中編3
  • 表示切替
  • 使い方

ぴーん、ぽーん。

新しいバイトの歓迎会、という名目の呑み。

他愛ない世間話も尽きてきた頃

Aさんが空いたグラスをカラカラと振りながら、口を開いた。

「あー、…S、なんか 話」

「なに突然の無茶振り、こわい」

nextpage

「ほら、新人ちゃんもいることだし、怖い話でもひとつ頼むわ」

「えっ」青ざめるわたし。

「あー…じゃあ、短い話ね。

ほんと大したことないから期待しないで

あとおばけは出ないよ…たぶん。」

nextpage

そう言ってSさんは煙草に火を着けた。

nextpage

wallpaper:517

ある夜にね。ピーンポーン、て。

チャイムが鳴ったわけ。夜中に。

時計を見たら、午前2時過ぎ。

はァ…?と思いつつ、固まってたの。

すっごい心臓どきどきしちゃってさ。

膝の上の猫も身体ガチガチに力入れて、玄関をじっと見てる。

え?出る気なんか無いよ、当然。

だって怖い、時間的におかしいし。

こんな時間に訪ねてくるような

友達も 恋人も 心当たり無いしね。

インターホン?モニター?無いよ。

nextpage

それにさぁ、気味悪いのが

うちチャイムが旧式のやつでね、

押すとピン、離すとポン、て鳴るやつ

ぴーーん……ぽーん

て、ゆっくり押してるの。

ぴーーん…ぽーん、ぴーんぽーん、

ぴーんぽんぴんぽん みたいな感じで

結局5回くらい、鳴らしてったかなぁ

nextpage

うち、古いマンションなんだけど。

エレベーターがないの。5階建てで。

わたしの部屋は4階ね。

nextpage

夜中の2時過ぎに4階までわざわざ、

階段上って来て…ピンポンとか……

nextpage

気持ち悪いよね。何が目的?

人間なのかおばけか知らんけど…

どっちにしても怖いし気持ち悪い、

勘弁して欲しいわ、そういうの

…って、話し。おわり。

話し終えるタイミングを計っていたかのように煙草を吸い終え、火を消すSさん。

少し怒っているようにも見える。

nextpage

「うわ…気持ち悪いですね…謎すぎる」

月並みな感想を述べると、Aさんが笑う。

「ドアスコープから覗いて確認すれば良かったのに。すげー気になる!」

nextpage

Sさんは思い出して鳥肌が立ったのか、腕をさすりつつ応える。

「無理無理、もしも変なのが居たら心臓が止まる。悪い妄想が膨らむし」

nextpage

グラスを片手に爆笑するAさん。

「お前 普段は飄々としてる割りに、ビビりだよな〜」

Sさんは無言で、枝豆の殻をAさんに向かって投げつける。

nextpage

「やだ〜…笑い事じゃないですよ…怖くて一人暮らし出来なくなる!」

泣き顔のわたしに向かってSさんは、

ははっざまぁ、と笑いながら、枝豆を口に放り込んで。「あ、」

何か思い出したように声を上げる。

引っ越す前、別の部屋での話もあると。

nextpage

夜の11時くらいにピンポン鳴って、

モニター見たら金髪ロングの姉ちゃんが立ってて。え?日本人だよ。ギャル。

その姉ちゃん、微動だにしないの。

カメラを見てるわけでもなくて。

軽く俯いてる感じで、突っ立ってる。

nextpage

顔は見えてるんだよ。知らない人。

顔色は普通で、メイクもしてる。

ほんとその辺にいる若いギャル。

2階の窓から下のほう覗いてみたら、

なぜか裸足。その時夏だったけどさ。

nextpage

なんか引っ込みつかないし気になるから

椅子に座ってずっとモニター見てた。

ずーっと立ってるの。動かないの。

40分くらいはそのままだったね。

nextpage

急にふっと身体の向き変えて、

右側に向かって歩いてったわ。

国道と反対側の奥まった方向に。

本当意味わからん。

nextpage

んー…耳鳴りもしなかったし、

たぶん霊ではないと思うけど

なんだったんだろ、あれ」

nextpage

うーわー、という声がシンクロした。

「完全にチャイム恐怖症。」

そう言ってSさんは席を立った。

nextpage

「なにそれこわい」

「S、ピンポンネタ豊富だな」

「幽霊の可能性もあるよね?」

「トイレ借りたかったとか?」

「にしたって30分も待たないだろ」

「だよね、行動が異常すぎ…」

「ヤバイクスリやってたとか?」

「それより、耳鳴りってなんすか?」

「さらっと言ってたよね、こわい」

nextpage

それぞれが感想や考察を口にし、ぬるく場が盛り上がる。

nextpage

「なんなのかよくわかんない、って怖いよね。

理解出来ない、確信出来ない…

正体がわからないから恐ろしいの。

いっそ自分の目で確認した方が

恐怖は引きずらないものなのかなぁ。」

Normal
コメント怖い
7
8
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

覗き穴恐怖症の私にとっては十分過ぎるほど怖い話でした...。少しでもチャイム系で怖い思いをすると、軽くトラウマになりますよね。
たまにファミマの入店時に鳴る音と同じ音のチャイムが鳴る家がありますけど、あれは逆に何か安心します(笑)

返信

> MEGたん

いやだ。それいちばんいやだ。
わたし、恐怖映画のいちばん嫌いな演出が
ドアガチャ、ドアバン、ドアノック なの…

ピンポンが無い家に住みたいと思ったけど…
コンコンバンバンされるのはもっと嫌!

返信

> Noinたん

コメントありがとう。
そして怖いありがとう。

ピンポンが無い家に住みたい。
と思ったけどそれはそれで…ああん

ふふふ、この先に乞うご期待。

返信

>ロビンMたん

あら、わたしの大好きなロビン様じゃないですか。
記念すべき初投稿話の初コメントがロビン様で わたくしうれC。

ピンポン分解しようか本気で悩むわ。

返信

うち..ピンポンないから、同じような体験で、コンコンとバンッバンッがある..

怖い..(泣)。・゜゜(ノД`)

返信

喪さん、この話
私的に凄い怖いです。
(まあ、私の家ピンポン無いんですがね)
シリーズ化期待してますよ。
ピンポンの正体が人か、人ならざるものか、
その答えが気になりますので!!

返信

やあロビンミッシェルだ。

喪氏、独特の空気感があって面白い!今晩チャイムが鳴ったらどうしよう…ひ…

シリーズ化宜しく、次も楽しみだ!…ひひ…

返信