変化と成長 Ⅳ『アラタ怪奇譚』

中編4
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変化と成長 Ⅳ『アラタ怪奇譚』

一泊の旅行から帰ってきた私とアラタは、ある場所に寄っていた。

アラタのお気に入りの場所....ここは以前、不思議な双子の舞を観た五叉路。

ここは空気が澄んでいるように感じる不思議な場所だった。

「ユウ、大事な話しがある」

また大事な話し....少し躊躇したがアラタの穏やかな顔を見ると不安は消えた。

「高校を卒業したら結婚しよう」

急なプロポーズに少し面食らったが、これが自然の流れに感じたし返事は決まってる。

「はい」

そのまま無言で手をつなぎ家まで送ってくれた。

こうして触れ合っていれば気持ちは伝わってくる、幸せを実感できた。

私の家に着くと、アラタは父に告げた。

「ユウと結婚させてください」

足を捻挫してたはずの父はアラタの手を引きリビングまで走って行った。

思った通り仮病だった父をアラタは苦笑いを浮かべ困っていた。

「アラタくん、一杯だけ乾杯しよう」

無理やりアラタにグラスを持たせビールを勧める父を見ながら、私は父の思惑通りに事が進んだ事に少し腹が立っていた。

でも、嬉しそうなアラタが可愛くてどうでもいいかな......と思えた。

「ユウ、聞いてる?」

「え?」

「無茶な事はしないって約束、ホントに大丈夫?」

「ごめん、大丈夫。約束する」

心配そうに私の顔を覗き込むアラタに指きりの小指を出すと、指を繋ぎキスをした。

「おまじない」

「なんか....すごく効きそう」

「当たり前だろ、さぁ行こう。ニシムラが心配だ」

私たちはニシムラくんの後を追って玄関を入った。

より一層激しくなるプレッシャーは肌を焼かれるような痛みで、一歩を踏み出すのが困難だった。

家の外観よりも中の方が荒らされていて、落書きやガラスの破片で酷い状態だった。

ヒシヒシと伝わってくる怒りと憎悪の感情。

少し感のいい人なら間違いなく踏み込む事を躊躇するだろう。

本来あるはずの第六感は便利な生活と引き換えに失いつつある。

個人差はあるが生き物が持つ本能が危険を察知する。

ニシムラくんのように興味本位でこんな場所に踏み込んでしまうと取り返しのつかない事態を招いてしまう事になる。

ここはいるだけで身体に悪い、正常な精神状態ではいられなくなる。

「急ごう、さっさと連れて帰るぞ」

アラタはこの場所をどうするつもりなんだろう?

このままにしておくつもりなのかな......

危険な場所、ニシムラくんを無事に連れ帰ってもきっと彼のようにここに来る人は後を絶たないだろう。

何とかした方がいいんじゃないのかな?

アラタの後について行くとリビングと思われる少し広い部屋にニシムラくんは立っていた。

「ニシムラ、帰るぞ!」

アラタの呼びかけに何も反応しない彼は、私たちに背を向けたまま立ち尽くしている。

「おいっ!さっさと出ないと危険だ!ニシムラ!」

アラタがニシムラくんの腕を掴みこっちを向かせると、彼の目は虚ろに空を泳ぎ顔は真っ青だった。

「ち、ちょっと....大丈夫?」

「連れ帰ってから何とかしよう、今は一刻も早くここを出た方がいい」

私たちが来た事で気が立っている。

攻撃的な悪意は私に向けられていた。

アラタはその事に気づいてて早くここを離れたいんだ。

「ユウ、ガードを緩めたらダメだ!憑依される」

「でもアラタ、これは......」

私が言いかけた時、ニシムラくんはアラタの手を振りほどき暴れ出した。

自らの頭を壁に打ちつけ、手当たり次第に身体をぶつける。

ガラスの破片で手は切れ、額は皮膚が裂け、みるみる血に染まっていく。

「おいっ!」

アラタは羽交い絞めにして止めようと必死だった。

ニシムラくんは白目を剥き全身は痙攣したようにカクカクと不自然に手足を動かしていた。

その光景を呆然と見つめていると、ニシムラくんは首を捻り私の方を向いた。

その顔は別人のように歪み、口元は笑っているように見えて怖かった。

禍々しく全身を圧迫してくる悪意は部屋中を覆い尽くし憎悪が凝縮されていく。

急激な寒気が襲い吐く息は白く、至る所からピシッ、ミシッと音がし始める。

ニシムラくんの口が限界まで開けられ、真っ黒く塗りつぶしたようなその中から悲鳴にも似た笑い声が発せられる。

明らかに彼の声じゃない、耳を塞ぎたくなるほどの狂気の声に鼓膜は震え脳を痺れさせた。

「仕方ない、門を開く」

「ダメッ!アラタやめて!」

私のセリフを聞くこともなく、アラタは祝詞を唱え始めた。

みるみるアラタの青白い炎が渦を巻いて全身を包み込んだ。

部屋中が竜巻に飲まれたみたいに強風が吹き荒れる。

門はダメ、さっき感じた一瞬の違和感が私は気になっていた。

あの悲鳴のような笑い声......

一瞬だけ感じた悲鳴は気のせいじゃないはず。

そして門を開くのはリスクが高い事を私は知っている。

アラタが外法と言ったのには訳がある事を......

門はダメだよ、そんな事をするくらいなら......

私はガードを解いて全てを解放し心を曝け出す事を選んだ。

「ユウ!なにやってんだ!」

一瞬で私の考えてる事を理解したアラタは詠唱を止めて私を制止しようとした。

そう、よかったこれで門は召喚できないよね。

邪悪な意識に飲まれながら、私はアラタの叫ぶ声を聞いてホッと安堵のため息をついた。

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