるんだ。

予知はほんとにたまにしか見えないんだけど、見えたことは、全部

その通りになる。

たぶん、おれに深く関っている人の事しか見えないみたいなんだけど、

お前のことは見えた。

ほんとにごめんな。

私は

「友達に怪我させるなよ」

と冗談で言おうとしたが、真剣に謝っているトッドの気持ちが伝わって

来て、その言葉を飲み込んだ。

「お前が、おれの未来が見えたって事は、おれたちが『親友』って

 証だろ? 親友の為だったら、一肌脱ぐだろー、普通。 大丈夫、

 おれの耳はそんなにやわじゃねーよ。」

飲み込んだ言葉の代わりにそう言うと、トッドはくすりと笑い、

「ほんと、相変わらずだなー」

と言った。

翌朝起きると、トッドは既に修行(家事)をしていた。

岸さんからも、外には出ない方が良いといわれていたので

その日はおれも、一日付き合う事にした。

途中、家に電話をした。

もう一泊キャンプして、その次の日はキャンプ仲間の家に泊まる

から、明後日には帰ると母に伝えた。

母は、

「思い出もいいけど、受験生だって事を忘れないでね。」

と少し怒った様子だった。

電話の内容がトッドに少し聞こえていたようで、トッドは、また

「ごめん」

と言って来たので、一言、

「あほ」

と、笑顔で言っておいた。

その日の午後、私はトッドと一緒に、岸さんの家の裏庭の掃除を

していた。

裏庭は、中学3年の私の身長よりも高い垣根で道が作られていて

迷路のような感じになっていた。

その垣根を越えていくと、拓けた土地があり、大きな池や、きれいな

花壇があり、とてもほっとする場所だった。

ふと、裏庭の奥に目をやると、裏山へなにやら白い道が繋がっていた。

じっとその道を見ていると、トッドが、

「行ってみるか?」

と、言ってきた。

私は、頷き、その白い道へ近づいた。

その白い道は、木で出来たトンネルに、あのお守りをびっしりと結び

つけたものだった。

その白い道は、裏山の中腹まで繋がっていた。

「明日、この道を登って、裏山の中腹でお払いをするんだよ。」

トッドは、裏山の中腹を見つめながら、私にそう言った。

その山は、私の目から見ても禍々しい雰囲気を出していた。

私の表情に気付いたトッドが、

「先生が言ってたんだけど、人を守る強い力を使うには、相対する

 力を知ることも必要なんだってさ。」

と言った。

私の意志とは無関係に、膝が震えた。

その日の夕飯の後、お弟子さんたちに混ざって、見よう見真似で

一緒にお経を唱えていると、岸さんがやって来た。

「いよいよ明日ね。○○君(トッド)から聞いたと思うけど、明日の

正午、裏山の中腹に上ります。

今日は、明日のお払いがうまく行くようにお払いをしてあげるわね。」

そう言うと、岸さんは音叉のような音のする鈴のような物を出して

お払いを始めた。

気が付くと、お弟子さんたちも、皆私の方を向いてお経を読んでいた。

私は静かに目を閉じ、無心でそのお経を聞いていた。

翌朝、私は、早くに目が覚めた。

トッドは隣でまだ寝ていた。

トッドを起こさない様に、そっと障子を開け廊下に出ると、廊下から

外を見ている岸さんがいた。

「おはよう。あまり眠れなかった? 今日は、あまり天気が良くない

 わね。」

私は、

「おはようございます。目が覚めてしまいました。でも、頭はスッキリ

 してます。大丈夫です!」

と答えた。

岸さんはすべてを見透かしたような顔でニコリと微笑んだ。

朝食を頂いた後、また昨夜と同じようにお払いをしてもらい、

岸さんに用意してもらった、真っ白な浴衣のような服に着替えた。

そして、正午になる少し前、私たちは裏庭の白いトンネルの前に

いた。

岸さんはトンネルの前で、これから起こることの説明をしてくれた。

いい? ここから先は、△△君と、私(岸さん)、それに○○君たちの

兄弟子にあたる、この2人の4人で山に登ります。

○○君たちはこの先へはいけない。

特に○○君は向こう側に引き込まれてしまう可能性があるから。

山の中腹には小さな広場があって、そこに切り株で出来た椅子があるの。

あなたは、その椅子に座ってじっとしていればいいのよ。

その椅子がある場所は、調度こちら側とあちら側の境目がある所なの。

あなたが着ているその衣、○○君の身代わりのお札が縫いこんで

あるの。悪霊は、あちら側からそれを見つけて、どうにか取り込もうと

してくる。

名前を呼んだり、肩をたたいたり、体をゆすったり・・・。

絶対に振り向いてはダメよ。

それだけ約束して頂戴。

私は、岸さんの真剣な顔に半分びびりながらも、振り向かなければいい

と心で何度も繰り返した。

岸さんの合図で、私たち4人は白いトンネルを進み始めた。

トンネルに入る時、トッドが、

「△△ちゃん」と声をかけて来た。

私は、トッドの方を見て黙って頷いた。

白いトンネルは入り口はやや狭いものの、少し進むと、腰を屈め

なくても歩けるほどの高さがあった。

程なくして、私たちは山の中腹にある小さな広場に着いた。

そこには、青み掛かった岩のような色をした切り株があった。

切り株は中心が滑らかにくぼんでおり、座り心地がよさそうだった。

切り株の周りも、私が分からないだけなのか、特に変わった所はなく

少しほっとした。

岸さんは、2人の兄弟子さんに指示を出しながら、

「△△君、そこにこっちを向いて座って頂戴」

と言った。

私は、あたりをきょろきょろしながら切り株に腰を下ろした。

今思えば、切り株にも、小さな広場にも変わったところがなかった

から、どこか油断していたのかも知れない。

私が切り株に腰を下ろした瞬間、私の左後ろから

「△△ちゃん」

と、私を呼ぶトッドの声が聞こえた。

私は、呼ばれるままに、後ろを振り向いた。

どちらも一瞬だった。

俯いた小学校5年生のトッドの姿が見えたのも、岸さんの「ダメっ!!」

と言う言葉が聞こえたのも・・・・・。

その瞬間、私の左耳に「パーーーン!」と言う大きな音が聞こえた。

まるで、誰かに思いっきりびんたされたような感じだった。

痛みはあまり感じなかったが、耳の奥がジンジンするような感覚だった。

岸さんは、あわてて兄弟子さんと3人でお経を読み始めた。

しばらくすると、耳の奥が少し痛んできて、何か、温かいものが

耳を伝って垂れてくるのを感じた。

振り向かないように、目の端で左肩のあたりを見ると、赤い点が付いて

いるのが見えた。

おそらく、血だろう。

耳鳴りがひどく、岸さんたちのお経もあまり聞こえなかった。

私は頭が混乱していた。耳の奥がジンジンし、頭もクラクラする。

何が起きたんだ?

そう思っている私に、なぜか、またあの声が聞こえてきた。

岸さんたちのお経はあまり聞こえないのに、その声ははっきりと

聞こえてきた。

「△△ちゃん」

一瞬振り向きそうになったが、岸さんの言葉を思い出し、ぐっと

こらえた。

私を呼ぶ声は、次第に大きく、頻繁になり、ついには、肩をたたかれ

たり、背中を押されたりするようになった。

私は、ゆっくりと目を閉じ、岸さんたちのお経に集中した。

どれだけ時間がたったのだろう、ほんの数分だったのかも、数時間

だったのかも知れない。

岸さんたちのお経に集中出来た時に、あのトッドの声が聞こえなく

なった。

ゆっくりと目を開けると、目の前に俯いた小学校5年生の時のトッド

が立っていた。

トッドは、ゆっくりと顔を上げると、ニコッと笑い、光が散らばるように

消えていった。

「もう大丈夫よ」

そう、声をかけてくれた岸さんは、額に大粒の汗をかいていた。

その岸さんの笑顔を見て、私は気を失ってしまった。

気が付くと、私は岸さんの家で寝ていた。

岸さんとトッドが心配そうに覗いていた。

「△△ちゃん、大丈夫か?」

ドットが心配して話しかけてきた。

私が小さく頷くと、

「さっきお医者さんに来てもらったわ。痛まない?」

岸さんが額に手を当てながら、申し訳なさそうに話した。

周りの空気か、二人の雰囲気なのか、どことなく、全てが

終わった安堵感の様なものを感じた。

耳の奥は、熱いような、痛いような感覚だったが、まさに

憑きものが取れた私の気持ちは、どこか晴れ晴れとしていた。

あの夏の出来事は、良くも悪くも、人生で一番の思い出と

なった。

今までの人生を振り返っても、あれほど怖い思いをしたことも

なかったし、一生の友達との再会も果たせた。

私にとって、忘れることの出来ない思い出だ。

トッドはその後、岸さんのところで20歳になるまでお世話になり、

そこから数年間、兄弟子として、岸さんのお手伝いをした。

トッドは岸さんのところで修行しながら、大学卒業の資格まで取り、

今は、岸さんの知り合いの会社で働いている。

年に数回は家族ぐるみで集まり、思いで話に花を咲かせながら

ワイワイやるのが恒例の行事になっている。

トッドは会うたびに、

「最近、お墓参りしてないだろ? ばあちゃんが寂しがっているぞ」

とか、

「実家のおばさんに渡しといてくれ」

と言って、お札のような物を渡してくれたり、いろいろと世話を

やいてくれる。

「いっつも助かるけど、相変わらずこえーなー」

と、冗談まじるで言うと、

「あほ」

と、返される。

これも、毎年恒例の行事だ。

私の左耳は完全に聴力を失うことはなかった。

少々難はあるが、大きな音ならぼんやりと聞こえるような状態だ。

左から話しかけられると、少し聞き辛く、たまにイラッとする

事があるが、私にとって、この左耳はトッドとの『親友』の

証の様な気がする。

おわり。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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