長編10
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落ちてきたのは・・・

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 全国心霊スポット地図、心霊恐怖映像集・・・大型書店のサブカルチャー部門やコンビニに行くとよく目にする題名ですが、僕はこれを読むと正直なところ嫌な気持ちがしています。仮に自分が幽霊だとしたら、自分が静かに眠っている土地に興味本位で土足で入り込まれたりしたら怒りしか感じないでしょう。それを踏まえた上で、僕は友人から誘われようとも決して行ってみようとは思わないようにしています。

 しかし、世の中とはままならない物で、ときにはどうしても立ち入らなければならないこともあります。

 その結果どんな結末が待っていようとも、すべて自己責任ということになるのですが、その経験から十年が経過した今でも後悔している出来事です―――。

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 その当時、僕は県外の大学に通っていました。三年生の夏休みのこと、最初の二年間で卒業するに足る単位をほぼ習得していた僕は、中学時代を過ごした母の地元であるI県・M市に帰省していました。そこでかつての友人と遊んだり、先祖のお墓参りをして過ごしていたある日のこと、大学の友人であるA夫から誘いのメールが届いたのです。彼もちょうど自分の友人や彼女たちを連れて東北を旅行中で、この街に遊びに来ていたのです。

 『今、駅前の焼肉屋にいるからお前も来ないか?暇なら遊ぼうよ』

 

 駅まではバスでほんの十分もあれば余裕でしたし、歩いて帰ったとしても二十分もあれば自宅へ戻ることのできる距離です。軽い口調の内容でしたが、僕も明後日には大学の寮へ帰る予定でしたのでたまにはと思い行ってみることにしました。

 

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 店に入るとすでにメンバーは揃っていて、僕が来るのを待っていてくれました。A夫の他には四人、彼の彼女のB子にサークル仲間のC君とD夫にE美が一緒でした。みんなに軽く挨拶をしてから自分の席に座り、運ばれてきた食材を楽しみながらたっぷりと話し込みました。

 どこそこのサークルの誰かさんが誰を好きとか、ゼミの講師の噂話など他愛のないことを話題にしていると、C君が何やら意味ありげな笑みを浮かべながら、

 「なあ、この街にあるかなり有名な心霊スポットで『Iの森』って聞いたことあるか?」

 と切り出しました。その名を聞いた途端に、嫌な予感が頭をよぎりました。その場所はよく雑誌などでも取り上げられる場所なのですが、地元の人間たちは興味本位でも立ち入ることのない禁忌の領域だったからです。

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 五十代から六十代の方であれば記憶にもあるかと思います。これは母から聞いた話です。

 今からおよそ四十年ほど前のこと、自衛隊機と旅客機が空中で衝突するという壮絶で痛ましい事件がありました。母は当時、二十歳の大学生でその事件を友人と車中のラジオで知りました。

 ですが話の規模が大きかっただけに信じることのできなかった母と友人たちは、何かの間違いに決まっているとばかりに面白がって現場のI郡・S町へ向かったそうです。

 しかし、ほど近い場所からすでに救急車や消防車、それに報道関係の車両が道端に停車していて、まるでパニック映画の一場面のように騒然としていました。当然ながら母と友人が乗り込んだ車はすぐに停車させられて向かうこともできなかったのですが、道路に嘔吐している救急隊員の姿を目にしたときには、これは現実に起こっている事件なのだと肌で感じたと言います。

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 現場の一部は今ではきちんと整備されていて、お盆になると親族の方々が慰霊碑にお墓参りに来ています。そんな場所だからこそ大切にしなくてはならないのですが、旅行の思い出話に行ってみようと恐ろしいことを言いだしたのです。興味があるのはよくわかりますが、地元で暮らしてきた僕にとってみれば無謀以外の何物でもありません。

 「おい、まさか肝試しでもしようってんじゃないだろうな?絶対に行くんじゃないぞ」

 「なによ、怖いの?心霊スポットなんて、殆ど何も起こらないに決まってるでしょ。テレビでやってるヤツなんて、どうせヤラセなんだからさ」

 「そうだよ、お前もガキじゃないんだから目くじら立てんなって。こんなに楽しい時期が過ごせることなんて就職したらまずないし、一度は行ってみて確かめてみるのもいいじゃねぇか」

 D夫もE美もすっかり興味津々といった感じで、まるっきり話を聞いてくれません。お前らはどうするんだと尋ねられたA夫とB子は微妙な態度でしたが、最終的に二人とも好奇心に負けたかたちで了承してしまったのです。

 「お前ら馬鹿なのか?ヤラセだろうがどうでもいいけど、地元に住んでた俺ですら知っていても行かないところに遊びで行ったりして、どうなるかわかったもんじゃないんだ。さっさとホテルに帰って、頭を冷やせ」

 「・・・ふ~ん、お前ってつまんない奴だな。少しは友達づきあいってやつを考えて、空気読めよ。わかった、俺たちだけで遊びにいくよ」

 と、しらけた表情を見せながら勘定を済ませると、五人とも僕をおいて外へ出ていってしまいました。

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 食事を終わらせて外へ出ると、夜空にはきれいな星が輝いていました。お腹もいっぱいになったし、仲間とも出会えたのだから普通は楽しい気分で家路につくところですが、今回ばかりはそんな気分になれません。

 C君の言うとおりあの森は確かに有名なところで、ネットで検索すれば心霊現象を話題にした記事がいくつもあります。そんなところですから興味を持つのは理解できますが、子供の頃ならいざ知らず、大学生になってまで遊びに行こうなんてどうかしているとしか思えなかったのです。

 軽くお酒でも呑めば気分も紛れるだろうと思い、僕は自宅近くのコンビニに入ってツマミと缶チューハイを購入しました。

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 両親は旅行に行っていて留守でしたし、明日までは僕と弟の二人しかいません。

 軽くシャワーを浴びて一杯やろうと思ったとき、携帯電話がけたたましい着信音が部屋に鳴り響きました。画面を開いてみると、間違えてセットしたアラームでした。時刻はすでに日付が変わって、真夜中の一時を示しています。

 気にしないようにしようとすればするほど、じっとしていられないのが人間です。あそこで安らかに眠っているであろう犠牲者の方々に申し訳ないのと、友人を危険な目に合わせられないという強い気持ちに背中を押されて、僕は弟の車を借りてIの森へ向かいました(もちろん、アルコールは口にしていません。念のため)。

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 件の森は街の郊外にあり、大きなダムの貯水湖と運動場に面したところにあります。昼間でも鬱蒼と茂った木々の陰で薄暗く、中学時代に部活の練習でランニングをするたびに息苦しくなったのを覚えているほどです。

 入口はちょうど坂道になっていて、ようやく一台ぐらいの幅しかありません。僕は運動場の駐車場に車を停めると、手に懐中電灯を持って真っ暗な森へ入っていきました。

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 上下左右、どこを見渡してみても暗闇。懐中電灯を持っていなければ、自分がどこにいるのかすら判断できません。やがて見えてきた古びた石の階段をゆっくりと踏みしめながら上り、ようやく頂上へたどり着くとそこは大きな広場になっていました。奥には献花用の筒が設けられた慰霊碑があって、すでにたくさんの花やお供え物が置かれていました。

 と、懐中電灯を翻して周囲を照らし出してみると、そこに五人が楽しそうに笑いながらじゃれあっていました。皆それぞれ、デジカメや携帯電話で慰霊碑や森をバックに写真を撮り、何かしら操作しているようです。

 そして僕の姿を認めると、機嫌をなおしたらしいC君が声をかけてきました。

 「よう、お前もやっぱり来たのか。まあ、こんなところがあるってわかっただけでも楽しかったし、そろそろ帰るところだからさ」

 「はいはい、わかったから帰るぞっ!!携帯とかで写真撮ってるなら、さっさと消去しろよ。真面目にヤバいんだからなっ!!」

 「いいじゃん、写真くらい。プリントしてやばかったら、捨てるしさ」

 「今すぐに消せ。そのままにしていて、あとでどうなっても俺は責任とらないからなっ!!」

 そう叫んだときでした。背後の暗がりで、ドサリという何かが落ちてきたような音がしたのです。

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 みんな軽装で荷物なんて殆どなかったし、僕が手にしているのは懐中電灯だけで携帯はズボンのポケットに入れたままです。

 それならいったい何が落ちているのか?

 腐った木の幹、茂みに潜んでいたカモシカの足音・・・様々な推測をしてみましたが、その重くズッシリとした響きは大量の生ゴミが入ったゴミ袋を放り込んだというのが一番しっくり当てはまりました。

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 ドサリ、ドサリ、ドスン、ミシミシィ・・・ドサリ、ドサリ・・・

 でも、そんなモノを持ってきている人がいるのか?

 そんなハズはありません。最初に車を駐車場へ持って行った時にも、僕以外には誰もいなかったのですから。それなのに音は止まらず、時折、バキバキィとものすごい音をさせながら落ちてくる気配すらあります。

 まさか死体・・・そんな文字が頭の中に浮かび上がった瞬間、僕は叫んでいました。

 「走れぇぇぇぇぇぇぇぇえええっ!!」

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 それから次の瞬間には、弾かれたドッヂボールのような勢いで地面を蹴りつけて走り出していました。

 誰が後ろをついてきているのかすらわかりません。振り向いて確かめる余裕などあるわけもなく、ただ無事に駐車場へたどり着くことだけを考えて真っ暗な闇の中を突っ走りました。

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 足を滑らせても立ち上がり、階段を転げ落ちるようにして車のところまでたどり着いたときには、その場に下を向いて座り込み立ち上がる気力すらもありませんでした。

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何とか気持ちを落ち着けて大きく息を吐きだし、顔を上げてみるとそこには奇跡的に他の五人が揃っていました。一番ひどかったのはD夫で、顔に大きな擦り傷をいくつもつくっていましたが、そんなことは関係なしにいち早くここから退散するべきだと思い車に乗り込むように促して急いでその場を離れました。

 車中では誰ひとりとして一言も発せず、僕も体を襲う倦怠感で何も考えることができません。そして皆を駅前で下ろした後、自宅へ帰るなり買ってきたお酒も呑まずに布団に倒れ込んでしまいました。

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 その翌日、僕は一人で森に来ていました。真夜中に騒いでしまったお詫びと安らかな眠りを込めて、献花するべきだと思ったからです。あのときの五人も誘ってみたものの、全員ビビってしまって誰ひとりとして来ることなく先に帰ってしまっていました。

 あとで図書館で調べてみたところ、思っていたとおりあの付近には飛行機の残骸と一緒に、空中へ投げ出された乗客たちが無残な姿で発見されたとありました。それならばあの不可思議な音の正体は・・・そう考えて、途中でやめました。いくら思いを巡らせたところで当事者でない僕に苦しみが理解できるはずもなく、やれることはこうして花とお供え物を捧げて謝ることだけだと思ったからです。

 しかし、これで事件は終わったわけではありませんでした。

 夏休みが終わってしばらくしてからのことです。

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 最初はA夫とB子に起こりました。二人は車でドライブ中に事故に会い、大ケガをして病院へ入院したのです。B子は肋骨を骨折して重症。かわいそうにA夫は右足の損傷がかなりひどく、止むを得ずに切断することになってしまいました。

 次はD夫とE美、二人はそれぞれ別の場所で事故にあったのですが、D夫は通学途中に駅の階段から転がり落ちて顔面を骨折。E美は趣味の料理をしているとき、棚から調味料を取ろうと乗っていた足台から足を滑らせ、高温に熱せられた鍋に右腕を突っ込んでしまい重度の火傷を負いました。

 そして僕自身も、バイクでドライブ中にタイヤがパンクして横転。額と右頬を深く切ってしまい、どちらも二十針以上も縫う羽目に。

 結局のところ、あの場にいた全員がそれぞれに不幸な出来事を経験することになったわけです。

 C君はどうしたのかって?

 それが僕にもわからないのです。僕を含めた五人は在学中に事故にあったのですが、彼だけは卒業するまで何も起こりませんでした。不思議に思いながらもその後のつき合いもなく疎遠になりましたが、卒業後すぐに失踪してしまったのです。彼の行方は今もわかっておらず、他のメンバーに尋ねてみても連絡はないといいます。

 彼はいったいどうなってしまったのか?

 あくまでも推察でしかないのですが、それを考えさせられる出来事が在学中にありました。ゼミの先輩に頼まれて彼に連絡を取ったとき、電話口から聞こえてきたのは彼の声ではなく幾重にもかさなりあった別の声だったのです。

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男性の怒号、女性の悲鳴、子供が泣き叫ぶ声・・・どれぐらいの間だったのか、それがしばらく続いたと思うとブツリと切れてしまいました。

 それからもう一つ、つい最近なのですが、E美から削除していなかった写真があるというので見せてもらいました。そこに写りこんでいたのはカメラに向かって笑顔を見せるC君・・・いや、その顔は不自然なほどに歪んで曲がり、背後の闇の中に光る目が二つありました。

 今でも彼には連絡がつきません。携帯電話もメールもすべて使えず、行方知れずのままです。

 皆さんも雑誌で紹介されるような心霊スポットへ行かれるならば、それなりの覚悟をした上で向かってください。そこで眠り、息づいている者にとっては紹介されることよりも、僕らが自分たちと同じような目にあって死ぬことこそが最大の供養になるのかもしれないのですから・・・

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怖さと臨場感が伝わって来ますね。心霊スポットと称される場所が、何故、そう呼ばれるのか…。やはり何らかの悲しい理由があるのでしょう。そのような場所に意味なく立ち入ってはいけないのでしょうね。