中編4
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庭の物置

田舎の古い日本家屋。草木も眠る丑三つ時。

寺の鐘こそ鳴らないけれど、吹き抜ける風に庭の木がざわざわと音を立てる。

なにやら、お互いに話をしているのではないか。

木々のざわめきを聞いていると、そんな気持ちにさせられてしまう。

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夜中に尿意を催して目覚めてしまった僕は、薄暗い廊下を歩いていた。

基本的に寝つきのよい僕は、夜中に目を覚ますことは滅多にない。

でもなぜか、今夜は珍しく夜中に目が覚めてしまったのだった。

トイレは家の端、この薄暗い廊下を歩ききった先にある。

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なんだってこの家は、こんなにも暗いんだろう。

廊下の電気も一応ついてるけれど、豆電球に毛が生えたようなものだし、

所々切れてたりしていて心細さを増幅させる。

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高校生になった今でこそ強がりも言えるようになってきたけど、

小さいときは夜の帳とともに怖いものが出てくるように思えて

とても怖かったことを覚えている。

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そんな僕の家とは対照的に、少し離れた新興住宅地にある同級生の斉藤の家は、

新築で何もかもが新しかった。

キッチンはもはや台所ではなく、ピカピカの冷蔵庫と電子レンジとカウンターがあり、

そして何よりも明るかった。

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彼のところの家族だって、明るい笑顔のお父さんとお母さんと、そして、、、、、

可愛い妹さん。

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『ふぅ』

斉藤の家とうちとの違いを思い浮かべ、思わず溜息が漏れた。

溜息をついてどうなるものでもないけれど、出てしまうものはやっぱり出てしまう。

そんなことを考えながら、僕は廊下の突き当たりを左に折れた。

突き当たりを左に折れて数歩行くと、廊下は縁側に出て今度は右に折れる。

そして縁側をちょっと行った先の突き当たりを再び右に曲がると、そこが目的地、

つまりトイレだ。

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昼間は開け放たれ猫が昼寝している縁側も、夜には木の雨戸が閉められている。

雨戸には顔の高さ辺りに縦長の明かり窓が並んでいて、外が見えるようになっているのだが、

その向こうの庭の中、松の木の横に我が家の物置がポツンと立っているのが見える。

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今日は新月の数日前で、細い下弦の月が庭と物置を照らしていた。

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そう言えば、今日学校で大山が変な話をしてたよな。。。

確か、下弦の月の晩は縁起が悪いとか、幽霊が出るとか、

そんな話だったっけ。。。

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その話を思い出したとき、この薄暗い廊下で後ろから何かがじっと見つめているような気がして、

背筋に寒気が走り鳥肌が立った。

あぁ、なんだってそんな話を、よりにもよってこんな夜中に思い出すんだ、僕は。

僕は思わず、自分を責めた。

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いやいやいや、

この気持ちの九割九分は幽霊ではなく大山のせいだ。

思い出させた責任は、明日きっちり取らせてやる。

そうやって無理やり怖い気持ちを振り切ろうとした瞬間、

shake

辺りが真っ暗になった。

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一瞬、何が起こったのか分からなかった。

現状を把握し、廊下の電気が消えたんだということに気付くまで、

数秒は悠に経っていたかもしれない。

後ろを振り返ってみると、そっちにも暗い洞窟が広がっていた。

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それを見て思わずぞっとしたが、

ここに立ち止まっていればいるほど恐怖がつのってくる。

こうなったら、後ろを振り返らずに進むしかない。

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新月間近の心許ない月明りを頼りに、

僕はゆっくりと、そしておっかなびっくりと

暗い廊下を歩いて行った。

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でもなんで、いきなり廊下の電気が消えたんだ?

停電か?まあ古い家だし、それぐらいはあっても不思議じゃないよな。

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そんなことを考えながら歩いていた僕は、

ふと外の物置に目をやったとき、

驚きのあまり息を呑んでしまった。。。

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物置の屋根の上には、

何人もの人が

物理的にあり得ないほどに座っていて、

こちらを無表情で眺めていた。

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『え?』

その状況に、一瞬頭が真っ白になった。

訳が分からない。

だが、もう一度そちらを見たときには、

その人達は消えていた。

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そしてその瞬間、

また光が戻ってきた。

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豆電球に毛が生えたようなものでも、

あの状況の後だと非常に心強く感じるから、

人間というのは全く都合のいい生き物だ。

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僕はまだ光があるうちに目的地に辿り着こうと、

歩を早めた。

あれは一体なんだったんだろうか。

悪意は感じなかったけれど、

やはり幽霊だったんだろうか。

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そんなことを考えながら、トイレ手前の角を右に曲がった瞬間、

shake

僕はある事実に気づいてしまったのだった。。。。

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そう、我が家の物置は、

イナバ物置だということに。

(了)

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