中編3
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一番いいポジション

別れ話を大分こじらせたカップルがいて、彼女が彼氏に「見せたい物があるから。」って言って、呼び出されたんだって。

そのカップルは長い付き合いで「色々な物をあげたり貰ったりしたから『思い出の品』みたいな物を見せて、考え直させる気なんじゃないか…。」

ウザかったけど、彼女は「その上でキッパリ断ってやろう。」と思って、彼氏のマンションに夜向かったんだそうだ。

彼氏のマンションの側まで来て、タクシーを降りたら携帯が鳴った。

彼氏からだった。

「なによ?着いたよ。」

「おーい、ここ、ここ。」

「?」って思って、五十メートルくらい先のマンションの入り口を見た。

暗くてよく分からないけど、人影が見えた。

「ごめん、ごめん。」

「すぐだから、すぐだから。」

ガチャ

バタン

ドタドタと、部屋の中であろう音が聞こえて、それからエレベーターの来る

チンって、言う音が聞こえたんで

「やれやれ、やっとか…。」

なんて思ってたら、重そうなドアを開ける音が携帯から聞こえた。

入り口の方を見たらどうやら彼氏がこっちに手を振ってるみたい。

「わざわざ下まで迎えに来たのか…。」

と思ったら、脱力しちゃって

「は?そこにいんの?なんか訳分かんないんですけど。」って言いながら、入り口に向かって行ったら 「あ、ごめん!忘れ物した。」

「ちょい待って。」って言うんだって。

「待つのダルいし、部屋に行く。」って、言ったんだけど

「あ、いい。」

「そこで待ってて、そこで。」って言って、聞かない。

「すぐ戻るから。」って、入り口に消えちゃった。

何故かその間も携帯は繋がったまま。

『何考えてんのか訳分かんないし、勝手に電話切ってキレられるのも嫌だし…。』

「私、急いでんの。」

「バイトから直接来たんだよ、終電もなくなるしさ…。」、彼氏はまだ来てないみたい。

『裏口かな?』と、思って

「ちょっと、どこよ?」

「お待…せ…。」

「ん?電波悪いな。」

「聞こえないよ、なんて言ったの?」

「…待た……せ…。」

「は?」

「お待たせ。」「は?」

「お待たせ。」

彼氏の声がハッキリと聞こえた、その瞬間。

ドサッッ!!!

後ろ数メートルの方から、物凄い大きな音が聞こえた。

「もしや!」

と思ったら、やっぱり彼氏だったんだって。街灯に照らされて、今まで見た事もないような量の血が頭から止まらなくて…。

その後、警察は「わざわざ彼氏が下で待ってた後、待っている場所を指定したのは、よく考えれば『飛び降りる時に彼女を巻き込みたくなかった』。」

「悪く考えれば『街灯の下の、一番良いポジションで自分の事を見せる為』だったんじゃないか。」

って。

「忘れ物」であったと思われる屋上に残されていた遺書には、恨み辛みなんかは全く書かれてなくて。ただただ『自分が彼女の事をどれだけ好きなのか』が延々と書き連ねてあったそうだ。

それ以来、彼女は色々な意味でダメになっちゃって。

仕事も休みがちで、もちろん男なんか作れない。

携帯もあれから一度も使ってないんだって。

あの、電話がコンクリートにぶつかる

グシャ

って音がまた聞こえてくるんじゃって音がまた聞こえてくるんじゃないか、そう思うと電話を耳に当てる事ができなくなったんだそうだ。

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