長編8
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畢竟、

俺には今でも、頭に浮かぶだけで胸から吐き気が込み上げてくるような過去がある。

それは、俺が小学生だった時の話だ。

その時の俺は、父親も母親も俺が五歳の時に交通事故で他界してて、年のとった父方の祖父母に引き取られていた。

母方の祖父母は、俺の父親と母親の死んだ1年後から、行方不明だった。

捜索届が出されていたが、二年間の間出掛けた形跡足取りすら見つかってなく、生きてるのか死んでいるのか分からなかった。

ほんとうに、酷い環境だった。

学校じゃあ暗い性格でいじめられてたし、いじめッ子に一回画鋲で腕を刺されたとこまで悪化しても、

担任の先生からは見て見ぬふりをされてた。

学校には誰も味方がいなかった。

そんな中でも、父方の祖父母は親切で俺に優しかった。

今でも好きな祖父母だが、その時の俺は拗ねていて、よく祖父母に反抗していた気がする。

それは、俺がいじめられた原因が、父親と母親がいないからだった。授業参観にも、両親が来なくて、代わりに向こうからしてみれば、ジジイとババアが年若い自分たちの親と参観するだけで、場違いでおかしかったんだろう。

俺の暗くて、引っ込み思案人見知りな性格もあって、また親から洗脳されたような歪曲した小学生のモラルで俺は学校から排除された。

小学生ながら、ぼんやり自殺も考えたりしてた。

そんな俺の最悪な小学生時代も、気が休める一人になれる時間があった。

山を少し登った社の敷居で、漫画を読んだり、ぼんやりしたり寝たりしたりしていた。

そこの場所には、古びてはいたが、人が近寄らず、人間不信真っ最中の俺には隠れ蓑だった。

俺自身もその場所はそれなりに好きだったし、そこの雰囲気が好きだった。

あの、夏場なのに、どんな生き物の息遣いさえ聞こえない無音の中が、なによりも好きだった。

今思えば、そこで止めてれば良かった。

だんだん、その場所にいるのが癖になり、俺は学校まで休んで早朝から夕方までそこにいた。

ランドセルに一日中暇を潰せるだけの本を詰めこんで、そこでただのんびり時間を潰していた。

そんな日を何週間か続けたら、学校から祖父母への連絡で俺のずる休みがバレて、祖父から心無い扱いを受けた。

また、そこで俺の地獄が始まった。

いつも通りに学校社会から排除されて、いじめられる俺と嗤うクラスメイト、それを見てるだけの教師。いつも通りの、日常。

ただいつもと違うのが、その日常に付け合わせて、祖父が俺を叱りつける日々が始まっただけで、

その度に祖父は、

「今までお前を甘やかし過ぎた。」

と言って、俺をなじった。

時には平手打ちまでする事もあった。

毎日三食、俺にご飯を作ってくれた祖母も今は俺に飯を一切作らなくなった。

視線も合わせようとしない。

その度に、俺は酷く哀しい気持ちになって、夕方までいたあの場所にも夜更けに行く事が多くなっていた。

その度に、社に祀られている何かがこっちを見てるのが分かった。

日を追う事に視線は強くなっていた。

ある日、俺はその視線の先の何かに声をかけてみる事にした。ただの好奇心だ。

ただでさえ、なにも聞こえない無音の中で俺一人に注がれる視線だ。

なんとなく、気になるのは分かって貰えるだろう。

俺は一言、

「だれかいるの?」

って言った。

返事は期待してなかった。

ただの独り言でもあった。

すると、仄暗い社の中から、小さく、

「イルヨ」

って聞こえた。

明らかに生きてる人間の声じゃなかった。

俺はここでビビッて、逃げれば良かった。

なのに、その時の俺はしなかった。

寧ろ、何だか分からない不思議な安心感に満ち溢れていて、その社の中を覗きこんだ。

そこにいたのは。

首の無い、地蔵だった。

所々、腐蝕して剥がれ、ひびの入った。

そして、何故か全身が【血のように紅い】、禍々しい石の地蔵があった。

「イルヨ、イルヨ」

声がまた聴こえた。

今度はその地蔵からじゃあない。

上に、上から聞こえてきた。

俺は、見てしまった。

見なければ、助かっていたのかもしれないのに。

首亡しの地蔵の真上に手足が無いだるまみたいな血だらけの女が張りついていた。

「カワイソウニ、ネェ。」

女とも、幼い子供とも、赤ん坊とも、低い男の声とも言えない音で俺に話しかけてきた。

逃げれば、良かった。

来なければ良かった。

逃げたくて堪らないのに、脚が動かない。

あのだるま女の真っ黒な二つ目から見つめられた瞬間に俺は、まるで足を削がれたかのように、

アレからの逃げ方が分からなくなっていた。

足の動かし方を忘れてしまった。

「サミシカッタヨネ、ツラカッタヨネ。ワカル、ワカルヨ。カワイソウニ、ネェ。カワイソウデ、カワイソウデ、オイシソウデ、カワイクテ、タマラナクテ、ズットミテタヨ。」

その女は口から長い舌を出して、俺の顔を舐めた。

女の唾液が俺の顔を這う。

「ニクイ、デショ?コロシテヤリタイ、ヨネ?ヒキズリマワシテ、ミタイデショ?」

女の暗い目が近付いてくる。

どうすれば、いいか分からない。

「カナエテ、アゲル。」

最期に見たのは女の顔半分引き裂かれたような巨大な口のような真っ赤な肉と歯だった。

今から二十七年前の新聞記事にこう書かれている。【「猟奇的大量殺人事件」「M町を襲った怪奇事件」

1989年8月27日、人口1300人のM町にいる全ての住人が失踪。家屋には夥しい血の跡。引きずられた形跡。何者かの肉片。髪の毛。頭皮が落ちていた。

何者かが引きずられた形跡を辿ってみると、森の中にたどり着いた。森の中で発見されたのは、手足の削がれた【だるま状態】の全住人の惨殺死体。

老若男女赤子問わず、殺害されていた。】

翌日の新聞にはこう見出しに書いてあった。

【「M町猟奇的大量殺人事件に驚愕の新事実!」

死体の数が一体足りない。

惨殺された筈の村人全員の死体を調べた結果、M 町に住んでいた。○○小学校に通う、当時小学○年生○才の○○○○君だけが発見されていない。】

その時に、ニュースキャスターや犯罪心理学の学者、評論家がこう言っていた。

【○○○○君はまだ犯人に拉致されている可能性があります。】

【小学生の彼だけが生存者。○○○○君の目撃情報があれば、犯人特定の手がかりになる筈です。】

【犯人は人間ではない、人間のする事じゃない。まるで、悪魔だ。犯人は悪魔だ。】

それから、今日にいたるまでに二十七年間。

彼は発見されていない。

今年の夏の心霊特集で、あの土地に霊能力者とどっかのお笑い芸人と、名前の分からないアイドルが肝試しに行ったらしい。

その時、テレビで喋った霊能力者の言葉が忘れられない。

【この土地は呪われている。この土地では昔、人身御供が伝統化されていた。供物の対象は髪の長く若い美しい女性。女性の声帯を潰し、女性の手足を生きたまま、切り落とし、その血を女性の全身に浴びせ、神に捧げる儀式。この山にいる神が信仰の対象。しかし、この地に信仰されていたのは、山神じゃない。祟り神だ。】

【首亡しの地蔵は祟り神の御神体。赤い色は供物に捧げられた若い女性達の生き血。】

【住人を全て殺害したのは、手足の無い女性の悪霊。女性達の憎しみの集合体。】

【○○○○君がこの社を開けてしまった。中に入っていた禍を解き放ってしまった。○○○○君はまだ生きている。その悪霊と一緒にいる。】

【彼はもう、助からない。

誰にも、救えない。】

良く出来た作り話だ。と思った。

実にドラマテックに捏造出来たモンだと。

霊能力者、やればできるじゃない。

妄想力半端ねぇ、とつい笑ってしまう。

隣にいた恋人は、めっちゃ怖がってたけど。

まぁ、心霊特集だし。内容が捏造されてても、視聴者を怖がらせられたら、大成功だよな。

幽霊、悪霊、怪奇現象、UFO を全部作り話だと思っている俺からすれば、どうでもいい話だった。

思い出すだけで、どうでもいい気持ちが蒸し返されて、煩わしい。

朝も更けてきた頃に、日課のコンビニに朝飯を買いに行く。この時間帯は客がめったに来なく、行きやすい。コンビニ弁当も自分で作るより、旨いし。

コンビニの中に入ろうとすると、先に中にいた出てくる男の客にぶつかって尻餅をついた。

「あ、すいません。」

とそっけない口調で謝られて、このやろうと腹が立ち、相手の顔を見ると、

黒髪の三十代くらいの気の弱そうで真面目そうな男〈イケメン〉だった。

そいつは俺に、もう一度「すみません」と謝った後、いつからいたのか分からない黒髪の女の所に行った。その女は夏場で腕と足を露出させた服を着ていた。

俺はそのカップル(俺解釈)に対して

「なんだよ。こんな時間に女とコンビニにきてんのかよ。気持ち悪いな。」

とつい、本音を口に出してしまった。

聞こえていたのかも、しれないのに。

すると、女の方がこっちの声に気づき、顔を俺の方に向けた。口は白いマスクで覆われていて、目元はばっちり化粧の決めたわりとキレイな女だった。

その女は俺に向けて、ニッコリ。

と効果音がつく程、マスク越しで俺に向けて笑ったのが分かった。

その時、凄まじい悪寒が全身を駆け巡った。

あの女の笑顔に、温度なんて無い。

あれは微笑み、じゃない。

なんの感情も込めずに、ただ、ニンマリと笑っているのだ。冷たく、感情の込められていない、表情筋を吊り上げただけの、面の形だった。

あの女の口元をみていたら、俺は発狂していたかもしれない。それほど、恐ろしいものをみた。

女は腰を抜かした俺を見て、満足したのか、俺から視線を外し、さっきの男の腕に甘えるように両腕をまわし、歩いて行った。

その時の女の歩き方がおかしくて、

じっと見たのがいけなかった。

女の太ももには、肉と肉を針金で縫い合わせたような跡があった。よく見てみれば、太ももと太ももの下の脚の肌の色が違う。

その色の境界は、肉に食い込んだ針金。

腕にも針金の跡があり、肌の色も違っていた。

そこまで、だ。

俺が覚えているのは。

気がついた時には、病院のベットの上だった。

後から、聞いた話によれば。

俺はあのコンビニの入口の前で、白目で口から泡を吐いて気絶してたらしい。

夜勤終わりの店員が通報したそうだ。

あの出来事は今でも忘れられない。

あの女と男がなんだったのかも分からない。

ただひとつ言えるのは、断言できるのは。

あの女は──゛゛゛゛────つまり、

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