晩酌をしていた兄が何だか上機嫌なので、其の訳を聞いてみた。
返って来たのは返事ではなくこんな話だった。
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此の間、東京まで仕事に行ったんですよ。
色々な物を仕入れたり売ったりの契約に。ほら、もう祭りの季節ですからね。
何だか車の調子が悪かったので電車を使って行ったんですけど、思ったより時間が掛かってしまって・・・あともう少し、という所で終電を逃してしまったんです。
仕方無いからタクシーを呼ぼうかなとも思ったんですけど、私、実はタクシー苦手で・・・。
次の日は休みだったので、何処かの店で時間を潰して始発を待とうと思ったんです。
そうしたら、線路の方から、電車の音が聞こえて来たんです。
で、見ていると濃い緑色の電車が私の目の前に停まったんです。アナウンス何かは勿論無しで、ですよ。
で、私が不思議に思って覗いて見ると、車内には動物が沢山居たんです。
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「兄さん、酔ってますね?」
突然突飛なことを言い出した兄に水を差し出すと、兄は若干ムッとしながら水をテーブルの隅に置いた。
「酔ってませんよ。本当に動物が沢山乗ってたんです。猫とか犬とか。」
「ライオンとか狼とか?」
「そんなのは居なかったです。茶化さないでください。」
益々ムッとする。
酔っている兄は表情がコロコロと変わって、中々に面白い。
手に持っていたチューハイを飲み干し、兄が心地良さげに息を吐く。
「犬に猫、小鳥とか・・・兎に、モルモットなんかも居ました。其れが、どわーっと降りて来てテクテク歩いて行ったんです。首輪とかしてるのも多かったです。」
「へぇ・・・。なんかペットみたいですね。」
何気無い相槌のつもりだったが、兄は大きく頷いた。
「多分ペットなんだと思いますよ。」
「ペット専用車両って訳ですか。」
「お盆は精霊馬・・・行きは胡瓜の馬に乗って此方側に帰って来るとされているでしょう?動物は馬に乗れないから電車なんじゃないでしょうか。」
精霊馬・・・?
此れまた突飛な考えだ。
けれど、今はまだ七月。
盆はまだまだ遠い。もし帰って来たんだとしたら、随分と気の早いことだ。
「思えば、あの電車の配色は胡瓜に似てました。車内は薄い黄緑色だったし。」
「はいはい。」
「信じてませんね?」
「信じてますよー。」
「いいえ、絶対に信じてないです。」
むくれた兄が、ペシペシとテーブルを叩く。
僕は落ちそうになっている水のコップをテーブルの中央へと移動させながら言った。
「只、お盆には少しだけ早いんじゃないかと。」
すると、兄の顔が少し得意気になる。
「東京には七月にお盆を迎える地域が有るんですよ。あの日は丁度入り盆でしたしね。」
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動物達を乗せた緑色の電車が、滑るように闇夜を走り抜けて行く様を想像した。
一駅ごとに電車は停まり、其の度に車内の動物達は減っていく。
電車から降りた動物達は、一体何処へ帰るのだろう。
見透かしたように兄が言う。
「愛しいと思えた何かの元へ、ですよ。」
昔飼っていたインコのことを思い出した。
あの子が帰って来た時の為に、小松菜を買って置いてみようと思った。
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「其の電車のことを思い出していたから、上機嫌だったんですか?」
「いえ、此のことをコンビニで知り合いに話したら、泣きながら店の猫用ササミを買い占め始めて、なんか面白かったんです。」
作者紺野
どうも。紺野です。
突然短編をすみません。タイムリーだったもので。
お盆も近いです。貴方の元へ帰ってくる子達を、どうぞ思い出してあげてください。
僕も突発的に小松菜をインコの墓に供えました。