13年06月怖話アワード受賞作品
長編7
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アイちゃん

死んでしまえ。

いつからだろう。

なぜか全てに対してそう思う日が続く。

そして月日が流れ、

自分が死ねばいいと思うようになっていた。

中古の家を住宅ローンで購入。妻と子供2人がいる働き盛りの35歳。

自分の仕事に自信が持てず、父親としての自覚も甘い。趣味もなく毎日が単調で面白くない。

ほぼ毎日暇さえあれば、死に方を考える。

会社では新規訪問で車の移動が多く、カーナビを使う頻度が高い。

カーナビといっても最近変えたアイフォンのグーグルマップでの案内だ。

その日もアイフォン(以下アイちゃん)に案内されるままの運転、トラックが突っ込んてきてくれないかな、隕石が俺の車に落ちてこないかな、などと考えながらの運転だった。

アイちゃんが案内を続ける。

ポン、500メーター先右折です。

右折です。

そまま暫く直進です。

……

ポン、Uターンです。

ポン、Uターンです。

目的地はまだ先のはず。

ウィンカーを出し道路脇に車を停車させる。

一体俺を何処に誘導するつもりだ?と画面を操作する。

すると行き先も到着場所も同じ住所になっていた。

こんな住所を設定した覚えはない。

誤作動か?

今日行く場所は会社に出る前にパソコンのGoogleで確認したので場所は覚えてる。

しかもこのまま山道をまっすぐ行くだけ。

まだ時間も一時間ほど余裕があるし、この住所なら近いと思い、その場所に興味を持ち初め、そのままアイちゃんに従う事にした。

時間にしたら5分位走っただろうか。

ポン、次を左折です。

舗装もされていない脇道に入るようだ。

ポン、100先目的地です。

ポン、目的地に到着しました。お疲れ様でした。

そこは見覚えのないボロボロの神社だった。廻りは鬱蒼とした木々のみで人の参拝もほとんどないのだろう。鳥居の中間に鬼蜘蛛が立派な巣をこしらえていた。

とても不気味で車を降りる気にはなれなかった。

目的地が神社という事もあり、なにか意味があるのか、悪い物にでも誘われているのか・・・

どちらにせよ立派な蜘蛛の巣を壊してまで鳥居をくぐる気にはなれずその場でタバコに火を点ける。ただ虫が苦手なだけなのだが。

そして、また死に方を考える。

タバコを消し、車をUターンさせ来た道をもどり、本当の目的地へと車を走らせた。

何事もなく目的地に到着した。どうやらアイちゃんは本当に壊れてしまったようだ。

目的を果たし外に出ると、あたりはもう薄暗くなっていた。

今日のやる事は終わった。

アイちゃんで会社に直帰すると伝え車を走らせた。

薄暗い山道を下っていると、突然アイちゃんが

ポン、100M先右折です。と告げた。

行先も設定していないのに、おかしい。しかもさっきの細い路地だった。

またなにか誤作動を起こしたのかとも思ったのだが、正直気になる。

意味があるような気がした。

路肩に車を止めしばらく悩んだ末に、もう一度行く事にした。

なぜかは解らないが行かなければいけないような気がした。

ポン、100M先目的地です。

ほどなくして先ほどの神社の場所に到着した。

アイちゃんから「目的地に到着しました、お疲れ様でした」とアナウンスされない。

電源が入っていなかった。なんだか無性に怖くてたまらなくなってしまった。

窓の外を見るともう真っ暗で車のライトで照らされた鳥居だけがフロントガラスから見える。

暗くなっているから先ほどよりも一層不気味に感じる。

ここまで来たはいいが車から降りる気にはやっぱりなれない。

車をUターンさせようと少し神社の敷地に入り車を動かしていると視界の隅に人のシルエットを見たような気がして、その方向を向いたが人なんて居る筈もなく、気のせいだったと安堵していると、助手席のドアが“ガチャ”と開き、

「なにしにいらっしゃったのですか?」

びっくりした。心臓が止まるかと思った。

そこには白髪の老人が立っていた。どこにでもいそうな普通の服をきた老人だった。見た目は70歳位だろうか。

その老人曰くその神社の管理者らしく、今日はたまたま神社に用事があり来ていたそうだ。自分の愛車の自転車が壊れたので、近くの家まで乗せてくれとも頼まれた。

断る間もなくその老人は車に乗ってしまったので、頭真っ白な俺は「あ、はい・・・」としか答えられなかった。

老人の家はそこからまだ上に行くとの事なので、また車をUターンさせ山道を登った。

道中またあの質問をされた。

「それで、貴方はなにしにいらっしゃったのですか?」

老人に対して“スマホに誘導されて”なんて言ってもたぶん「え?」で終わるだろう・・と悩み返答に困っているとまた質問がきた。

「失礼な事いうかもしれませんが、もしかして死のうとしてここにきたのですか?」

死にたいと日頃思っているものの、別にそんな理由で来たのではない。ましてや自分で死ぬ勇気なんてない。

またもや返答に困り短く「いや、別に・・・」と小首を傾げ小声で答える。

すると老人は深い安堵らしき溜息をついてこういった。

「昼間もきていましたよね?その時鳥居をくぐってませんか?」

何処で見ていたのだろうか?またも短く「ええ」と答えると、少し先にログハウスのような雰囲気のいい建物が見えてきた。どうやらここが老人の家のようだ。

車を家の近くに止め「ここですか?」と尋ねるが、質問が宙を飛び老人が話をつづける。

「そうですか。よかった。」

その老人は少し安堵するように溜息を吐き、話を続けた。

「鳥居をくぐってしまうと、帰ってこれないのですよ。ここの神様はよくないものになってしまった。たぶんあなたも誘われたのでしょう」

ぞっとした。蜘蛛がいたから入らなかっただけで、もしいなかったら鳥居をくぐっていただろう。家の前に車を止めもう一度「ここですか?」と尋ねる。

「ええ。有難うございました。本当に助かりました。実は昼間に来た貴方の事が心配で見に来たのですよ。帰りはなにがあっても車を止めてはいけませんよ。」

そう告げると老人は助手席のドアを開け降りて行った。

車を降りた老人はこちらに振り返り、俺の顔を見た後に後部座席を何故か見た。そして目を見開き「でてけ!!!!!」と一括。

いままでの柔らかい口調ではない乱暴な言葉と鼓膜が破れそうな大声に

体がビクッとなり、運転席側のドアの上に付いてる取っ手に勢いよくぶつけてしまった。それを見た老人は

「いやー気にしないでくださいね」と言いドアを閉めた。

またもや頭真っ白な放心状態。だがもうここから離れたいと思う気持ちが強く身体が勝手に車を発進させた。

今日はよくUターンをする日だとも頭の片隅で思いながら。

車の進行方向を変えた時には、もう老人の姿はなかったが気にも留めず来た道を戻る。少しして鳥居が右手に見えてきた。

鳥居を見ずに帰ろうと強く思いはしたものの、視界に入ってしまう。無意識にアクセルを強く踏みスピードを速める。

鳥居まであと20Mくらいだろうか、突然黒い何かが鳥居から飛び出してきた。スピードを上げていた為、ブレーキを踏むが止まる事も出来ず、タイヤが「ゴッゴッ」と鈍い音をだし、ブレーキを踏む足に気持ちの悪い感触が残った。

無意識に轢いた何かを確認するために車を降りた。

すると突然、胸ポケットに入れていたアイちゃんの無機質な声で

「目的地に到着しました。お疲れ様です。」とのアナウンスが大音量で流れた。思わず仰け反り腰が抜けてしまった。

車を降りたばかりで、運転席のドアにもたれ掛るような形になってしまった。

目の前の暗闇に浮かび上がる真っ赤な鳥居はとても異様な雰囲気だった。

一刻も早くこの場所から離れたかったが体が思うように動かせず上半身をねじり地面に手をつき、なんとかハイハイの格好になってドアの取手に手をかけた。

ドアを開ける手の平にネットリした液体が付いている事に気が付き、泥かと思ったが雨はここ最近降っていない。しかも地面から嘔吐物の臭いがした。

暗闇だが車のヘッドライトの明かりが辺りに反射してるので地面がなんとなく見える。

地面は前輪のタイヤから真後ろにかけて色の濃さの違う土が筋状に伸びていた。それを目で追っていくと小動物の死骸がテールランプの赤い光に照らされて横たわっていた。

野良猫位の大きさだったが原型がわからない。

かわいそうな事をしてしまったと思っていると何処からか「ザッザ・・・ザッザ・・」と継続的な音が聞こえてきた。

ドアの取手に手をかけた状態で音の出処に目を向けると鳥居から黒い人のシルエットをしたものが、匍匐前進をするようにまっすぐ死骸に向かってきていた。

この世の物ではないと思った。そいつは上半身だけしかない。全身に鳥肌が立ち恐怖で動けない。俺と小動物の死骸まで5メートルもないし、音をだすとそいつが俺の方に向かってきそうで目が離せない。

とうとうそいつは小動物の死骸までたどり着くと、勢いよく掴み音を立てながら食いだした。

股間が厚くなり失禁した事に気づき、「逃げなければ殺される」ふいに頭の中にその言葉が連呼する。

そいつは食うことに夢中の今しかない。そう思いドアの取手を勢いよく引いた。想像ではそのままいっきに車に乗り込んでドアを閉める構図だったが、恐怖で全身に力が入りすぎていて行動が遅く、しかもうまく車に乗り込めない。もたもたしていると、そいつがこちらに振り返り。

そして「ザッ・・・ザッザッザッザ」とさっきより速いスピードでこちらに向かってきた。

なんとか車に乗り込みドアを閉める瞬間にそいつが見えた。ドアが閉まる一瞬がとても長く思えた。

ギアをドライブにいれアクセルを全開まで踏みその場を離れた。

心臓のバクバクする音がだんだんと治まってきた。と同時に全身が震えだしたその時、アイちゃんのアナウンスが流れた。

ポン・・・目的地まで50Mです。

え?

ポン・・・目的地まで30Mです。

どこが目的地?

ポン・・・目的地まで5Mです。

国道までなのか?とも思ったがまだ先のようだ、サイドミラーに何か映ったような気がした。耳元で「死にたいのだろ?」・・・と聞こえた。

ポン・・・目的地に到着しました。お疲れ様でした。

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神様が鬼神の如く怖く思いましたね

いい神様だけじゃないし(´・ω・`)

主人の驚き加減に思わず想像し笑ってしまいました!
大変ユニークな文章力♪( ´∀`)その他のお話もこれから読ませて頂きます(´・ω・`)

ほんと怖い…
最高

コメント有難うございます。

怖い、すばらしい、面白い、つづきが読みたい等、本当に嬉しい言葉です。
読んでくれた方全員に感謝です。

ここで切るからこその怖さですね。

序盤にゆるゆると迫ってくる緊張感、そこから後半のスピードある怖さ、とても面白い話でした。

受賞しただけあって素晴らしい!

受賞おめでとうございます!

すごい怖い(泣)

途中まで悪霊?が車に乗ってたのか?!

続きがきになりますねぇー。

続きがきになるw
でも続きは自分で想像したほうがいいのかな

774様

コメント有難うございます。
続き、頭にはあるですけど…書いたほうがいいでしょうか?

面白かった
終わりがなあ
気になって仕方ないわ

ちゃつづ様

コメント有難うございます。
最後ですか?ご想像にお任せします。

怖かったですΣ(-∀-;)
最後が気になります(。>д<)

zjw3sa様、cappuccino様
コメント有難うございます。
読んで頂いて嬉しいです。

やん!恐いぃぃい( ;´Д`)

とても惹きこまれる話でした!

鯰雲様

コメント有難うございます。

学生時の国語の評価は5段階評価で1に近い2でした。
なので本当に嬉しいです。