長編9
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闇坊主(再投稿作)

私には人に言えない秘密がある。

子供の頃にある過ちを犯してしまい、以来誰にも言えない秘密を持つようになった。

私はあの日から今日までずっと我慢してきた。

しかし、私ももう限界のようだ。

誰かにこの秘密を教えたくて仕方がない。

あれからもうかれこれ30年は経っただろうか・・・。

もしよかったら、どうかこの私の秘密を聞いてやって欲しい。

 

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私が「うちの家は変わっている」という事に気づいたのは、始めて友達の家に泊まりに行った小2の時だった。

「寝る時に電気消しちゃいけないんだよ」

私の言葉に友人だけでなく彼の家族まで不思議そうな表情をしていたのは、今でも微かに記憶に残っている。

学校でクラスの皆に聞いても、誰も私の意見に賛同してはくれなかった。

その時初めて「夜寝る時も部屋の明かりは消さずに寝る」という行為が、我が家だけの常識だという事を知った。

中には「小さいオレンジの電気(正式には『保安灯』と言うらしい)をつけて寝る」という子もいたが、私の家では通常時の白い蛍光灯の光のまま寝ていたのでまるで違う。

もっと言ってしまえば寝室だけでなく玄関や台所や洗面所、時には居間も明かりをつけたまま寝る日もあった位だ。

クラスの悪ガキは「お前んちの家族みんな怖がりの弱虫だから電気消して寝れないんだろ!」なんて言っておちょくってきた。

悔しかった私は、『自ら真っ暗なトイレの中に駆け込み10分間閉じ篭る』なんて珍妙な行為をして我が家の汚名だけは返上しておいた。

 

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しかし、結局「うちの家が変わっている」という事実に変わりはない。

どうしても気になった私は、帰宅してすぐに台所で洗い物をしていた母に聞いてみた。

「ねぇお母さん、どうしてうちは夜寝る時に電気消さないの?」

「・・・・・ん~、なんでそんな事聞くの~」

「だってクラスの全員に聞いたけど、電気つけながら寝るのってうちだけだってよ?」

「・・・・・よそはよそ、うちはうちでしょ~」

母はそう言って適当に返してくるだけで、全く取り合ってくれなかった。

夕飯前に帰ってきた父にも同じように聞いてみたが、残念ながら結果は変わらず。

結局その日のうちに我が家の謎が解明される事はなかった。

しかし私は諦めなかった。

むしろチャンスが来るその日をずっと待ち続けていたのだ。

ある日、父が泥酔状態で帰ってきた際に入れ替わりで母が買い物に行く時があった。

「すぐ戻るから」と足早に出かけていく母を玄関で見送りながら、小さくガッツポーズをした。

私は「待ってました」とばかりに急いで父に駆け寄った。

父は昔から酒にめっぽう弱く、酔うと極端に口が軽くなってしまう所があった。

そのせいでよく母に問い詰められている場面をよく目撃していた私は、この機会を首を長くして待っていたのだ。

酔っている父にもちゃんと聞こえるようハッキリとした声で、あの日と同じ質問をした。

「・・・・・おい、今なんつった?」

父の表情が一瞬険しいものに変わった。

思わずヤバイ!と息を呑んだが、一瞬でまたグデングデンのだらしない顔に戻り急に笑い出した。

「まぁお前ももう大人だからな~(その時もまだ小2だったが)そろそろ教えてやった方がいいか!」

どうやら私の企みは上手くいったようで、それから父はゆっくりと話し始めてくれた。

 

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酔った父の話は所々何を言ってるのか解らないような酷いものだったが、一応なんとなくは理解出来た。

ようはこの家には妖怪がいるという事らしい。

その妖怪は「闇坊主」という名前で、暗闇にしか現れないのだそうだ。

暗闇にしか現れない理由は闇坊主が光を苦手としているからだそうで、少しでも光があればすぐに逃げていくんだとか。

おかしいと思われるかもしれないが、私は父からその話を聞いた時に思わず興奮してしまった。

漫画や昔話でしか見た事のない妖怪がうちの家に住んでいるなんて、にわかには信じられない話だ。

でももし本当なら河童や座敷童子みたいな本物の妖怪をこの目で見れるかもしれない!

本当なら見てみたい。

好奇心を抑えられなかった私は、その日から家で一人になれる機会を待った。

そしてそれは思いのほか早くやってきた。

 

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たしかあの日は闇坊主の話を聞いてからだいたい2週間位経っていた頃だと思う。

その日は日曜だったが、父の仕事は休日が月曜と変わっていたので家には私と母の二人だった。

まだ時間は昼の3時か4時位、天気が良かった事もあって外はまだかなり明るかった。

私が居間でテレビを見ていると母が外出する準備をしながらこう言った。

「ちょっとお母さんお買い物に行ってくるわね」

戸締りに気をつけるよう何度も注意してから、母は私を一人残して出かけて行った。

心の中で思わず「やった!」と叫んだ。

玄関の鍵を閉め、すぐに家中の部屋の電気を消して回る。

まだ明るい時間だったので電気がついている場所はそれほど多くなく、作業はすぐに終わった。

だがすぐにある重大な問題に気づいた。

逆に外が明るいからこそ、電気を消しても明るさがそれほど変わらない部屋がほとんどだったのだ。

どうしよう?

さすがに外が暗くなる頃にはお母さんも帰ってきちゃうぞ。

私は悩んだ。

決して出来が良いとは言えない脳みそをフル回転させ、必死に何か方法はないかと考えた。

「あっ、そうだ」

私は2階にある、ある部屋の事を思い出した。

その部屋には普段あまり使われない荷物やクローゼット等が置いてある。

たしかあそこは子供部屋と両親の寝室に挟まれ窓も一つしかない為、窓を塞ぐと真っ暗になってしまったはずだ。

すぐにその部屋に移動し確かめてみた。

部屋に溢れる光は全て窓からのものであり、その窓自体もそれほど大きい物でもなかった。

窓の近くには乗っても大丈夫そうなテーブルもある。

これならいけそうだ。

私はすぐに、以前大きな黒い布が締まってあったのを見かけた物置まで走った。

 

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その後、少し手こずりはしたが数十分で窓からの光を遮る事に成功した。

入口のドアは閉めてあるので、後はもう今つけている電気を消すだけだ。

念のため持ってきた懐中電灯を握り締めながら、ドアの前の電灯スイッチに手を伸ばす。

もし仮に「闇坊主」が襲ってきたとしても、電気のスイッチのすぐ近くでしかもドアの前という場所、さらに保険の懐中電灯まで用意したのだから何も心配はないだろう。

私はなんの恐怖も抱くことなくスイッチをOFFにした。

部屋は一瞬にして真っ暗闇と化した。

何も見えない・・・。

以前夏祭りの日に夜の森に入った時も相当暗かったが、これはそれの非ではなかった。

この時始めて心の奥で恐怖と不安という感情が少しだけ芽生えた気がする。

それから数分が経ち、少しずつ部屋の家具等が見える位にまで目が慣れ始めてきた。

シルエットからゴルフバッグやクローゼットやらが先程と変わらない位置にあるのが解る。

私が部屋の中の家具を確認していると、気づいた時にはそいつはすでに部屋の奥にいた。

初めは小さい椅子か何かかと思った。

だがよく見るとそれが体育座りをしている人間の子供のようなものだと解った。

暗くてあまりよく見えなかったが、たぶん服は着ていなかったと思う。

体の大きさからして歳は同じ位だっただろうか。

そいつは顔を伏せながら同じ姿勢のままじっとしていて動かなかった。

突然の出現に驚いた私は、そいつから暫く目を離せなかった。

息を凝らしてそいつの様子をしばらく見守り続けた。

だが意外にもただ座っているだけで、襲ってくるどころか全く微動だにしない。

徐々に緊張の糸はほぐれていった。

なんだ、こいつ何もしてこないじゃん

相手に攻撃する意思がないと解った途端、私は調子に乗った。

そして「いっそ懐中電灯の光を当てて退治してやろう」なんて馬鹿な事を考えてしまったのである。

懐中電灯をそいつに向けたまま少しずつ近づいていった、その時だった。

そいつが不意に顔上げてこちらを向いた。

 

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暗闇の中でも何故かはっきりと解った。

そいつには顔がなかった。

目も鼻も口も耳もない。

完全な「のっぺらぼう」だ。

それを見た私は完全にビビってしまった。

もう懐中電灯で退治しようなんて気は欠片も残っていない。

ただただ逃げる事しか頭の中に残っておらず、すぐにこの部屋から出ようと後ろを振り向いた。

しかし、あと少しでドアノブに手が届くというタイミングで転んでしまった。

見ると足首を掴まれていた。

そいつは頭を打って意識が朦朧としている私の上に馬乗りになり、ゆっくりとだが力強く首を絞めてきた。

懐中電灯は転んだ時にどっかにいってしまっていた。

首を掴む両手にさらに力が入るのが伝わってくる。

・・・徐々に意識がなくなっていく。

その時何故か目の前によく知っている顔があるように思えた。

何度も何処かで見た事があるような顔・・・・

だが何故か思い出せない・・・・

その時の感想を言うならそんな不思議な気分だろうか。

私は死を覚悟していた。

 

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「なにやってるのあんたっ!!!!!」

気がつくと開かれたドアの前に母がいた。

いつの間にかあいつはいなくなっている。

母は私の顔を見るなり急に泣き出し、すぐに私は救急車で病院に運ばれた。

私は母に命を救われたのだ。

後から聞いた話によると、母は私の様子がおかしい事に出かける前から気づいていたらしい。

玄関で見送る際も妙にソワソワしていたので、何か悪巧みでもしてるんじゃないかと早めに買い物を終わらせて帰ってきたのだそうだ。

だがまさか私が「闇坊主」に会おうと考えていたなんて事は夢にも思わなかったそうだが。

その後無事に退院出来た私は、改めて両親から「闇坊主」の話を聞かせて貰った。

 

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「闇坊主」というのは母が昔住んでいた地域で一部の人達に語り継がれてきた伝承に出てくる妖怪らしい。

奴らには顔が無く、顔が見えない暗闇でしか行動しないという。

何故かは解らないが、闇坊主は顔を見られるのを極端に嫌う。

そして奴らは常に人間の顔を欲しているのだそうだ。

つまり奴らは顔を奪う為に人を襲うのだ。

また「闇坊主によって顔を奪われた人間はこの世から消えてしまう」とも言われている。

事実、母の知り合いでも一人行方不明になった人がいるそうだ。

顔を奪った闇坊主がその後なにをしているのかも解っていないらしい。

一説によると「人間に紛れてひっそりと暮らしている」なんて言われてもいるらしいが、真相は不明。

まぁ正直な話「ほとんどよく解っていない」のが本当のところだそうだ。

ただし【闇坊主に襲われない為の対処法】はちゃんと存在する。

1つ目は『一人っきりで暗い部屋に入らない事』。

以前にも言ったとおり、奴らは光のある所には姿を現さない。

絶えず明かりをつけていれば特に問題はない。

さらに「個室に一人だけの状況」でなければ襲ってこないらしい。

だからどんなに暗くても屋外であれば奴らに狙われる心配はないのだそうだ。

そして肝心な2つ目。

・・・・もしかしたらもう気づいている人もいるだろうか?

それは『闇坊主の存在を知らないままでいる』という事だ。

何故かは解らないが奴らは自分達の存在を知らない人間の前には姿を現さない。

「【闇坊主】という妖怪がこの世に存在する」という事を知っている人の前にだけ現れるのだ。

私の父は母に闇坊主の話を聞いてしまったそうだ。

父は最初全く信じていなかったそうだが、一度見てしまった為に信じざるをえなくなったらしい(すぐに明かりをつけた為襲われはしなかったとか)

今ではこの「闇坊主」の存在を知る者も少なくなり被害はほとんど出なくなったそうだが、私は運悪く両親ともに知る家庭に生まれてしまったのだ。

一応言っておくが、心配せずともあなたの家に今日すぐ「闇坊主」が現れる事はないと思われる。

私の場合は両親が「知っている人間」だった為、すでに「闇坊主」に憑き纏われていたというだけの事だ。

恐らく奴らに見つかるまで1週間か2週間位は今のままでも大丈夫であろう。

 

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今これを読んでいるあなたは私の事を恨んでいるだろうか?

しかし、これから数十年と経った時、あなたは知るだろう。

誰にも言えない秘密を持ったまま生き続けるのがどんなに辛いのかを。

私の父は5年前に行方不明になった。

母も2ヶ月前に病気で亡くなった。

私は今、部屋中電気をつけた家に一人でひっそりと暮らしている。

あなたもいつかそうなる時が来るだろう。

その時きっと今の私の気持ちを理解してくれるはずだ。

「誰かに教えたくてしょうがない」「私だけ苦しんでいるのは不公平だ」「この苦しみを誰かに植え付けてやりたい」

私の今の心の中は、あの日醜く歪んでしまった「この顔」と同じ位おぞましいものとなってしまっている・・・・

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凄い‼
あっという間に読んでしまった‼

お父さんは…まさか…?

終りも余韻を残して考え想像する素晴らしい終わり方で本当に良かったです!

次の投稿楽しみにしています(*≧∀≦)

コメントも怖い(´д`|||)

もしかして、バケモノガタリ様も…?
どうか違うと仰って下さい(笑)。

[言葉遊びの弟子]さん
コメントありがとうございます。
死ぬまで永遠に続く苦しみ、って考えるとある種の呪いみたいなもんとも言えますね。
顔を奪った奴らは今日も何処かで密かに暮らしているのかもしれません。
そして身近な人に広めていくんです。
「ねぇ、「闇坊主」って知ってる?」

怖いです!深々とした、纏わりつくような恐怖感を味わいました。

体験談風に語られているので、リアルを感じました。闇坊主に顔を奪われた人間が、普通に日常生活を送っていたら…自分がよく知っている人と入れ替わっていたのだとしたら…怖い怖い。

闇坊主の存在を知ってしまった主人公が、灯りを絶やすことが出来ずにたった1人で生活をしていると思うと…いや、1人ではないのですよね。

もう1人…闇の中だけでしか生きることが出来ない怪異が、ひっそりと傍らにいるのですから。