中編3
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きゅうり電車

晩酌をしていた兄が何だか上機嫌なので、其の訳を聞いてみた。

返って来たのは返事ではなくこんな話だった。

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~~~

此の間、東京まで仕事に行ったんですよ。

色々な物を仕入れたり売ったりの契約に。ほら、もう祭りの季節ですからね。

何だか車の調子が悪かったので電車を使って行ったんですけど、思ったより時間が掛かってしまって・・・あともう少し、という所で終電を逃してしまったんです。

仕方無いからタクシーを呼ぼうかなとも思ったんですけど、私、実はタクシー苦手で・・・。

次の日は休みだったので、何処かの店で時間を潰して始発を待とうと思ったんです。

そうしたら、線路の方から、電車の音が聞こえて来たんです。

で、見ていると濃い緑色の電車が私の目の前に停まったんです。アナウンス何かは勿論無しで、ですよ。

で、私が不思議に思って覗いて見ると、車内には動物が沢山居たんです。

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~~~

「兄さん、酔ってますね?」

突然突飛なことを言い出した兄に水を差し出すと、兄は若干ムッとしながら水をテーブルの隅に置いた。

「酔ってませんよ。本当に動物が沢山乗ってたんです。猫とか犬とか。」

「ライオンとか狼とか?」

「そんなのは居なかったです。茶化さないでください。」

益々ムッとする。

酔っている兄は表情がコロコロと変わって、中々に面白い。

手に持っていたチューハイを飲み干し、兄が心地良さげに息を吐く。

「犬に猫、小鳥とか・・・兎に、モルモットなんかも居ました。其れが、どわーっと降りて来てテクテク歩いて行ったんです。首輪とかしてるのも多かったです。」

「へぇ・・・。なんかペットみたいですね。」

何気無い相槌のつもりだったが、兄は大きく頷いた。

「多分ペットなんだと思いますよ。」

「ペット専用車両って訳ですか。」

「お盆は精霊馬・・・行きは胡瓜の馬に乗って此方側に帰って来るとされているでしょう?動物は馬に乗れないから電車なんじゃないでしょうか。」

精霊馬・・・?

此れまた突飛な考えだ。

けれど、今はまだ七月。

盆はまだまだ遠い。もし帰って来たんだとしたら、随分と気の早いことだ。

「思えば、あの電車の配色は胡瓜に似てました。車内は薄い黄緑色だったし。」

「はいはい。」

「信じてませんね?」

「信じてますよー。」

「いいえ、絶対に信じてないです。」

むくれた兄が、ペシペシとテーブルを叩く。

僕は落ちそうになっている水のコップをテーブルの中央へと移動させながら言った。

「只、お盆には少しだけ早いんじゃないかと。」

すると、兄の顔が少し得意気になる。

「東京には七月にお盆を迎える地域が有るんですよ。あの日は丁度入り盆でしたしね。」

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~~~

動物達を乗せた緑色の電車が、滑るように闇夜を走り抜けて行く様を想像した。

一駅ごとに電車は停まり、其の度に車内の動物達は減っていく。

電車から降りた動物達は、一体何処へ帰るのだろう。

見透かしたように兄が言う。

「愛しいと思えた何かの元へ、ですよ。」

昔飼っていたインコのことを思い出した。

あの子が帰って来た時の為に、小松菜を買って置いてみようと思った。

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~~~

「其の電車のことを思い出していたから、上機嫌だったんですか?」

「いえ、此のことをコンビニで知り合いに話したら、泣きながら店の猫用ササミを買い占め始めて、なんか面白かったんです。」

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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

《犬は人に付く、猫は家に付く》と言いますからね。でも、やっぱり個体差はあるのではないでしょうか。
食いしん坊な子だったら、御供えのおやつに付いて来たりするかもしれません。

きっと大丈夫ですよ。
一度繋いだ縁ですから、其れを辿って来てくれる筈です。

YUKA Hosakaさんへ
コメントありがとうございます。

兄の話の方が本編より人気のことが多く、今更ながら兄の力に恐れ入ってます。

さて、其れはどうでしょうね。僕も教えられていませんから分かりませんが、確かにそうかも知れませんね。

奴隷ではなく執事擬き・・・の筈だったのですが。今となっては奴隷も否定できませんね。頑張りたくないです。

ちゃあちゃんさんへ
コメントありがとうございます。

そういうことってよくありますよね。きっとNNNの仕業ですよ。
斯く言う僕の家にも、最近通いの猫が来るようになりました。
近頃はとうとう猫用のおやつを父がストックし始めて・・・。
そちらの仔猫も家の通い猫も、どえんどえんになってしまわぬよう注意しましょう!

阿頼耶識さんへ
コメントありがとうございます。

僕も初耳でした。だとしたら、お盆休みとかもズレるのでしょうか・・・?

緑の電車=胡瓜というのは流石に少し無理がありますよね。妄言なのかもしれません。

覚えておいででしたか。
恥ずかしくも嬉しいです。

お盆だからと言っても、家に帰りたくない人も、家に帰れない人も居るでしょうからね。
伝承が疎かになっているのもそうですが・・・。
僕だって、二十四節気は単なる季節の分け方としか考えていませんでしたし・・・(笑)

紫さんへ
コメントありがとうございます。

最後は入れるか入れないか迷ったのですが、喜んで頂けたのなら嬉しいです。
猫バスならぬ・・・・・・(笑)
もふもふじゃなくてツルツルですね。

酔った兄の戯言でなければ良いですよね。
其れでは、宜しければ、またお付き合いください。

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

そうですよ。
木葉さんもお酒は飲みます。甘めの物が好きみたいですね。

初めての人にも読み易くあって欲しいと思うと同時に、やはり何時もお付き合い頂いている皆様にも楽しんで頂きたいんです。
逆に空回りをしていなければいいのですが・・・

ピノさんへ
コメントありがとうございます。

初めまして。
何時も《怖い》を付けてくださり、有り難う御座います。紺野と申します。

少し青臭そうでもありますけどね(笑)

最近はペットも家族の一員と考える方も多いですからね。需要と供給の面からそういうことになったのかも知れません。
家のインコも帰って来ていると良いんですけど・・・。

此れからも宜しければ、お付き合いください。

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お盆が近づくと、今までに旅立って行った猫たちのに事を思い出し、お母さんはここにいるよ、帰っておいでねって思いながら空を見上げたりしてます‥‥そしたら‥仔猫を拾ってしまいました‥食欲がすごくて食欲がすごい男の子です、

今日も夜の怖話タイムに紺野さんの名前があり、早速堪能させていただきました♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪

7月に盆を迎える地域があるのは初耳でした。

精霊馬…電車から馬や牛という発想は全くなかったです。乗っていたのが動物だったからでしょうか。

インコの話、懐かしいですね…
また読みにいきます。

盆になると毎年いろんな「声」が聞こえて体調が悪くなります・・・迷わずに行きたい場所に還れるように、若い人にも昔の風習とその意味をしっかりと伝承してもらい、確実に行って欲しいと、盆や24節気を迎える度に感じます…

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こちらのお兄様は、狐さんの方?
お酒飲むイメージは、猿さんの方だったので…でも、話し方とお祭りと言えば…
紺野さんのこの手の話口は、こういった楽しみ方もありますね。

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