コンビニエンスストアで起きた怪奇殺人

長編18
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コンビニエンスストアで起きた怪奇殺人

俺の名前は『皐月 未来』

姉、『美緒』の結婚から3ヶ月が経ったある日に起きた出来事を話す…

……………………………………

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駅を出て直ぐに俺の勤めるコンビニがあるのだが、その店にはあらゆる怪奇現象が起こるとされ、近所をはじめ隣町にまで噂が広がっているそうだ…

そのことが噂になっている事を知ったのは、ここで働き始め暫くしてからだが…

俺が働いている時に限ってはおかしな異変は見られなかった。ちょっと前に一つだけ嫌な事があったが…

それ以外は何一つ無い。

そのため安心していたが、その怪奇現象は突然起こった…

俺には、その手のものがハッキリとした形で見える…『視える』と言ったほうが正しいのかもしれないな…

いや…何の怪奇現象も仕事中には無かったと書いたが、店に霊などが訪れる事は毎日のようにある。

ハッキリとした形で見えるので危険の無い霊が訪れる場合はたいして気にもならない…

他の生きた人間と変わらないからだ。ただ、間違って「いらっしゃいませ…」などは言わないように注意はしているが…

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………………

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例えば…次のような奴らが来る。。。

雑誌などを手に取ることができなくて、ただ悔しそうに前に立って眺めている者…

レジ前でしゃがみ込んでブツブツ…と独り言を言って何やら拾おうとしている者…

トイレに行きたいのか先客を待つようにトイレ入り口前で足を交差して貧乏揺すりをしている者…

様々だ。

だが、生きた人間も不思議な客が多い店なので、変な事をしていても気にならなくなっていた。

しかし、『アレ』が来た時には流石に鳥肌が立った…

グリーンのスタジャンにブルージーンズ、派手な色の手袋にマフラーを首に巻いた危険な悪霊、地縛霊が来た話を以前ここに書いたが、あんなものではない…

(リサイクルショップシリーズ14参考。)

時刻はまだ夕方の暗くなり始める時間…

霊は夜中だけ動き回る訳ではない…

そいつは首から上、頭だけ…

ちょうど人間の頭の来る位置辺りで宙に浮いていた…

自動ドアをすり抜けるようにスゥ…と入ってくると…

それに遅れ自動ドアが開く…

その後、誰も入ってくる気配は無い…

今まで訪れた他の霊では無かった事だ…怨念が強い事が予想された。自動ドアが開くなんて、普通の霊ではあり得ない…

自分が死んで要ることに気づいてなどいない…

ちらほらと商品を見回る。

弁当の品揃えが悪い事が気に食わないのか舌打ちをしたり、気になった商品を暫く眺めて…

不気味な笑みを浮かべたりしていた。

俺はというと、気味が悪くて泣きそうだった…

よく見ると、

首は千切れ堕ちた感じになっていた…ナイフや刃物で斬ったならばあんな傷口にはならないであろう感じ…

首の下から食道や気道が垂れ、ブルブルっと血が滴っているのだ…

俺はいつも、霊などには見えない振りをしていたが…それも出来ないほど怖ろしくて、無意識に後退りをしていた…

姿が見えていることに気づいた霊は何をするか分からないと、昔世話になった陰陽道の研究に携わっていた『三ノ宮先生』に言われていた。

俺の目線が自分向いていることを『アレ』が気づいたのは店に入って、レジ横にあるHOTドリンクケースを物色している時だった…

目が合う…

マズイ…

気づかれた…

そう思って目をそらしたが、時すでに遅く、もう一度少し目線をヤツに向けると、俺の顔の前まで凄い勢いで向かってくる…

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『わし…のからだ…どこ…?わしの…からだ…お…まえ…のからだ…わしのか…?』

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ヤバイヤバイヤバイ!

目をつぶる。

その時、店長が裏から出てくる…

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「皐月くん!モモモ…モニターに何か変なモノ……ひゃっ!!

ぎゃあああ!!」

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店長にもヤツが見えたのか、悲鳴を上げる…

目を少し開けると、ヤツは既に目の前には居らず、店長に目を向けるとヤツは店長の顔の前に浮遊していた…

先ほどと同じような枯れた声で店長に迫る…

見ると、後頭部の頭蓋骨が割れているのか、陥没している…

そいつは頭だけだが…容姿を説明すると…

短髪で顎髭を蓄えている…

年齢は店長と同じくらいか…?中年と思われる…

目玉が片方無く、無念のうちに亡くなったのか酷く顔が歪んでいる…

口をぽっかりと開け放たれたまま…

血を吹き出していた…

これまで出会ってきた霊とは比べものにならない程、危険な悪霊であることは、長いことこの手のものが視えてきた俺には直ぐに分かった…

死人が出ても不思議では無い程の強力な怨念がオーラとしてヤツを包んでいたのだ…

俺は恐怖のあまり、体を動かす事が出来ず、ただそれを眺めることしか出来なかった…

店長はへたり込み、言葉にならない事を叫びながら手足をバタバタさせていた…

するとヤツは、店長が怯えて叫ぶために大きく開けていた口に吸い込まれるように、

スゥ…っと入る。

え?

さっきまで大声をあげていた店長が何事もなく立ち上がるとまた裏へと入って行ってしまった。

暫くすると、奥から何かが倒れるような物凄い音が響き、俺も急いで奥へ走った…

首のない胴体がそこにあった…

格好からして、店長だった…

嘘だろ…

と慌てて、携帯を取り出し姉の知り合いに『刈谷刑事』という人が居るのだがその刑事に電話をした。

「何かあったらここに電話しなよ」

と姉から聞いていた番号だ…

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『もしもし…えっと…どなたかな?』

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優しく、落ち着いたその声に聞き覚えがあった…

だがそんな事は今はどうでもいい…

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「刈谷刑事の携帯で間違いありませんでしょうか?!あの…俺…えっと…み…美緒の弟で『未来』っていいます!あの…今、○○駅前のコンビニで大変なことがっ!」

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『兎に角、落ち着いて…美緒さんの弟さん…確か…皐月 未来君だね…以前、君に会った事があるよ。大変なことって、何があったの?』

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以前会った事が?

あっ…あの人だ!

友人の『中井』が何者かに殺され死んだ時に話を聞きに来た刑事…

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「あの…てんちゃ…じゃなくて店長が死んでるんです!店のバックルームで!」

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と、やっとの思いで話すと、すぐ向かいます…と落ち着いた声で答え、電話が切れた。

店内に居た他の客も何事かと覗きこんでいたが、今日は店を閉めるので…と全員追い出した。

その時来ていた他の霊達は追い出すわけにもいかないので、放っておく…

奴らも気になるのか、此方をチラチラと見ていた…

暫くすると刈谷刑事と若い刑事がやって来た…

その遺体を見ると、「こりゃ大変だ…」と、何処かに携帯で連絡を取る。

すると、暫くすると他の刑事や鑑識らしき人達がゾロゾロとやって来た…

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「第一発見者は?彼?」

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と、白髪頭の年配刑事が歩み寄ってくる…

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「何があったか詳しく…

ん…

おいっ!水澤ぁ!!刈谷と監視カメラの確認して来ぉ!そんなとこで突っ立ってないで…ったく…

あっ…すいませんな…その…詳細を教えてもらえるかね?」

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偉い人なのか、周りの刑事に支持をしながら事情を聞く。

異様な死に方をした事を話すと、恐ろしいまでの眼光で俺の目を睨み…

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「貴方は、そのレジの前に立っていた?

…店長さんが奥に入った後を追って行ったわけじゃないんですな?

本当に…?」

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と、何と無く意味深な事を聞く…

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「え…まさか…僕を疑って…」

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その話を聞いていたのか、刈谷刑事が駆け寄ってくる…

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「いやいや警部、監視カメラの録画モニターを見ましたが…その話通り、彼はこの場に立ち尽くして居ましたよ…

今、水澤がモニターの確認をして居ますからご覧になったらいかがですか…?」

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と苦笑いで言った。

すると、警部と呼ばれる男は…

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「死亡推定時刻は何時だって?」

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顎の無精髭をジャリ…っとさわりながら聞く…

その問いに刈谷刑事が手帳を開き、殆どソレに目を通すことなく答える…

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「皐月君が私の携帯に電話をして来た…5時26分より少し前頃であると鑑識は話しています。」

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「じゃあ、テープに細工なんか出来そうもないな…うーむ…分かった…ありがとう」

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そう言いながら、メモを取り遺体のあるバックルームに入って行った。

刈谷刑事は

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「悪いね…刑事ってのは、疑うのが仕事なんだ…えへへ…」

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と頭を掻き、柳葉敏郎似の顔でニシャッと笑っていた…

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………………………………

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僕の名は…

『水澤 悠人』

最近、よく宮藤官九郎に似ているなどと言われる…

自分では、そんなに似ているとは思えないのだが…

僕は県警で刑事の仕事に就いている。

この所、人殺しの事件が多発している為、新人ではあるが遺体を見るのにも吐き気などが無くなってきている…

慣れというのは怖ろしい…

事件のあったのは

駅前のコンビニエンスストア…

『○ブン○レブン○○町、駅前店』

その店の店主『坂井 春彦(57)』

が、何者かによって首を切断され死亡…

死亡推定時刻は5時20分から5時30分の間、見つかったのが早かったため具体的な時間の割り出しに成功していた。

首は、ダンボールが積まれた高い棚の上で発見…

一見、無いものと思われたが、直ぐに鑑識が発見していた。

第一発見者『皐月 未来』の話によれば、店主が裏のバックルームへ入って間も無く、何かが倒れる音が聞こえたため、彼が見に行くと既に店主『坂井 春彦』は死亡していたとの事だった…

裏口を調べた結果、鍵が掛けられており、そこから入ることは無いと思われる…

店の鍵は、店主が携帯していて、他の者では持っているのは、この青年

『皐月 未来』のみ…

しかし、仕事が終わればバックルームにある机の引き出しに鍵を戻し帰ると話していた。

その扉から外に出て、外から鍵を掛けるのは、合鍵でも作らなければ無理だ…

そうなると怪しいのは第一発見者『皐月 未来』のみということになる…

しかし、録画モニターを見る限り、彼はおかしな行動は一切していない。

ただ、画像に映るおかしな頭のような影が気になった…

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「警部…これなんすかね?」

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「そんな事、ワシが知るもんか…馬鹿たれ…」

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巻き戻しもう一度観る…

店入り口の自動ドアをすり抜けるように入っているようにも見える…その後、自動ドアが開く…

画像がバグっているせいで身体が映って無いのかな?

そんなわけないか…

それは、頭のまま行動し続ける…

店内をぐるぐると見回り、HOTドリンクのケース前に来ると、レジ前に立っていた皐月と話をしているのか、動きを止め彼の顔を見ている…

皐月は怯えるように目線を下げ肩を窄めているが、その後、少し顔を上げ奴を見る…次の瞬間

レジ台の上をすんなり飛び越えて彼の顔の前まで迫る…

やはり、身体が無い…

何なんだ…これは…

暫らくすると、裏から店主が顔を出す…

何やら怯えたような表情で皐月に声をかけるが、皐月の前にいる『ソレ』を見て、たまげたのか腰を抜かしたように後ろに尻もちをつく…

すると、ソレが店主の方へ移動…

叫んでいると思われる店主の口に吸い込まれるようにして…

その後、何事も無かった様に無表情になる店主。

立ち上がりバックルームへ消えていく…

モニターをバックルームのものへ切り替え観ると…

ガクガクと脚を揺らし、まるで産まれたての子鹿のような歩みで進み、ようやく監視カメラの目の前まで来て立ち止まると…

急に何かに取り憑かれたかの様な怖ろしい表情で…カメラを睨み…

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『か…ら…だ…この…からだ…わ…しの…もの…と…ちが…う…』

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!!!!!????…

音声の取れる監視カメラでは無いはず…

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「何で音声が?」

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僕が驚きモニターを観たまま、警部に尋ねる。が…

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「……」

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さほど驚いていないのか、それとも驚き過ぎて言葉を失っているのか…警部は黙っていた…

映像はそこで途切れている…

警部の方を見る…

モニターから目線が外れ、空中をぼんやりとした顔で見つめている。

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「何見てるんですか?」

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その目線の先に僕も目をやる…

何もない…

警部の顔を見て、

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「何も無いじゃないですか…どうかしたんですか?」

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と尋ねるも上の空でボゥっと口を開けたまま一点を見ている…

その時は突然やってきた…

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「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"

…」

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警部がおかしな声を上げ始める。。。

そして突然立ち上がり、部屋から早足で出て行く…

何時もと違う事は明らかな程に歩行が不気味だった…

唯(ただ)ならぬ事に驚き、意味も分からず後を追った。

バックルームを出て店側に行くと警部は既に外に出ており慌てて追いかけた…

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「警部っ!?どうしたんですか?待ってくださいっ!!」

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その言葉に他の署員も何事か?と振り返る…

すると、おかしな歩き方をしていた警部は今度は不気味な歩行のまま走り出す。。。

どうしたのか?と僕も走る…

「なんだ?警部は一体どうしたんだ?」と刈谷さんも、一緒について来た。

車道にそのまま突っ込んで行ってしまう…

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「危ないっ!!!!!」

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手遅れだった…

夕暮れ時のラッシュ時、しかも駅前ということもあり車通りの激しい道…

警部は通りかかった大型のワゴンに跳ねられてしまう…

慌てて駆け寄る。

激しくぶつかる音が聞こえていた。

大怪我は免れないだろう…

刈谷さんが携帯を直ぐに取り出し救急車を呼ぶ。

しかし、それも無駄に思えた…

駆け寄り警部の姿を見て、直ぐにそう感じることとなったのだ…

首が吹き飛び、内臓をぶちまけ、糞尿を辺り一面に飛び散らせている…

そして、僕の目の前のその道路を真っ赤に染めていた…

助けることのできなかった自分を責めることが避けられなかった…

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「どうして…

…腕を掴み止めることだって出来る距離に居たのに…」

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すると、刈谷さんが僕の肩に手を起き、

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「お前のせいじゃない…」

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と涙を流す僕に慰めの言葉を掛けてくれた…

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俺は『八坂 敏郎』

車を駅西口の前に回してくれと妻に言われ、仕方なく東口駅前にある駐車場から車を出し、コンビニ前を通過している時だった…

妻の「急げ…」との言葉に焦りアクセルを踏み込む…

先程まで眠りほうけていた父が目を覚まし助手席で

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「ん…あれ?東口じゃなかったのか?」

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と、漏らしながらシートベルトに手を掛けようとしたその時…

コンビニの駐車場から年配の男性と思しき人が不気味な走り方で車道に飛び出してきた…

ハンドルを切ったが避け切れ無い…

ブレーキもかけたが間に合わず、鈍い音を立て跳ねてしまった…

フロントガラスが割れ、前が殆ど見えない…

慌ててドアを開けて飛び出す…

父は急ブレーキを掛けた時の反動で前のめりになったまま固まっていた…

しかし、それどころではない…

人を跳ねてしまったのだ…

急いで車を降り駆け寄る。

コンビニの駐車場に居た若い男性も一緒になって駆け寄ったが彼も俺もその姿を見て、愕然と固まった…

そこに四十代位の男性も駆け寄る…

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「どうして…」

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と肩を落とす若い男性の肩を後からきた男性がそっと抱き

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「お前のせいじゃない…」

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と声をかけていた…

しかし、 俺は人を一人殺してしまった事に動揺して…頭が真っ白になっていた…

やっとの思いで声を出す

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「あ…あの…俺…」

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すると、四十代風の男性は俺に

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「我々は警察です…処理が済むまで暫くお待ち頂けますか…そちらの車はこのコンビニの駐車場に移動願います。」

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と丁寧な口調で眈々と言う…

警察…?

じゃあ…今、引いちゃったこのおじさんも…?

と、俺は首が吹き飛んだ遺体を前に呆然としていた…

警部…と声をかける若い刑事の言葉を聞いて、その年配の男性が何者かということも分かった…

そういえば…と

父が気になり車に戻る…

何事もなかったように頭を上げ、前方を一心不乱に睨んでいる…

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「父さん…大丈夫?頭打ったりしてない?」

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その言葉に反応するように

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「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"…」

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と、ふざけた声を上げる…

こんな時に何時ものおふざけは辞めてくれよ…

と、車に乗り妻に電話をかける…

案の定、怒鳴られる…

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『何してるの!?駅の前で女を待たせるなんて最低!!早く来なさい!!さもなければ今夜もご飯抜きにするよ!!』

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それどころではない…

人を跳ねてしまったのだ…

その事を簡素に伝え直ぐに電話を切った…

車をコンビニの駐車場に移動させる…

父は依然おかしな声を上げている…

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「ちょ…父さん…それ辞めてよ…気持ち悪い…いつもサユリ(妻)に叱られてるだろ?」

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その声が聞こえているのかいないのか…不気味な声を上げ続けていた。

車を停め、降りる。

妻が顔色を変え駆け寄ってきていた…

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「さっきの事故、てめえだったのか?駅の前で周りの人が東口で事故があったとか騒いでたから、まさかとは思ったけど…」

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声も出せず頷く…

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「死んだの?引いちゃった人…」

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項垂れて涙を流すと…

これまで聞いた事もない声で妻が叫ぶ…

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「あれ程運転には気ぃつけろって言ってただろうが!このボケナスが!!」

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恐ろしくて声も出せない…

怒号はそれだけではなく、永遠と繰り返された…

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「人を一人殺したんだ!檻ん中にでも何処にでも行って来いよ馬鹿野郎!!

ったく…お前みたいなのと何で結婚したか、教えてやろうか?

…おい!?

金だよ!

かっ!!ねっ!!

不細工で何の取り柄もない馬鹿野郎に嫁の貰い手なんて他にないだろ

金取ったら!!?

あぁ?!

…あーもう…離婚だね!

人殺しの妻なんてみっともなくて外も歩けねぇよ!!」

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泣きそうだった…

いや、泣いた…

こいつには、ほとほとウンザリだ…

口は悪い…

ブス…ではないが。

セックスはいつも強要…

金の亡者…

毎日のような暴力、暴言…

家事は俺に任せっきり…

父にまで及ぶ暴力、暴言…

母の命日には友人と旅行を楽しむ…

人間性を疑う凶暴性…

兎に角、離婚を妻の方から口にしてくれたことに感謝した…

この女に感謝したのは久しぶりの経験だ…

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「分かったよ…離婚しよう…」

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俺のその言葉に怒りは頂点まで登る…

もう、何を言っているのか覚えていない位、絶叫していた…

警察がなだめにやって来るほどだ…

「帰る!!」

と、一人帰っていく妻を見送り、新たにやって来た交通課と思しきヘルメットを被った警察官と話をする…名前、住所、電話番号、どのように事故を起こしたのか…etc

あらゆる事をメモして、冷静な顔で

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「あと…詳しい事は署の方で伺います…あちらのパトカーにお乗りください。」

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と、メモに目を通しながらコンビニの方に歩いて行き、さっき声をかけてきた警察と話をしている…

すると、後ろに居た婦人警官が俺の背中に手をかけ、こちらへどうぞ…と促す…

その時…事故現場の方を見ると

事故を起こした事はまぬがれることの出来ない事実であることを改めて知らされる。

動く事のもう無いだろう肉の塊が担架に乗せられ救急車に乗せられていた…

そういえば…と父が気になった…

車から降りてくる気配がない…

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「あの…あの車に僕の父が乗ってるのですが…」

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婦人警官にそう話すと、はっ?といった表情で車に目をやる…

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「先ほど確認しましたが、既に誰も乗っておりませんでしたが?」

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その言葉に驚き、周りを見渡すと…

コンビニの自動ドアの前に立つ父の姿が見えた…

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「あ…なんだ…あんなとこに居たのか…

何してるんだ?あんなところで…」

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店の周りには黄色いテープが張られ物々しい雰囲気が漂っていた…

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「何かあったんですか?」

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婦人警官に尋ねると

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「殺人事件があったそうです…怖いですね…」

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と答えた。

殺人があった場所の目の前で事故なんて、なんて場所だ…ここは…

呆然とした立ち方でコンビニ前にいる父に声をかける…

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「父さん!?これから警察署に行ってくる…先にウチに帰って…」

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その時父は、くるっとこちらを見ると、何時もの笑顔を覗かせ、店に入って行ってしまった…

ちょっ!

そこ立ち入り禁止じゃ!?

婦人警官に

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「父があの中に!!」

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と指を差し知らせたが、彼女には見えていないのか、首を傾げ

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「もし、入ろうとしても彼処に立っている警察官に止められますよ…」

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と聞く耳を持たなかった…

引っ張られパトカーへ乗せられる…

どうなってるんだ?

と、コンビニをもう一度見た。

様子を伺っていると暫くして突然、周りに取り巻いていた警察官達が慌てた様子でコンビニの中に入って行く…

何があったのか?

すると、中から一人、顔中血だらけの人間が飛び出してきた。

驚き、よく見た…

服装で誰なのかハッキリ分かった…

父だった…

手に何故か鉈のような刃物を持っている…

な…何してるんだ?

こっちに走って来る…

何か叫んでいる…

婦人警官が慌てた様子でパトカーから降りて取り押さえようと駆け寄る…

父は右手を頭上に振りかぶる…

まさか…

婦人警官が父の体に触れようとしたその時!

振り下ろした鉈が彼女の首を跳ねた…

吹き飛んだ頭がパトカーの窓に当たる…べっとりと窓に血がつく…

背中に冷たい汗が流れ、目の前で起こったことに恐怖した。

踊り狂いながら

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「見つけた!!ワシの身体!!げっはっは!」

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と、わけの分からないことを叫び、嬉しそうに笑う…

顔が既に父とは思えない程歪み…

口から血を吹き出していた…

周りを見ると警察官が拳銃を構え接近しているのが見えた…

辞めろ…俺の父親を撃ち殺す気か?

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「動くなぁぁ!!」

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柳葉敏郎似の刑事が叫ぶ…

宮藤官九郎似の若い刑事も拳銃を構えジリジリと近づく…

依然、踊る父…

手の届くところまで若い刑事が来ると、父の顔が一変して鉈を振りかぶる…

その時、

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『パンッ』

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乾いた高い音が鳴り響き

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『ゴォンゴォン…』

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と余韻が辺りに響き渡る…

すると、父が膝から崩れ落ちる。

命中したのか…

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「ゔえぇえ!」

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と泣きながら頭から倒れ落ちる…

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「刈谷さん!当たったようです…」

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若い刑事が父の手に握られた鉈を蹴り飛ばし腕を取る…

首元に手をやり、安否を確認…

首を横に振り

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「死んでます…」

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と口にした…

嘘だろ…

息子の目の前で…父親を…殺すか?普通…

呆然と父の死骸を見ていると、おかしな点に気がついた…

後頭部が大きく陥没していた…

どこであんな怪我を…?

さっきの事故の時には前はぶつけたかもしれないが、後頭部はぶつけていない…

その後もぶつけた所は見ていなかった…

コンビニで誰かに殴られたのだろうか?

そして、奇妙な事は更に続いた…

突然、その遺体が発火し黒煙を上げたのだ…

一気に全身に燃え広がり慌てた刑事によって消されたが真っ黒に黒焦げ見る影もなかった…

その後、警察署であの時 鉈を振り回して居た男は自分の父親だと話すと…

歯型から身元を確認したが、身元不明の人間だったと言われた…

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私は『芦田 成美』

県警で鑑識の仕事をしている、新人だ…

ある日、上司の三村さんや他の先輩方と、駅前のコンビニで起きた殺人事件の現場に来て、現場検証に当たっていた…

店員だけが利用する扉などの指紋を採取していると、突然その扉が開き…

遺体のみつかったコンビニ裏の部屋から山本警部が何とも不思議な歩き方で出て来た…

おかしな奇声を上げながら店の外に早足で出て行く…

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「あ"あ"あ"あ"!!違う違う違う違う違う違う…」

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何事かな?トイレならこの店にもあるのに…

と窓の外を見ていると、山本警部は突如走りだし、車道へと飛び込んで行ってしまった…

後を追っていた水澤刑事の制止も虚しく…

そこに通りかかった大型のワゴン車に引かれ宙に舞うのが見えた時、私は悲鳴をあげていた…

その後、三村さんの指示で作業を再開したが、頭がパニックで仕事が手につかなかった…

現場に残された証拠は殆ど無く、作業も直ぐに終わった。

仲間と、先ほどの事故のことを話していると…

店に一人の男性が入ってくる…

外で見張り番をしている警官は何をしていたのか?

何のためらいもなく、辺りを見渡し店の裏に入って行く…

この店の人かしら?

と気にせず集めた証拠品を専用のケースに収めていると

突然奇妙な奇声を耳にした…

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「あ"あ"あ"あ"あ"!!」

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さっきの店員と思しき男が裏から出てくると、手には鉈が握られていた…

どこであんなものを?

しかも、顔中血まみれで口からも血を吹き出している…

その怖ろしい顔は今でも忘れない…

奇声を上げたまま、近くに居た三村さんに鉈を振り下ろす…

首に命中したのか大量の血が吹き出し三村さんは頭から崩れ落ちる…

周りの人間が取り押さえようと一斉に飛びかかるも、振り回している鉈が邪魔をして近づけない…

騒ぎを聞きつけ、外にいた警官も店に入ってくる…

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「貴様っ!何してるんだ!!」

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大声が店内に響き渡る…

その声に男はビクっ!と反応…それが頭に来たのかその警官に凄い形相で向かって行くと大きく振りかぶった鉈をその警官の頭に振り下ろす…

嫌な音が鳴り、警官が倒れる…

頭蓋骨がパッカリ割れ、脳みそが飛び出る…

私は恐怖のあまり立ち尽くし、動くことが出来なかった…

その男は今度は外に飛び出して行くと近くに居た警官を次々切り刻んで行く…

奇声と笑い声がこだまする…

刑事達が業を煮やし胸元から拳銃を抜く…

取り押さえようと水澤刑事が男に歩み寄ると、振り返り彼に襲いかかる…

その時、乾いた音が鳴り響く…

発砲したのは刈谷刑事。

着弾したのか…男は顔を歪ませ倒れ…水澤刑事が急いで手にしていた鉈を蹴り飛ばす…

首元に手をかざし、

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「死んでます…」

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と、首を振った…

その時、コンビニの裏で音がする…

恐る恐る見に行くと…

ズタズタに切り刻まれた男性の頭が転がっていた…

その後、警察署でその頭の歯型で身元を割り出すと、

『八坂 敏與(としあす)』さんという男性のものと分かった。

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