14年07月怖話アワード受賞作品
長編7
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真夜中の回診

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(※サウンドノベル風モードでの閲覧推奨)

これは、当時俺が小学5年生の時に体験した話だ。

学校が春休みを迎えたこともあり、相当浮かれていたのを覚えている。

寝る間も惜しんで遊びに耽ていた程だ。

その不摂生が祟ってか、俺は盲腸炎を患ってしまった。

夜中に激痛に見舞われ、もうダメかと思うくらい痛かったのを覚えている。

キリのようなもので下っ腹の右脇に穴を開けられているような痛みだった。

変なところで冷静な俺は

「騒ぎ立てられたくないから救急車は呼ばないでほしい」

なんて子供らしくないことを親に言っていた。

「腹の痛み如きで死にはしないでしょ。痛いのは生きてる証だよ」

そう格好つけて言ったはいいが、激痛で顔を歪ませながら言っても説得力は無かったと思う。

両親は最初は慌てていたが、俺に余裕がある事が分かると、希望通り病院まで車で俺を搬送する事にした。

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最寄り病院の救急外来で事情を話し、俺は父親に抱えられ中に入った。

診察の結果、盲腸に糞石が詰まっている事が分かり、手術で切開して除去する必要があると告げられた。

案の定、生活習慣の悪さが原因だった。

手術という言葉を聞いたとき、俺はもう格好つける余裕は無くなっていた。

即入院する必要があると言われ、その日はベッドに寝かされて痛み止めと点滴を打たれた。

(俺の春休みが...)

溜め息をつき、俺は目を閉じて眠りについた。

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翌朝起きると、俺は6人部屋のベッドの上にいた。

周りは老人ばかりだ。

その日は、翌日に全身麻酔を掛けて手術をするという説明を医師から受けた。

最初は怯えていたが、手術をしないとこの痛みがどうにもならない事から俺は覚悟を決めた。

手術は無事成功し、目が覚めた頃には俺はベッドの上で術後の痛みと闘っていた。

担当医からは、1週間程で退院出来ると言われた。

手術のダメージは子供の俺には結構大きかったらしく、俺はベッドから起き上がるのに数日掛かった。

歩くのも一苦労で、歩き方を忘れたんじゃないかという程の感覚だったのを覚えている。

イメージ的には、たまに手に力が入らなくなる時の感覚が下半身にくる感じだ。

笑ったり、咳やくしゃみをするだけでも腹が痛む。

見兼ねた姉が、お見舞いに来た時、暇潰し用に俺に漫画を買ってきてくれたのを覚えている。

普段は意地悪な姉も天使に見えたが、読んでみるとそれはギャグ漫画だった。

俺は本当の意味で笑い死ぬところだった。

結局、リハビリに励まなかった俺は退院するまでに2週間程掛かったのだが、その中で俺は不気味な体験をした。

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ある日のこと

俺はいつも通り病院で過ごし、夜を迎えた。

消灯時間が過ぎ、病院内が真っ暗になる。

俺は6人部屋の入口側に一番近いベッドにいる。

いつもは老人患者のいびきや歯ぎしりで眠れなかったのだが、何故かその日だけは皆静かに寝ていた。

俺はブラインドカーテンを閉め、ベッドの中で音を消してゲームをしていた。

すると、外の廊下から音が聞こえてきた。

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キィ... カラカラ...

キィ... カラカラカラ...

医療器具を乗せて運ぶステンレス製の台車の音だろう。

何故、こんな時間に、こんな暗闇の中

などという考えは、この音に聞き慣れた俺には無かった。

子供というのはどこか鈍かったりする。

俺はその音を耳で聞き流し、ゲームを続ける。

キィ... カラカラ...

キィ... カラカラカラ...

一定の速度を保ちながら、音がこちらに近付いてくる。

キィ... カラカラ...

キィ... カラカラカラ...

キィ... カラ

俺のいる病室の前あたりで、区切り悪く音が止まった。

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少しすると

スーッ

と病室の扉がゆっくり開いた音がした。

カーテンの下の隙間から、ちょうど人の顔が覗ける程度に扉が開いているのが見える。

すると

ガラガラガラガラッ

扉がゆっくりと開く音が聞こえた。

キィ... カラカラ...

キィ... カラカラ...

さっき聞こえた音が、病室に入ってくる。

それと同時に銀色の台車も見えた。

台車の一番下の段にはステンレス製の医療器具が乗っているようだ。

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気付くと、扉の前に白い女性の足が見える。

膝下しか見えなかったが、看護婦がよく履くヒールのある靴を履いていた。

その瞬間、俺は回診だと思った。

よく考えれば、消灯後に回診が来るはずがない。

見回りだとしても、こんなに暗い中で懐中電灯も持っていないのはおかしい。

しかし、回診の度に点滴を打たれるのが心底嫌いだった俺は

(うわ、また点滴かよ... 嫌だなぁ)

としか思わず、嫌いな注射のことしか頭に無かった。

しばらくすると

ガラガラガラッ

と扉が閉まる音がした。

(寝たふりをしよう)

実に子供らしい発想だった。

寝ている子供を起こしてまで点滴は打たないだろう。

俺はゲーム機をそっと枕の下にしまい、目を瞑って狸寝入りをし、その場をやり過ごすことにした。

コッ... コッ... コッ...

足音が聞こえる。

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シャーッ

正面からカーテンが開く音がした。

しかし俺のベッドからではない。

多分俺の前の人のベッドからだと思う。

しばしの沈黙の後、再びカーテンが閉まる音がした。

すると足音が聞こえ、今度は斜め前の方からカーテンが開く音がした。

どうやら、一人一人ベッドを見回っているようだ。

(回診じゃなくて見回りなのかな)

そう思い、俺はホッとした。

その看護婦らしき人は、カーテンを開いては閉じ、を数回続けた。

sound:30

シャーッ

俺の横から音がした。

次は俺のベッドの番だ。

カーテンを閉める音が聞こえ、足音が俺の方に向かってくる。

コッ... コッ... コッ

俺のベッドの前で足音が止まる。

薄目でカーテンの下を見ると、台車の横に白い足が見えた。

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カチャ... カチャ...

sound:27

カチャ... カタンッ

金属音がする。

どうやら台車の上の医療器具を弄っているようだった。

俺は嫌な予感がした。

(点滴?! こうなったら意地でも寝てやる...)

そう思い、俺は熟睡する子供を演じた。

........

中々カーテンが開かない。

すると、今まで一言も声を出さなかったその看護婦が

「...佐藤さん」

と俺の苗字(仮)を呼んだ。

女性の声だった。

そして、どこか機械的に聞こえた。

「...佐藤さん」

俺は無視した。

返事をしたら俺が起きているのがバレてしまう。

「佐藤さん」

再び声がする。

(早く行ってくれ...)

そう思いながら狸寝入りを続ける。

しかし俺はふと、あることに気づいた。

さっきまでは患者がベッドにいるかどうか覗いて確認していた。

何故俺の時だけ点呼で確認するのだろうか。

さっきのようにカーテンを開けて確認すればいいのに。

そう思ったときだった

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「さぁーとぉーおーさん」

先程とは違う、喉を震わせたような暗い声で俺の苗字を呼んだ。

肉声とは思えない不気味な声に俺は怯えた。

返事をしてはいけない。

第六感が訴えかける。

俺は目をギュッと瞑り、息を殺す。

布団の温もりが、やけに心強く感じた。

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ガタンッ!!

台車に医療器具を乱暴に置くような音が聞こえた。

俺はその音に驚いたが、平然を装う。

その音が聞こえてから5分ほど経った頃だった。

それ以降、俺は声や音が聞こえないことを不思議に思い、目を開けた。

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すると、先程までカーテンの下から見えていた白い足と台車が消えていた。

「えっ?」

俺は唖然とした。

何の音も聞こえていないのに視界から消えた。

しばらく様子が飲み込めなかったが、気配も感じられないので、俺はカーテンを開けて病室の中を確認した。

さっきの看護婦がいない。

おかしい。

この病室に入ってくる時に扉は完全に閉めていた。

病室から出るには再びその扉を開ける必要があるのに、扉が開く音は聞こえていない。

狸寝入りはしていたが、俺は完全に意識があったのを覚えている。

子供だった俺は、恐怖感というよりは、何故か不思議に思う感じの方が強かった。

とにかく点滴を打たれる危機は免れ、居眠り作戦も功を奏した。

点滴を打たれなくて済んだという安心感からか、俺は再びベッドに入るとすぐ眠りに落ちた。

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翌朝、看護婦が回診に来た。

「おはようございますっ。今日も佐藤くんの嫌いな点滴のお時間ですよー」

冗談っぽく俺に言う。

足に目をやると、昨日見た看護婦が履いていた靴と同じものを履いている。

「看護婦さん、昨日の夜、僕の病室に来た?」

「え? 行ってないよ。私は夜はここにいないから」

「昨日、夜に看護婦さんが来たよ」

「夜に? んー、多分見回りだと思うよ」

「でも、その銀のやつ引いてたよ」

俺は看護婦が持ってきた台車を指差す。

「これ? アハハっ それは無いよ。だって見回りにはこんなの必要ないもん」

「でも、その銀のやつがすごいカラカラ言っててうるさかったよ」

「本当? でも最近のこれは造りがしっかりしてるから、そこまでうるさい音は鳴らないと思うよ。でも昔は、うるさいものもあったけどねー」

「その看護婦さん、一人一人ベッドを覗いてたんだよ。僕は狸寝入りしてたけど、『佐藤さん』って僕の苗字だけを何回も呼んだんだ」

看護婦は首を傾げる

「消灯した後は見回りはあるけど、今やってるような回診はしないよ? それに、私は君のこと呼ぶ時は佐藤くんって呼んでるでしょ?」

俺はますます訳が分からなくなってきた。

「夜遅くまでゲームばっかしてるから、変な夢でも見たんでしょー? ほら、点滴打つよ!」

どこか腑に落ちない感じがしたが、俺は大人しく点滴を打たれた。

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結局、春休み中に退院は出来ず、病院で新学期を迎えることになった。

ランドセルを背負って下校する子供達を病室の窓から見る度、俺は溜息をついた。

それから10年以上経ったが、今でも思う事がある。

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何故あの看護婦は俺のことを呼んだんだろう。

もしあの時俺が返事をしていたら、どうなっていたんだろう。

それを考えると、未だに腹の古傷が疼く。

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サワノクラクナリさん:
コメント&評価ありがとうございます。
その時の私は苗字で呼ばれたことにあまり違和感を覚えなかったのですが、後々考えてみると怖いですよね...。医療器具にあるような、あのステンレスの音が今は少し苦手です(笑)

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あきらさん:
コメント&評価ありがとうございます。
その発想は無かったです(笑) 当時の自分には、そんな勇気と余裕はありませんでした(笑)

「加藤です」
って言ったら「あ、そうですか。これは失敬」
と言ってどっかに行ったと思います。

あゆっちゃおさん:
コメントありがとうございます。
急に3人も退院されるのは心細いですね...。やっぱり夜の病院は怖いですよね。私が入院した病院は別料金を払えば個室に移れたのですが、1人というのも心細かったので、結局6人部屋に留まりました(笑)

昔1ヶ月程入院した時の事を思い出しました。
4人部屋だったのですが、残り1週間という時に他の3人が退院してしまって私1人だけ…
怖い体験はしなかったんですが、ビビりなので毎日夜が死ぬほど怖かったです(泣

もし私がそんな体験をしていたらと思うと…
もう二度と入院したくないですね(T-T)

病院はやっぱり怖いとこですね(。>д<)

壱貉獸さん:
コメントありがとうございます。
怖がって頂けたようで何よりです(笑) またよろしくお願いします。

うーん!

結構ビビりました!
心臓に悪いよ!

でも、怖オモロかったです!

画面の左側タップすると文字が逆走する〜
右側タップすると大丈夫(´・ω・`)

はなさん:
オーディオ設定を再確認した上で閲覧頂くか、端末を一旦再起動して頂ければ治るかと思います。スマホで閲覧されている場合、端末の処理能力によっては、画面をタップする速度が速過ぎると、背景画像やBGMなどが読み込まれないこともあります。当作品以外でも同じ症状が見られる場合は、怖話アプリを再インストールされた方がよろしいかと思われます。参考にして頂ければ幸いです。

うーん、何故だろう?どうしてもBGMが流れない~ー…なんでだろうヽ(`Д´#)ノ

しいたけさん:
コメント&評価ありがとうございます。

お褒めの言葉、大変嬉しく思います。作品も楽しんで頂けたようで何よりです。基本的に私の作品には全て背景画像とエフェクトが付いておりますので、煩わしく感じられない方にはサウンドノベル風モードでの閲覧をおすすめしております。
これからも実話投稿していきますので、宜しくお願いします!

話の内容も実話だけあってリアリティがあるし、何より背景・BGM・効果音の使い方が絶妙でものすごく怖面白かったです!

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鎮魂歌さん:
コメント&評価ありがとうございます。

作品を楽しめて頂けたようで何よりです。
面白い話ですが、もし今の自分が過去に戻ってその時の体験をする事になったとしたら、子供の時の自分よりも怖がると思います(笑)
まだ色々と考える力が無かった自分は、怖がる気持ちもあると同時に、それ以上に不思議に思う気持ちの方が強かったのだと思います。成長して考える力が付いた今、逆に考えても分からない出来事や得体の知れないものに恐怖を抱いている、ということに気付く事が出来ました。

これからも実話投稿していきますので、どうぞご期待下さい!

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maiさん:
コメント&評価ありがとうございます。

お褒めの言葉、大変嬉しく思います。
夜の病院は雰囲気が何とも言えませんよね。ナースセンターから明かりが見えると安心するのですが、トイレに行く時は少し勇気が要りました(笑)
実話ネタはまだまだあるので、どうぞご期待下さい!

るん汰さん:
コメント&評価ありがとうございます。
他の作品もお読み頂いたとの事で、大変嬉しく思っております。怖話は3日前に始めたばかりで至らぬ点も多々あるかと思いますが、これからも実話投稿をしていきますので、どうぞ宜しくお願いします。

今回のお話ですが、私も何故自分だけが呼ばれたのか、今思い出しても検討も付きません。トンデモ発想ですが、私がいた病室には、かつて私と同姓の方が入院されていて、そこで働いていたその看護婦さんと何らかの問題があったのでは....... これではちょっと創作くさいですね(笑)
入院される事のないよう、るん汰さんの健康を祈っておりますが、もし入院されるようなことがありましたら、どうか夜更かしにはお気をつけ下さい...(笑)

やっぱり夜の病院は怖いですね。
話に引き込まれて行きました。
次回作、期待しています。