地獄。【姉さんシリーズ】

13年09月怖話アワード受賞作品
中編5
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地獄。【姉さんシリーズ】

俺には4つ年上の姉がいる。最近、かなりの率でブラコン度が増してきた姉さんは、やたらとスキンシップを取ってくる。キャミソールとショーツという薄着で抱き付いてきたり、「今晩、一緒に寝ようか」と言ってきたり……今日なんて、わざわざ高校を休んで俺の参観日に来ていた。マジでビビった。

クラスメートからは「あのキレーな人誰?」「誰のお母さん?」「いや、お母さんにしちゃ若過ぎでしょ」「お姉さんかな」などと、歓声めいた声が上がる中、俺はひたすら俯いていた。

お陰で授業は殆ど上の空。確か現国の授業だったと思うが、先生の話なんてサッパリ頭に入ってこなかった。ノートも真っ白だし。

悪夢のような授業参観が終了し、ホームルームを終えて帰ろうとしたら、姉さんが校門で俺を待ち構えていた。確か授業参観の後は保護者同士の懇談会がある筈なんだが……。それには出ないのか?

「ね、姉さん…?懇談会には出なくていいの?一応、母さんの代わりで来てるんだから、出た方がいいんじゃない?」

「やだね。ンなかったるいもん誰が出るか。私が今日、ここに来たのは品定めだよ。お前のクラスメートの雌豚共がどんな顔触れか確かめてみたかっただけだ」

さらりと毒を吐き、「帰るぞ」と踵を返す。あまりの潔い暴言っぷりに、逆に清々しく感じてしまう。悪口もこうも堂々と目の前で言われると、後腐れがない。

俺達は並んで帰路についた。姉さんは機嫌がいいらしく、家に帰ったらホットケーキでも焼いてやるぞとか言っていたが、彼女の料理の腕前を熟知している俺は、胸焼けがしてきた。

胃液が込み上げてくるのを我慢しながら歩く。そこは丁度、高層マンションの下だった。すると、急に姉さんが立ち止まり、ふと上空を仰ぐ。つられるようにして俺も空を見上げると、白いふわふわしたモノが落下してきた。

ドシャッ!!!!ピチャッ……ピチッ……、

「…、…ッ、うわああっ!!!」

それはーーー人間だった。俯せで倒れているので顔は分からないが、長い髪とふわふわのワンピースから、女性だということが分かる。

投身自殺?飛び降り自殺?それとも事故?或いは殺人?あああ、そんなことより早く救急車呼ばなくちゃ。ええと、救急車なんて呼んだことないから、何番を押せばいいのか分からないぞ。110だっけ?いや、それは確か警察だ。どうしよう、早く呼ばないと大変だというのに、頭の中がパニックになってしまって、携帯をどこにしまったかも思い出せない!

「そうだ!確か警察は119番だ。でもって、あとは携帯を探してーーー」

俺がポケットや鞄をガサゴソ探していると、信じられない現象が起きた。これを奇跡と呼ばずにどうするーーー何と、地面に倒れていた女性がムクリと立ち上がったのである。

何階から落ちたのかまでは見ていないが、もしかしたら、そんなに高い階からは落ちていないのかもしれない。とりあえず声を掛けようとすると、姉さんがそれを手で制した。

「止めとけ。今の彼女に何を言っても通じねえよ」

「え…?でも、助けてあげなくちゃ。まだ生きてるみたいだよ。動いてるし」

「違う。よく見てみろ」

重苦しい口調で呟く姉さんを横目に、女性の様子を窺う。彼女はしっかりと両足で立っていた。おまけにどこも怪我していない。顔も腕も足も。ワンピースは破けてもいない。掠り傷1つ負っていないのだ。ただーーー彼女は正気を失っているかのように、目の焦点が合っていなかった。

「橋元君がいけないの。私を捨てたりするから。紗栄と浮気したりするから。私のお腹には橋元君の赤ちゃんがいたのになぁ。生みたかったのになぁ。橋元君との子どもだもの、可愛い筈なんだけどなぁ。橋元君が認知しないなんて言うから。別れようなんて言うから。結婚するって言った癖に、嘘つき。嘘ばっかり。覚えてなさいよ、ワープロに遺書を書いて保存してきたんだから。全部書いてやったんだから。世間に知らしめてやるんだからね。後悔しろ。

死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやるし ん で や る」

ブツブツと呟きながら、彼女はスッと消えた。あれっと思う間もなく、跡形なく消えた。

「あれっ……?」

ドシャッ!!!!ピチャッ……ピチッ……、

一瞬。瞬きしているほんの一瞬の内に、先程の女性が再び飛び降りてきた。何だこれ……。

「この道は駄目だな。もう通れない」

姉さんは呟くと、俺の腕を引き、くるりと方向転換した。そして交差点を渡り、わざわざ遠回りになるルートを選びながら、時間を掛けて帰宅した。

「あの人……、幽霊なの?」

玄関先でへたり込みながら姉さんに尋ねる。何て言うか、今まで見た中で、1番後味の悪いものだった。彼女は死した後も、ああして飛び降りているのだろうか。自分が既に死んでいるという事実に気付いていないのか?

姉さんは俺の頭にポンと手を乗せた。

「彼女はね、”地獄”に堕ちたんだよ」

「じ…地獄?閻魔大王様がいたり、血の池があったりするあの地獄?」

姉さんは呆れたように首を振り、「それは日本昔話に出てくる逸話だろ。小学生みたいなこと言ってんな」と俺の頭を軽く小突いた。

「自殺は最大の罪に値する。他人を殺すのも勿論罪だが、それに匹敵するくらい自殺というものは悪いことなんだ。自殺者は無限地獄に堕ちると言われている。無限地獄に堕ちた者は、自分が死ぬ瞬間を永遠に繰り返さなくてはならないんだ。無限のループーーーいつまでたっても救われることなはい。飛び降り自殺をした者は、ああして何度も飛び降りを繰り返し、首吊り自殺をした者は、何度も首を吊る。未来永劫、死の瞬間の苦しみを味わうことになる。成仏なんて出来ないし、魂が浄化されないから、生まれ変わることも出来ないんだ」

「……可哀想だね」

そういえば、伯父さんもそうだったっけ。彼もまた首を吊って自殺し、結果として地獄に墜ちた。伯父さんも、ああして何度も首を吊っているのだろうか。ずっとずっと、首を吊り続けてーーー今この瞬間にも。

「私に言わせれば、自業自得だよ。可哀想だとは思うけれど、同情はしない。ああなると、もう救う手立てはないしな」

さあて、ホットケーキでも作るかな。姉さんはとってつけたように明るく言うと、靴を脱いで上がり、キッチンへと入っていった。俺は玄関先でへたり込んだまま、両手を合わせて合掌した。

合掌したところで、どうにもならないのだけれどーーー彼らを救うことは出来ないのだけれど。合掌せずにはいられなかったのだ。

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アワードおめでとうございます
面白かったです

ただ無限地獄ではなく無間地獄、が正しいようです(このお話の創作だったらすみません;

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うちの姉さんと取り替えたいです(笑

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【山口敏太郎2013年9月怖話アワード動画書評より】

姉さんシリーズ。これまたキャラ推し1本の姉さんシリーズ。もうキャラが完全に活きてますね。ありきたりのネタなんですけども、それをうまく処理しています。
姉さんの男前ぶりをうまく表現していると思います。これはですね、姉さん萌えのファンが増えるんじゃないかなと思ってますので、今後も期待できるシリーズですね。こんな姉さんがいたら、ぜひ弟になりたいなと思うのは我々40代男子もそう思いますね。

他の作品の書評はこちら 
http://blog.kowabana.jp/126

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> 言葉遊びの弟子。さん

怖話アワード受賞おめでとうございます。つきましてはAmazonギフト券5000円分をメールでお送りすることになっているのですが、
「現在使っているスマホでの@kowabana.jpドメインからのメールの許可設定」
もしくは
「PCからのメールを受け取れるメールアドレスの用意」
は可能でしょうか。

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しょーま様。コメントありがとうございます。

お姉さん、欲しくなりましたか(笑)。結構、オラオラ系の姉様ですが、受け入れて頂けたようで嬉しいです。

因みに。私はお兄さんが欲しかったですね。一人っ子なので。

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お姉ちゃんが欲しくなりました(笑)

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ダレソカレ様。コメントありがとうございます。

余談ですが。ダレソカレ様の名前自体が言葉遊びみたいな響きになっているんですね。黄昏時は暗くなってくる時間帯なので、人の顔もハッキリ分からなくなってくる。「誰ぞ彼(あなたは誰)」…ということから、黄昏という言葉が生まれたのでしたか。

こういった言葉遊び、私は大好きです。

姉さんシリーズを読んで頂き、ありがとうございます。これからも宜しくお願い致します。

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姉さんシリーズ、いつも楽しく読ませて頂いてます
これからも頑張って下さい

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ユウ様。コメントありがとうございます。

姉さんシリーズは私も思い入れのある、大切な作品です。こうして多くの方々に受け入れて頂き、本当に嬉しく思います。

そうですね。ユウ様がそう仰って下さるのであれば、もう少し続ける覚悟が出来ました。

これからもどうぞ、宜しくお願い致します。

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小魂様。コメントありがとうございます。

温かいお言葉、感謝致します。誉められると、すぐ有頂天になる人間です(笑)。

私は元々怖い話が大好きで、それをどこかで形に出来ないかと思っていた時、偶然このサイトを見つけました。こうしてこの場をお借りして活動出来ることがととも幸せです。

ありがとうございます。

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姉さんシリーズいつも楽しみにしてます!
これからも続けください↑

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このシリーズ大好きです

笑がある中にぞくりと怖いけど、きっちりとオチが毎回あるのが読んでて楽しいです♪

これからも新作楽しみにしてます♪

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緋櫻様。コメントありがとうございます。

姉さんシリーズを読んで頂き、ありがとうございます。サバサバしていて、結構キツい性格の姉さんですので、受け入れて貰えるか心配していたんですが。多くの方に読んで頂き、姉さんを好きだと言って頂け、安堵すると共に、とても嬉しく思います。

長らく続いた姉さんシリーズですが、次回で終わりにするか続けるか迷っております。

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姉さんシリーズ初めて読みました!
姉さんのキツイけど信頼のおける感じのキャラが良いですね〜
二人の掛け合いが頭に浮かんできました。他の作品も読んでみます!

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三遊亭幽霊様。コメントありがとうございます。

姉さん、タイプでいらっしゃいましたか(笑)。結構、性格がキツい姉さんですので、受け入れて貰えるか心配てましたが。好きと言って頂くことが多く、ほっとしております。

これからも宜しくお願い致します。

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欲求不満様。コメントありがとうございます。

漫画化とか素敵ですね!!どなたか書いて頂けないものでしょうか。私も読んでみたい(笑)。

従兄弟さんのこと……心よりご冥福をお祈りします。私も似たような経験があるので、自殺は絶対にしてはいけないものだと自負しております。

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姉さんの弟に対しての言動がだんだんと猥褻になってる(笑)
これを漫画化したらイヤラシイ作品になりますね。

従兄弟も自殺したけど、無限に死の瞬間を繰り返してると思うと、悲しくなりますね。

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来道様。コメントありがとうございます。

かなり飛ばしての更新でしたが、ついてきて下さり
、私もとても嬉しいです。

来道様のコメントを読む度、何回笑わせて頂いたことか(笑)。これからも姉さんシリーズを宜しくお願い致します。

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