中編5
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「雀の巣の除去をお願いしたいのですが…」

受話器から聞こえる声はまるで宅配でも頼むような、なんの感情もこもっていない声だ。

「今現在、雀の鳴き声など聞こえますか?」

我が社は団地の修繕管理もしている会社。冬になると団地の屋上に雪が積もり、屋上からはみ出た雪を雪庇と言うのだが、マイナス温度とプラス温度が交互に来る2月~3月にその雪庇は氷の塊となり地面に落下する。その時に屋外に付いている換気フードに氷がぶつかり破損する。その破損部分の穴に雀が巣を造るのだ。

「はい。とても煩くて困ってるんですよね、はやくどうにかして貰えませんか?うちは3階の○○号室なんですけど。」

どうにかと言っても、こっちは忙しいのだ。団地はだいたいが居室用の換気フードに巣があるのだから部屋の内部からプラスドライバー一本でレジスター(内部の換気カバー)を外して自分で除去してくれ!!とは言えない。それに素人では難しい場合もあるので仕方ないし、フードの交換もいずれ必要だろうし。

「それでは外部の状況の確認と、その場で内側から巣を除去しに伺いますので、ご都合の良い日と時間帯など教えて貰えますか?」

「今だったら居るんですけど、今日来られませんか?本当に煩くて…」

「そうですか…」

暫く手帳と相談してから午後に伺う事に決め受話器を置いた。雀の巣の除去は正直初めてだった。団地が建ち20年が経過し屋外に付いているフードもそろそろ限界なのだろう。にしても何故プラスチック製の物を付けているのだろうか、20年前の施工だし考えても仕方ない事を考えていた。

他の業務をこなしているとまた雀の巣の除去依頼が4件も入ってきた。どれもこれも今日来れないかと…。

自分の実家でも経験があるのだが卵が孵ってから巣立ちするまで1週間もなかったように思う。なのでもう少し待てないのだろうか…。

1件目のお宅に向かう最中に駆除した雛をどうするべきかを考えていた。結局結論も出ないまま到着してしまった。

挨拶をすませ早速状況を確認するとレジスター付近から“ちゅんちゅん”と親鳥と思われる鳴き声と“チチ チチ”と親鳥に負けない位の音量で雛鳥が鳴いている。

巣のゴミが散らばってもいいようにビニールで養生をしている最中も“雛をどうするか”そればかり考えていた。

ドライバーでカバーのネジを緩めると中から“ヂヂヂヂヂ”と驚いたのか親鳥が鳴きながら外に飛び出して行くのが解かり、それと同時に雛鳥の鳴き声が止んだ。

慎重にカバーを取ると中は外側の明かりも見えない位に細い枝や紐、羽と埃となんだか解らないゴミが大量に絡み合い詰まっていた。

少しずつ、慎重にその巣を手で破壊して取り出しゴミ袋に詰めていく、すると外側の光と同時に雛の姿も確認できた。四匹だ…ここまで来てしまったら助ける事は、出来ない…。そのまま巣ごと引っ張り出しゴミ袋に詰めた。ゴミ袋に入る瞬間、雛の可愛らしい姿が目に映る。

「いや~これで静かになっていいわ~」

この人にとって雀は虫と同じ位にしか思っていないのだろう。次の現場に行くためにそそくさと片付け、そこを後にする。あとの4件も同様に作業を進めるが、どの家主も一件目同様、雀を虫程度にしか思っていなかった。

5袋のゴミ袋がハイエースの荷台に積まさった。ゴミ袋には余裕があり全てを一つにまとめてもよかったのだが、雛を圧迫死させる勇気が俺にはなかった。会社までの道中、袋の中からは小さく“チチ チチ”と鳴き声が聞こえた。

“まだ生きている”

会社には大きな鉄網のゴミ籠がある。ゴミ籠にその雛の入ったゴミ袋を入れようと持ち上げ考える。

雛だけ外に出して…いやその後どうする?たとえ出したとしても育てる事は無理だろう…放置しても死。そのまま捨てても死。こいつらは死ぬしかないのか…俺が殺すのか。等と考え止まっていると後ろから

「どうしたん?」

同じ職場の人間に声を掛けられた。自分勝手で人の助言を無視する俺の苦手な奴だ。

事情を説明している最中にそいつは袋を開け中身を確認しだした。正直これから死んでいく雛を見たくはなかったが、止める間もなく袋を鷲掴み、逆さまにして地面に中身をぶちまけた。ゴミの分別でもするかのように素手で雛と巣を分けた。

「すげぇ、13匹もいるじゃん!! これどうすんの?すてんの?」

「可哀想だけど捨てるしかないだろ…それよりもこれ片付けろよ、お前がやったんだからよ」

「おう、わかったわかった!!」

珍しく素直に返事をしたそいつは、一匹の雛を手に持ちまじまじと見つめると「どうせ死ぬんだしいいよな」と意味不明な言葉を残し、野球のピッチャーのような格好をとりゴミ籠の中めがけて勢い良く投げつけた。と同時に“ガン!!”と鉄網にぶつかる音が聞こえ、下に落ちたであろう雛を確認する為に中を覗き行った。

「へぇ~意外とグチャってないのな~。あはは、まだピクピクいってるよ。」

言葉が出なかった。こいつのこの言動がまったく理解できなかった。ただ立っている事しか出来ず、ただ見ている事しか出来なかった。そいつは残りの雛を次々にゴミ籠の中に投げつけた。そして最後にゴミ籠の横に置いてあった大き目のブロック石をその上に落した。

「どうせ死ぬんだから一瞬で死んだほうが楽だろ?」

たしかにそうかもしれない。だがこいつは楽しんでいた。笑いながら。

俺はその後、他の業務もあったがやる気が出ず帰る事にした。

それから暫く経った午後だった。俺が珍しく社内で事務ワークをしている時の事だ。

社長に一本の電話が入り、慌てた様子で出かけて行った。

その後あいつが死んだ事を聞かされた。

3階建の一軒家で煙突解体の作業中の事故だったらしいが、足場の上に解体したブロックを積み重ねている最中、高さ6Mの場所から何かに驚き落ちたらく、落ちた直後はまだ意識もあり「いて~いて~」と唸っているそいつの近くにいた職人が聞いていた。駆け寄る最中に、真上に積んでいたブロックが何故か時間差で頭の上に落下、職人が駆け付けると頭が潰れ誰が見ても即死だとわかったみたいだ。

その死に様はまるで…雀のようだ…

駆除をして無惨に殺される雀を見ていて止めなかった俺はどうなるのだろうか…

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あ…調べたら大丈夫みたいですね
元気になることを祈ってます

お気をつけなされ…
雀は保護しても、ましてや飼ってはいけないのですから
通報されたら、罰金ですぞ

私も以前、雨降る中、野晒しになった二匹の子猫を保護しました。まだへその緒も付いていた状態にあり、酷く弱っていて……翌日には二匹とも死んでしまいましたが。

うちの犬は雄ですが。まるで母親のようにペロペロと子猫を舐めていました。本能的に命が長くないことを悟っていたのでしょうか。

雀の駆除のお話ですね。私も主人公と全く同じ行動をすると思います。雀の子を殺すのには忍びないけれど、かといって親鳥から離れた今、雀の子が生き延びる可能性はないに等しい。

何だか自分自身の行動パターンと似過ぎて、ドキドキしながら拝見させて頂きました。もし、同僚が面白がって雀の子を殺していても、やはり主人公と同じく、言葉ないまま、見守っていたでしょうね。

嗚呼……と思いながら何もしない。何も出来ない。それはつまり、見殺しにしたも同然。幾ら仕事とはいえ、割り切れない部分もありますよね。

先日、痛ましい事件が起こりました。父親が我が子を餓死させてしまうという耳を疑いたくなるような事件です。

市の職員は虐待を疑いながらも、父親の「あの子はどこかで生きている」曖昧な台詞を鵜呑みにして、ろくな調査をしなかったようですが。

私は昨日、仕事の関係で一歳になったばかりの女の子を抱っこしました。ピッタリと身を寄せてきて、時節こちらを見上げてくる眸の純粋なこと。無垢な子どもが痛ましい事件で命を落とすことは、本当に居たたまれません。

でも。例え自分が直接手を下していなくとも、見て見ぬ振りもまた、同罪なのですね。

uniまにゃ~様。コメント有難う御座います。

たしかに大きさによって違いますね。因みに私は蟻もつぶせません…
今日、新たに2匹の雀の雛を保護しました。だいぶ羽も生えそろっているので育てるつもりです。

罰が当たったんだな

でも、虫は殺してしまう私…人によって、殺せる大きさや、形状が違いますよね
四肢でも、大きさによっては大丈夫…とか
人型に似ているとダメェ…とか
私はネズミ位の大きさからダメっすね

ガラ様。コメ、怖、有難う御座います。
対象はネズミですが、捕まえて色々な殺し方を試していた人がいました。親父です…(笑)

こんなことやってる奴見たら怖いな。