中編3
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我が友

私には竹馬の友がいる。人間ではない。ぬいぐるみである。くまのPさんである。Pさんでマズければセリヌンティウスと仮名しよう。長いので以下セリーヌとする。

セリーヌは幼き時から私と共にあった。私が退屈すれば遊び、悲しめば癒し、私と共に時を過ごし私と共に薄汚れていった。

数年前の話である。

当時私は疲れていた。先の見えない日々、くだらない仕事、煩わしい人間関係、糞ったれでインチキまみれの自分。

全てが嫌になり、孤独であり、逃げ出したかった。

あるいはセリーヌに丸投げしたのかもしれない。

その頃から、私は道を歩けばセリーヌが隣を歩き、愚痴を吐けばセリーヌが慰め、仕事場ではセリーヌが遠くの壁から顔を出して見守っている幻覚を、幻聴を、はっきりと見、はっきりと聞いていた。

頭がおかしいと思う者がいるかもしれない。本当におかしくなるのはその後であった。

ある日、仕事場の壁から私を見守っていたセリーヌが、私に背を向けて、トコトコ出口に向かう幻を見た。飽きたので早めに家に帰ろうとしたのであろうか。そんなことを普通に思っていた。

いつもなら幻は私の視界や聴覚の範囲で認識できる。

しかしその日は、家路を行くセリーヌの姿が脳裏にはっきりと浮かび上がった。セリーヌだけでなく街角から人の通りまで、いやに現実感を持って鮮明に浮かんでくる。

セリーヌは家に着いた。玄関ドアには鍵がかかっている。どうするのかなと思い見ていると、セリーヌはぴょんとジャンプしてドアノブに飛びつき、体が小さいので苦労しながらノブを回してドアを開けようとする。ドアは普通に開いた。ドアが閉じないよう滑り込むように家に入ると、疲れたのかセリーヌは靴置場でコテっと倒れ込んだ。妄想はそこで終わった。

仕事が終わり、私は玄関ドアの前、恐る恐るノブを回すと、ドアは開いた。鍵が、かかっていない。暗い玄関、スイッチを入れると、明るい電球の下、あの妄想と同じ位置、同じ姿勢で、セリーヌは横たわっていた。

それからである。目をつむると事あるごとにあの鮮明な妄想が頭に浮かび、セリーヌはその妄想通りの場所、妄想通りの姿勢でいることが多くなった。トイレに行く妄想を見ればセリーヌは便器にはまっており、掃除する妄想を見ればセリーヌは埃にまみれているという調子である。

私は自分の頭がおかしくなったと思ったが、特に気にせず、むしろ妄想をコントロールしてセリーヌを自由自在に操る試みに夢中になっていた。

そうして、徐々にではあるが、自分の意思で見たい妄想を見、セリーヌを自分の意図通りに操ることができるようになっていった。

その限界に挑む日々。悲劇は訪れた。

目を閉じて、セリーヌにバック転をさせる妄想、目を開けて、セリーヌの位置がちょうど妄想バック転の着地位置ほどへズレていることを確認し、満悦した後、ふと思いついてしまった。酷い思いつきであった。しかし、止められなかった。

映画『エクソシスト』に、少女の首が180度一回転するシーンがある。

あれを試したら、どうなるか。

無論、セリーヌの首はねじ切れるだろう。あれは悪魔だからねじ切れないのであって、ただのぬいぐるみであるセリーヌの首はきっとねじ切れてしまうだろう。しかし、妄想をうまくコントロールし、首のねじ切れない妄想をしたらどうか。

居ても立ってもいられなくなった。ぜひ試したい。

そうして、妄想はうまくいった。セリーヌの首はねじ切れず首は一回転した。目を開けると、首のねじ切れたセリーヌがそこに転がっていた。

それ以来、あの妄想を見ることは無くなった。

教訓:友を弄んではいけない。

怖い話投稿:ホラーテラー 仮MELONさん  

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