中編5
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名も無き神社の災

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ある日、私は友人のA子と一緒に初詣に出かけた。

向かった先はけっこう大きな神社で、急がないと行列ができてしまうような所だ。

朝方5時には起きて、6時半には出発。

そして8時前には到着。と、ここまでは予定通りだったが、

「うわぁ何これ、無理っぽくない?」

と、神社の境内の前の大行列を見て、A子がぼやくように言った。

確かに、この人の多さでは、確実に後二時間はまたされそうな気がする。

どうやら日が悪かったようだ。

私とA子は、とりあえず並ぶかどうか、それとも別の神社を探すか、どちらか決めあぐねていた。するとA子が、

「ねえねえ、ここ来る前にさ、小さな鳥居の神社があったじゃない?あそこで済ましちゃおうよ」

私は一瞬考えたが、今更並びなおすのも、また、別の神社を探す気にもなれず、しぶしぶA子の妥協案を呑む事にした。

私はA子に連れられてその神社へと向かった。

今いる神社から、少し森の奥へと移動する。

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やがて、A子が言っていた小さな鳥居が姿を現した。

おおよそ手入れがされているとは言い難く、印象としては、あまり有り難味もなさそうなとこだなと、私は思った。

ただ、当時の私たちにはあまり神社に関しての知識はなかった為、まあ神様が祭られてて、お賽銭がいれられるなら同じだろう、ぐらいにしか思えなかった。

お賽銭を投げ入れ、鐘を鳴らし、二人で手を合わせる。

目を閉じて、家内安全健康云々と、願っていたその時だった。

「きっきーおちた!おちた!!」

甲高い子供の声?

突如聞こえた声に私とA子は後ろを振り返る。

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そこには、よれよれの黄色のセーターを着た、10歳くらいの奇妙な男の子が立っていた。

そしてその子は私たちを見ながら、大きく口を開いて繰り返すように言った。

「きっきーおちた!おちた!!ぎゃははは!おちた!おちた!!」

「何この子……?」

お世辞にも、その男の子は可愛いとは言い難く、ギョロっとした大きな目に、どことなく焦点のあっていない瞳が、不気味な印象を放っていた。

私が唖然としていると、A子が私の袖を掴み引っ張りながら、

「ね、もう行こ」

と、半ば強引にその場から離れた。

私とA子が、その神社から離れる際も、その不気味な男の子は、その場で飛び跳ねながら、

「きっきーおちたおちた!!ぎゃはははは!」

と、喚く様に繰り返し言っていた。

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私は気を紛らすようにA子に冗談混じりに言った。

「は、はは、何あの子。あれじゃない?ほら、A子さ、今度会社の面接でしょ?」

「えっ?ちょっと待って、私が落ちるってこと?ちょっ酷くない?」

「あはは、うそうそごめんごめん」

「はは、もう」

やがて普段の調子を取り戻した私たちは、そのままお昼をすませ、午後からは見たかった正月映画を堪能し、それぞれ帰宅した。

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その後、A子は無事会社の内定を貰い、春から新社会人へ。私はというと、少し早めのゴールを決めて、晴れて主婦への道を歩む事になった。

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それから6年後の大晦日。しばらく疎遠になっていたA子から連絡があった。

「私さ、今度結婚する事になったの、」

久々の旧友との会話、しかも結婚というお祝いもあり、私たちはまた、一緒に初詣に行こうという流れになった。

約束の当日、私とA子は久々の再会を果たした。A子は少し丸くなったようだ。まあ私も人の事は言えず、近頃は毎日ジムに通っている。

私たちはお互いの近況を語りながら神社へと向かった。

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駐車場に車を止め、車を降りてから細い林道へと歩いて向かう。

天気も良く風もサラサラとしていて心地良い。

外を出歩くなら正に絶好の日和だと、私はA子に言おうとした、その時、

キッキーー!!

「えっ?」

shake

突然の音に私は振り返ろうとした、がそれよりも早く、私の背中に衝撃が走った。

私の体は横倒しになり、痛みで頭の中が混乱していた。

すると突然、

「す、すみません大丈夫ですか!?」

と叫ぶような男の声が響いた。

私は、はっとしながら上半身を起こすと辺りを見渡した。

自転車だ。サイクリング様の自転車が二台も横たわっていた、そしてそこには自転車用のウェアを着た30代くらいの男性が、必死の形相でこちらの安否を気遣っていた。

どうやら私たちは、転倒した二台の自転車の巻き添えを食らったらしい。

A子……A子!?

直ぐに横を見た。

A子は体を起こし、どこかぐったりとしている。

良かった、意識はあるようだ。だが心なしか様子が変だ。

「もしもし!救急車を、」

自転車の男が携帯で救急車を呼んでいるようだ。

何でこんな事になったのか、私は深いため息をつこうとした、が、その時だ、

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「きっきーおちた!おちた!!ぎゃはははは!!」

「えっ……」

甲高い子供の声。ふと6年前の初詣の時の記憶が、私の頭の中で再生された。

あの時の……

声のする方に振り返った。

林道の先、よれよれの黄色いセーターを着た10歳くらいの子供が、そこに立っていた。

目は魚のようにギョロっとしていて、どこか焦点が合っていない。

「きっきーおちたおちた!!ぎゃははははっ!!」

その場で飛び跳ねるようにして、狂ったように喚き散らしている。

まともな子じゃないのは確かだ。だがおかしい、今目の前にいる男の子は、6年前、あの時見た男の子と、なんら変わっていない。

そんなはずはない。10歳くらいの男の子が、6年もたてばかなり成長しているはず。

なのに、その姿、その顔も、なんら変わっていない。まるで6年前の記憶の中から抜け出てきたような。

そんな風に私が驚いていた時だった。

「うそ……うそうそうそ嘘っ!?いや、いやぁっ!?」

突然A子が狂ったように泣き叫び始めた。

「A子?A子!?」

私がA子の名を呼び振り返る。

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するとA子の足元には、ゆっくりと真っ赤な血溜まりが広がりつつあった。

まさかどこか怪我をしたのか?そう思いA子を抱き寄せるようにした時、A子が言った、

「私の赤ちゃん!私の赤ちゃんが!!」

愕然とした。

A子は……A子は妊娠していたのだ。

ぎゃははは!!おちたおちた!!ぎゃはははっ!」

甲高い子供の声が響いた。だが、探そうと辺りを見渡すが、その姿はもうどこにもない。

声だけが、こだまの様に響いていた。

やがて遠くから救急車のサイレンが鳴り響いてきた。

男の子の声はサイレンの音に掻き消され、いつの間にか聞こえなくなっていた。

きっきーとは、自転車のブレーキ音の事だったのだ。

そして、おちた、おちた、というのは……

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私はそれ以来、神社に行くのが怖くなり、初詣には行っていない。

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知らせてくれたにせよ、
人の不幸を笑うとは、不道徳やヤツだ!
バチが当たればいいんだ!
バカモンがー
o(`ω´ )o

え?人間じゃないヤツにも
バチは当たるのかな…?(笑)

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