中編5
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淡嶋の夜に響く愛の言葉

私は亰子。

十六歳の年頃の女の子。

部活大好き、勉強嫌い。

そんな普通の女の子です。

私には妹がいる。

ある日、その妹に部屋の大掃除を手伝ってもらうことにした。

ガラクタを詰め込んだいくつもの段ボールが部屋の見えない所に押し込められている。

中身を全て確認し、いらないものを捨てよう。

骨の折れる作業になるだろう。

しかし、いざ始めると・・・。

そこには懐かしさが詰め込まれていた。

物理的には戻れないけれど、心だけがあの風景に帰っていく。

あぁ、泣いちゃう。

たかが部屋の掃除でこんな気持ちになるなんて。

隣で引いている妹を見て我に返った。

次の瞬間、今日一番の懐かしさに顔面を殴られた。

男の子の人形。

当時かなり流行ったものだ。

買ってもらったときは嬉しかったなぁ。

この人形とは十年ぶりに再会したことになる。

妹「何よこれ、超キモイ!!」

顔が外国人の人形なので、かなり不気味である。

妹「捨てるよね。」

亰子「嫌よ、部屋に置いとく。」

妹「はぁ?ふざけないでよ同じ部屋なのに!」

何とか妹を説得し、部屋に飾った。

それからというもの、妹は寝つきが悪くなった。

布団に入っても人形が気になる。

黒いオーラが出ている気がするのだ。

それだけではない。

この部屋にいるときは常に視線を感じる。

あまりに不快だったので、妹は人形の身体を窓側に向けた。

だいぶ気が楽になった。

これで夜も普通に寝られる。

待ち望んだレムに潜る。

・・・。

夢さえ見ない。

まっくらやみでもいい。

人形と目が合わなければ。

あれ?

誰なの?私を引っ張るのは。

急に目が覚めた。

一時半。

まだ寝れるじゃん。

目を完全に閉じようとした直前、こちらを睨んでいた。

何故だ。

身体を窓側に向けたはずの人形がとてつもない形相でこちらを・・・。

静かな夜に響いた。

人形「おはよう!」

妹「ギャーーーーー!!!!」

部屋の電気が点く。

亰子「何、どうしたのよ?」

妹「喋ったのよ!このキモ人形!!」

亰子「え?あぁ、喋るのよその人形。」

妹「そうなの?」

亰子「そうよ、寝なさい。」

亰子はさっさと寝てしまった。

妹は結局寝られなかった。

・・・。

亰子「おはよう!」

妹「もう、キモ人形のまねしないでよ。」

亰子「ごめん。」

妹「なんなのよ、あの人形。」

亰「あの中にはタイマーが入ってるの。調節の仕方は忘れたけど電池を入れ替えてみたの。それでたまたまあの時間に声がしたというわけ。」

妹「あぁ、そういうことね。」

亰子「人形の声にはいくつかの種類があってね。実はもう一体女の子の人形がいたのよ。」

妹「・・・。」

亰子「義美っていう友達が持っててね、よく二人で遊んだわ。」

嫌な予感。

亰子「今日ウチに来てもらうから。」

妹にとっては最悪だった。

十時くらいに義美がやって来た。

義美「亰ちゃ~ん。」

亰子「あ、きたきた。どうぞ上がって。」

義美「お邪魔しま~す。」

早速人形の話になった。

亰子「ねぇねぇ、これ懐かしくない?」

義美「うん!流行ったよね。」

亰子「持ってきてくれた?女の子のほう?」

義美「え?何が?」

亰子「ほら、よっしーが女の子の人形持ってたじゃない。」

義美「ううん。京ちゃんが持ってた女の子の人形をあたしが借りて遊んでたのよ。だって、あたし買ってもらえなかったもん。」

亰子「・・・そうだっけ?」

義美「うん。たぶんこの家のどこかにあるわよ。」

亰子「ん~、大掃除したばっかなのにな~。」

義美「綺麗になったよね。掃除してないところってもう無いの?」

妹「ちょっとちょっと!」

義美「あら、蓮ちゃん。ひさしぶりねぇ。」

蓮「あのキモ人形が夜中急にしゃべったのよ、おはようって!」

亰子「これタイマー付いてたでしょ?調節の仕方忘れちゃってね。教えてくれない?」

義美「?タイマーなんてないわよこれ。」

亰子「え?でも・・・。」

義美「この人形は男の子と女の子が会話するわよね。

会話するにはスイッチがいるのよ。

一つはボタンを押すこと。

例えば男の子のボタンを押すことで男の子が喋る。

それと同時に女の子のセンサーが反応して返事をするのよ。

逆に女の子のボタンを押すと女の子が喋って男の子が返事をする。

もう一つは朝日。

長時間暗闇に置いた後に微弱な光を感じて「おはよう!」っていうのよ。

この「おはよう!」機能は男の子も女の子も共通よ。

人形はずっと京ちゃんの家にあったからあたしは「おはよう!」を聞いたことはないわ。」

細かな記憶がよみがえって来た。

蓮「でも「おはよう!」を聞いたのは真夜中よ。部屋も真っ暗だったし。」

亰子「う~ん、どういうこと?」

義美「とにかく、女の子のほうを探してみない?」

亰子「でも、どうやって?」

義美「簡単よ。男の子のボタンを押してみればいいの。

歩き回りながら押しまくれば女の子のセンサーが反応して返事が聞こえるはずよ。」

蓮「やだ、気持ち悪い。」

亰子「でもそれしかないわ。やってみよう。」

三人は人形の恋人探しを始めた。

「声」は数パターンあり、「おはよう!」、「ありがとう。」、「バイバイ。」、「愛してるよ。」がある。

「おはよう!」以外の「声」を何度も聞く羽目になった。

大掃除の後だったため、なかなか見つからない。

不気味な人形なら、掃除中に捨てたとしても記憶に残るだろう。

蓮「はぁ~、疲れる。」

亰子「あんた、休んでていいわよ。」

蓮「気になるじゃない。一度怖い目にもあってるんだから。被害者よあたし。」

そんなこんなで家の中は調べ尽くした。

亰子「後は・・・。」

亰子が外を睨む。

庭の物置が怪しい。

亰子「あそこになければもうないわ。」

戸の前に立ち、ボタンを押してみる。

男の子の人形「愛してるよ。」

耳を澄ます。

・・・。

「・・・てるわ。」

おっ!

蓮「なんか聞こえた。」

義美「探しましょう。」

一斉に物置を探してみた。

埃にまみれ、手が汚れていく。

男の子の「声」と三人の咳が混じる。

亰子「あっ!!」

小さな手が見えた。

亰子「あったわよ・・・。」

唾を呑む。

亰子がその小さな手を握り・・・、引っ張った!!

女の子の人形「がいじでるヴぁーーー!!!」

三人「ギャーーーー!!!」

全身がボロボロで髪は抜け落ち、カビだらけになっていた女の子。

飛び出た目玉は亰子を見ていた。

・・・。

二つの人形は神社に供養してもらうことにした。

住職「確かにボロボロだけど2体ともいい顔をしているよ。

人形の代わりに私が君たちにお礼を言うよ。

本当にありがとう。」

その道中での会話。

亰子「思い出したわ。あたしが物置に放り込んじゃったのよ。ちっちゃい頃のあたしが嫉妬してたのね。本当はあの人形は恋人同士だった。それをあたしが引き裂いちゃったわけ。女の子の人形はあたしを恨んでいたのよ。妹は昔の私の顔にそっくりだから見間違っちゃたのかもね。あの男の子の人形とお話ししたかったはずなのに・・・。」

ちょっぴり悲しい夏の小話でした。

・・・。

やっと会えた二体。

邪魔者のいない静かな夜。

今宵も神社に優しく響く愛の言葉。

女の子の人形「愛してるわ。」

男の子の人形「愛してるよ。」

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