長編6
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廃病院にて

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これは数年前の話だ。

あの夏、私たちは毎晩のように心霊スポットに出掛けては、心霊写真を撮影する為に大量の写真を撮影していた。

ただの退屈しのぎだったと思う。

誰も本当に何かが写るなんて思ってもいなかったし、実際にそういうモノに出くわすなんて夢にも思わなかっただろう。

私も含めて…。

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始まりは先輩からの電話だった。

「おい、今日はS病院行こうぜ」

S病院、県内では有名な心霊スポットで、私も知っているどころか何度か足を運んだことのある場所だった。

「おぉ、イイですね!最近つまんない所ばっかでしたからね〜!」

即決…電話から1時間後には先輩と友達を合わせて8人と合流し、車は先輩と私の2台で目的地へと向かうことになった。

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目的地までは車で40分ほど。

若い男ばかり8人も集まれば、下品極まりない話で異常なまでにテンションは上がり、車の中は緊張感の欠片もないピクニック気分の一団と化していた。

しかし、その元気も長くは続かなかった。

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目的地に到着。

手入れの行き届いていない敷地は人の背丈もあろうかという草が生い茂り、道も車の通れるような道ではないため、途中に車を停めて草むらを掻き分けて病院へと歩く。

病院の屋上らしきものが草むらの奥に見えた頃、辺りの空気が冷たくなるのを感じた。

恐らく、他のメンバーも同じだったと思う。

誰1人として道中の車内のように騒ぐものはいなかった。

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そして病院の入口に辿り着くと、空気は重みを増して一段と冷たくなる。

何度か来たはずなのに、この場所が持つ異様な空気は慣れる事がない。

皆、言葉を忘れてしまったように黙りこんでしまっていた。

そう、この建物の前まで来ると決まって(帰りたい…)とだけ思うのだ。

しかし、その願いは叶わない。

「よっしゃ!入るぞ〜!!」

先輩に一声で皆の緊張が解ける。

「うおっ!怖ぇぇぇ!!」

「ビビんじゃねぇよ!!行くぞ行くぞ!!」

「美人ナースが待ってるぜ〜!!」

8人の男たちは、一斉に病院の中へと足を進めていった。

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病院の中は外よりも酷い。

外より一段と暗い屋内をライトで照らすと、全てのガラスは割られ、壁には所狭しとスプレーで落書きがされている。

足元は瓦礫の山と化しており、夏場だからとサンダルなどで来ようものなら歩くこともままならない。

しかし、メンバーは全員何度か来たことがあるのか、皆しっかりとした靴を履いていた。

各々、ライトも自分専用を持ってきているようだった。

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風呂場と思しき場所に着いた。

大浴場らしき浅いコンクリートの大きな湯船?が真ん中にあり、天井部は銭湯のように男湯と女湯を繋ぐ謎のスペースが空いている。

「ここ何か雰囲気がイイねぇ〜」

先輩がポケットからカメラを取り出した。

すると、皆が合図もなく真っ暗闇にも関わらず綺麗に列を作りカメラにポーズする。

そう、私たちの目的は心霊写真の撮影。

こういう事に関しての連帯感は素晴らしい。

「はい、チーズ!」

…。

… …。

いつも飛んでくるはずのカメラのフラッシュがない。

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「先輩どうしました?」

私が駆け寄ると

「ん?カメラ壊れたかな?シャッターが押せないんだよね」

いつも明るくて冗談の好きな先輩の事だ。

またいつもの冗談だろうと思い、

「勘弁してくださいよ〜。自分らそのくらいじゃビビりませんよ?」

そう言うと、先輩は真面目な顔で

「いや、マジで押せないんだわ」

とだけ応え、ライトでカメラの状態を確認していた。

その時、

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パシャ!

乾いた音と共に大浴場が照らされた。

「お、直った!写真撮ろうぜ !」

先輩がそう言った次の瞬間、

shake

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

メンバーの1人が急に叫ぶと、暗闇の中をライトも持たずに別の部屋へと走っていった。

一瞬の沈黙が辺りを包む…

「おい!追い掛けるぞ!」

先輩の声で皆は我に返った。

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手分けして他のメンバーが迷子になるのも危険なので、皆で固まり1部屋ずつ見て行くことにした。

さっき走っていった彼はすぐに見つかった。

大浴場から20mほど先だろうか、元病室らしき部屋の真ん中に座っていた。

皆で駆け寄り声をかけると

「ゴメンなさい…ゴメンなさい…ゴメンなさい…」

そう繰り返し呟いていた。

こちらの問い掛けには反応がない。

これ以上は無理と判断した私たちは、病院を出ることにした。

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帰りの車内、皆無言だった…。

ただ何を考えていたかは想像がつく。

前を走る先輩の車にのった彼のおかしくなった姿を思い出し、彼がどうなったか、それだけだったと思う。

私もそうだった。

しばらく車を走らせた時だった。

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私の携帯が鳴った。先輩からだ

「はい、もしもし」

「おい、ちょっと全員俺の家に集合な」

どこか暗い先輩の声が引っ掛かったが、1人でアパートに戻って寝るよりは数段マシだと思い皆に話すと、皆も1人で帰るのは怖かったらしく、全員先輩の家に集まることになった。

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先輩の家に到着し部屋に上がると、先輩と先輩の車に乗っていたメンバーが膝を突き合わせて座って何か話している。

先ほどの彼は帰り道で落ち着いたらしく、当たり前に会話しているようだ。

「まぁ、座れよ」

男8人、円になると膝を突き合わせて座った。真ん中にはティッシュの上に何かが置かれている。

「どうしたんです?皆暗いし、なんかあったんですか?」

しばらくの沈黙の後、先輩が口を開いた。

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「メスだ…」

先輩が皆の中心にあるティッシュの上に乗せられた細い棒のようなモノを指差した。

「手術に使うメスだよ。こいつが急に走っていったろ?あの時に何処からか拾ってきたらしい」

よく見るとそれは確かに手術用のメスだった。

本人は全く記憶にないらしく、ただいつの間にか握っていたのだと言う。

あんな瓦礫の山の中で、しかもライトも持たずに、こんな小さなモノを?

「○○さん仕込んでたでしょ〜」

私は笑いながら例の彼に話しかけると先輩がそれを止めた。

「違うんだよ」

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なぜ先輩が違うと言いきれるのか不思議に思った私は

「なんで先輩がそんな事分かるんですか」

と言いかけた時だった

shake

携帯が鳴った。この着信音は先輩のものだ。

「これだよ…」

先輩が私たちの前に携帯を放り投げた。

携帯のディスプレイには非通知の文字が浮かんでいた。

「出てみろよ…」

先輩と先輩の車に乗っていたメンバーは全員青い顔をして携帯を見つめていた。

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私が出ることにした。

「もしもし…」

「ジジジ…ジジジ…」

ノイズのようなモノが聞こえる。

「もしもし?」

「ジジジ…S…ジジジ…S病…院です。手術ができ…せん。メスを返し…ジジジ…ください」

私は通話を切ると携帯を放り投げた。

男の声だった。低い、脳内に直接届くような、恐ろしい声だった。

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「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!何の冗談ですか!!そうやって私ら馬鹿にしてんですか!!」

私は震える声で、無理に笑顔を作りながら先輩たちに問いかけたが、先輩たちに笑顔は無い。

「な?ヤバいだろ?」

先輩がそう言って携帯を拾おうとした瞬間

shake

また携帯が鳴り始めた。

皆の顔が青ざめる。私はさっきの恐怖が蘇り全身の血の気が引き、背中には冷たい汗が流れた。

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「どうするよ?」

メンバーの1人が言った。

誰も応えなかったが、その間にも携帯は鳴り続ける。

長い長い沈黙が流れた。しかし、携帯は鳴り止まない。そのとき、

「ハンズフリーで…出てみます?」

誰かが言った。

そうだ、皆で聞けば大丈夫かも知れない。何の根拠もないのだが、満場一致でハンズフリーを押す。

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「ジジジ…ジジジ…」

やはりノイズが聞こえてきた。

「ジジジ…S病院で…す。ジジジ…手術がで…きま…せ…ジジジ…」

皆に緊張が走る。恐ろしい声だ。声の主がこの世のモノではないことが受話器から伝わる。

「… …。」

ノイズが止んだ。

1分ほど経っただろうか。携帯からは何の音も聞こえなくなった。

緊張が緩みかけた時

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「たった今、看護婦を向かわせましたので至急メスを返してください」

背筋が凍った。先ほどの途切れ途切れとは違うハッキリとした低く恐ろしい男の声は、それ以上に恐ろしい事を口にしたのだ。

shake

ドンッ!!

皆の後ろの窓に何かが当たる音がした。

皆が降り向くとそこには

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shake

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カ…エ…セ…

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皆、同時に気を失った…のだと思う。

気がつくと朝になっており、ティッシュの上に置かれたメスが無くなっていた…。

その日、私たちは全員仕事を休みお祓いに行った。

お寺で住職にかなり酷く怒られた。

あれから数年経つが、誰1人事故や不幸に見舞われたメンバーはいない。

だが、これだけは断言しても良い。

私たちは2度と肝試しをやらないだろう。

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怖くてイイと思いました。次回作、待っています。