中編6
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烏と僕【烏シリーズ】

僕が中学2年の頃、不思議なヤツと仲良くなった。名前は、仮に烏(からす)とする。初めて見たときは、無口で暗い性格だと思った。そんな僕達が友人となったのは、あの事件からだった。

僕が中学一年の時、二つ隣のクラスに転校生が入ってきた。髪型は七三分け、皆からは『烏』と呼ばれていたが、彼はいつも一人で居り、暗い印象が強かった。

僕が中学2年生に上がった時、烏と同じクラスになった。烏は相変わらず無口で、他の生徒とは話そうとせず、初めは烏に絡んでいた男子生徒たちも、ノリの悪い烏から次第に離れていった。初めは僕も烏と仲良くしていたわけではないし、話すらしたこと無かった。あの事件が起こるまでは…

その年の7月10日に、『少女殺害事件』が起きた。被害者は10歳の女の子、犯人に関する手掛かりは無く、後にその事件は迷宮入りとなる。事件が起きたのが通学路だったため、帰りは現場を通らなければならない。そこには警察官が数人とやじうまが群がっている。その中には何故だか烏も居た。すると烏が僕に気付いたようで、こちらを向くとニヤリと笑い話しかけてきた。この時初めて烏と言葉を交わした。

「被害者の女の子、隣のクラスに居る男子生徒の妹さんなんだよ。君、知らないと思うけど。」

「そうなんだ…」

僕が返事をすると、烏はまた口を開いた。

「俺、その男子生徒と話したことあるんだけどさ、彼の妹さん、悪霊が憑いてたんだってさ。それも最悪クラスのヤツが。」

ずいぶん突飛な話をされたため、僕はすぐに理解できなかった。

「え?つまり、どういうこと?悪霊に殺されたってことなの?」

僕はそう聞くと、烏は溜め息をついてこう言った。

「違う。被害者の女の子、悪霊に殺されるほど弱くない。弱くないって言うか、霊にとり憑かれても悪い影響を受けない性質って言うか。まぁ、それっぽい感じ。」

ますます訳がわからなくなってきた。そんな人が本当に存在するのだろうか。

そして今更だが、僕はようやく烏にこの質問をした。

「なぁ烏、お前って、霊感強いのか?」

すると烏はニヤリと笑って答えた。

「うん、まぁそこそこね。そういう君は、俺の話を信じるのかい?」

僕にも霊感っぽいものはあって、わずかだが霊的なものを見ることはあった。

「うん、まぁ。霊の存在は否定しないし。僕も、見たことあるし。」

「ふ~ん、なら話が早いね。少女に憑いてた悪霊、どうなったかわかる?」

どうなったのか。少女の命が絶たれたことで、憑いていた悪霊は行き場を失った。つまり…

「その悪霊が、野放しになった…?」

「ぴんぽ~ん。正解だよ。それで、その霊に興味ない?どんな姿をしているとか。」

まさかこいつ、その悪霊を見に行くとか言わないだろうなと思った瞬間、僕の予想は的中した。

「俺はその悪霊を一目だけでも見てみたいよ。君はどうだい?興味無い?」

正直、興味はあったが、そんな恐ろしいものを見に行く勇気は無い。

「それは…ちょっと興味あるけど、もし呪われたりしたらどうするの?最悪クラスってヤバいんだろ?」

「うん、ヤバいよ。確かに憑かれたら最後、誰にも祓えないし俺たち死んじゃう。でも、そんなすごい悪霊がいるなら見る価値はあるよ。」

どうやら烏は本気でその悪霊を見に行くようだ。結局僕も着いていくことにした。

「わかった、僕も行く。それで、その悪霊ってどこにいるのさ。」

「そうこなくっちゃ。もう居る場所は知ってるんだ。着いてきて。」

なぜ居る場所を知っているのか疑問に思い、それを訊こうとすると烏がこちらを振り返った。

「君、なんて名前?」

そうか、僕はまだ烏に名前を教えていなかった。

「僕は雨、よろしく。」

「うん。」

僕は烏に何かを訊こうとしていたが、忘れてしまったようだ。

烏に連れられて来たのは、とある漁港だった。平日の夕方だからだろうか、人がほとんど居ない。烏によると、その悪霊は港と陸続きになっている小島にいるらしい。

「ほら、あそこ」

烏は島を指した。

「行こう」

そう言うと烏はさっさと歩き出したので、僕はそのあとを付いていった。

島に着くと嫌な空気を感じた。この島の裏側に例の悪霊はいるようだ。

島は大きな岩が積み重なって出来ており、足場はそんなに良くない。

島の裏側へ行くと、そこには一人の女性が僕たちに背を向けて立っていた。

長くて黒い髪には艶があり、一見すると普通の女性のようだが、その周りを黒い何かが漂っていた。

「おお、想像以上だ。世界を滅ぼすくらいものすごい力だよ。」

烏は少し興奮しながらそう言った。

「世界を滅ぼすくらいって…いくらなんでもそれは無いだろ。」

僕がそう言うと、烏はニヤリと笑って答えた。

「確かにね、霊体のままではそこまでの力は出せないだろうけど、生きている人間に憑依してしまえば最強の生物兵器になるよ。」

「生きている人間に憑依したら、その人は死んじゃうんだろ?無理じゃん。」

烏は首を横に振った。

「そうだね、あんな化け物に憑依されたら誰だって死ぬよ。でも、さっき話した殺人事件の被害者の少女は?」

そうか、悪霊に耐性のある人がいるとすれば、憑依されても死ぬことは無い。

「あれほどの力を持った悪霊なら、少女の命は奪えなくとも、意志を乗っ取ることは出来ただろうね。少女の方がどれくらい力のを持っているのかにもよるけど。」

そんな会話をしていると、さっきまで背を向けていた女性がゆっくりと振り向いた。女性の顔は灰色で痩せこけており、目は真っ赤だった。

「あ、まずい」

烏はそう呟くと僕の腕を掴んで、「逃げる」と言ったが、どうやら遅かったみたいだ。

まだ明るい空に黒いものが覆い被さり、あっという間に世界は薄暗くなった。

「なぁ、どうすんだよ。僕ら死ぬのか!?嫌だぞ!霊に殺されるなんて!」

僕は烏に向かって叫んだが、まるで聞いていないようで、

「こいつはすげぇ!俺たち別の世界に来たんだぜ!」

とかテンション上げ上げでそう言っているけれど、それってまずいんじゃ…

「なぁ、別の世界って、僕ら死ぬの?それとも既に死んでるの?」

「いいや死なないよ。ほら、これがあれば。」

烏はそう言うと、ポケットからひし形の綺麗な石のようなものを取り出した。

「なにそれ、お守り?」

僕がそう訊くと、烏は「まあね」と答えてその石のようなものを悪霊に向けた。

「俺たちを守れ」

烏がそう呟くと、その石のようなものは光を放ち、その光に僕らは包み込まれた。

「逃げよう」

烏は再び僕の腕を掴んで走りだした。

島を出てからもひたすら走った。黒い世界の道は途方もなく長く感じた。

気づくと、空は夕焼け色に染まっていた。僕らは走る足を止めた。

「助かったのか…?」

僕がそう言うと、烏は頷いた。走ったばかりで、疲れて声を出せないようだ。

僕も疲れてしまい、その場にへたりこんだ。

すると烏は口を開き、

「実はちょっと危なかったんだよね。パワーストーンの力が消されそうになってた。」

と言った。僕はその言葉に対し、

「もし、そうなってたら?」

と言うと、烏は「死んでた」と一言呟き、それと同時に「ごめんな」と謝ってきた。

「なんで謝るのさ?」

と僕が訊くと、

「いや、俺が誘ったせいで死にかけたわけだし。」

と烏が言ったので、僕は立ち上がって

「別にいいさ、それに少し面白かったし。」

と返した。すると烏は僕の方を見てニヤリと笑うと、

「ふ~ん、そう思うんだ。君は面白いね。」

と言ってきた。

「お前さ、一応謝っただけで本当は悪いと思ってないだろ。」

僕がそう言うと烏は「うん」と答えた。

「いやいやいや嘘でも否定しろよ!最低かよ!」

そう烏に文句を言ったところで、僕はさっき訊き逃したことを口にした。

「なぁ烏、なんであの悪霊があそこにいるって知ってたんだ?」

すると烏はこう答えた。

「霊がどこにいるのか探知できるんだ。不思議だろ?」

霊の居場所を探知できる。そんな能力を持った変なヤツ、烏とはこうして出会った。そしてこれから先、僕は多くの怪奇体験をしていくことになる。

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