中編3
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醜女

言霊 ことだま 言葉に霊的な力が宿ること。某辞書より引用

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俺の姉さんはある古い村にある名士の家に嫁いだ。

分家もあるような大きな一族で、姉さんの旦那は本家の跡取り息子だった。

普通の家庭で育った姉さんはしきたりやら何やら、慣れないこともあったのだろう。それが姑のカンに障ったのかもしれない。

結婚してからは姉さんの旦那は跡継ぎとして仕事に忙しく、ほとんど家に帰ってこなかった。

だから姉さんは姑と本家で暮らす親族と一緒に過ごすことが多かったらしい。嫁いで来た立場なので家事は姉さんの役目だった。

だが姑は姉さんのやることにかならず小言を加えた。最初はやんわりとだったため姉さんは家のルールをしらない自分への指導なのだと思っていたが、日が経つにつれ、それは過激さを増していった。

朝食の時間が数分遅れただけで怒鳴られる、部屋に活ける花の色が気に入らないと花瓶を投げ掛けられることもあった。

同居していた親族も、姑の側に立って姉さんを詰った。

そして家事のこと以外に、容姿のことまでも貶められるようになった。髪の色が汚い、意地汚い醜女だと姉さんは吐き掛けられた。姉さんはめったに居ないような美人だったので容姿のことを言われるのが一番辛かったらしい。

それも姑はわかったようで、姉さんは醜女といつも呼ばれるようになった。

この醜女。醜女が。醜女。醜女。醜女。

姑や親族に言われ続けて、姉さんは段々と消耗していった。

姑と親族とばかりの家のなかで、姑の言うことが本当なのではないかという錯覚が姉さんを苛んだ。

そんなある日、鏡を見ていると姉さんは自分の変化に気づいた。肌が荒れていて、赤い出来物がいくつか肌にあらわれていた。姉さんは最初はストレスのせいだと思っていた。

だけれど時間が経つにつれて変化は大きくなっていった。肌がたるみ始め、唇が何度手入れをしてもひび割れるようになった。食べるものは変わらないのに歯は黄ばみ、姉さんは笑うことも、口を開けることも上手くできなくなった。

姑に醜女と言われて、私は幻覚を見ているのではないだろうか。姉さんはそう思い、何度も鏡を見た。だけれど映るのは変わり始めた自分の顔だった。

しばらくして姉はまた鏡を見た。姉は驚き悲鳴をあげた。

目元に皺が入っている。睫毛の長く美しかった瞳は濁った色になり始め、形を崩した。髪は縮れて、艶やかさを無くしていた。

鏡の中にいるのは、美しい女性ではなく見ていられないような醜女だった。まるで、姑が言ったような。

「ふふ...あは、ははははははは」

姉さんは気が狂ったように笑って、窓から飛び降りた。

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幸い下に生け垣があり、姉さんは助かった。入院したあと、家に戻らないまま姉さんは離婚することになった。俺たち家族が事情を聞き、別れてほしいと頼んだのだ。姉さんは衰弱して自分の意思を言えるような状態ではなかった。

夫の家はあっさりと了承した。姉さんがこのような状態になったことで、もう興味がなくなったのかもしれない。

姉さんは実家に戻ってから段々と落ち着いてきている。

だけれど、姉さんは頑なに鏡を見ることを拒んでいる。それは仕方がないだろう。

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だって鏡にはあの姑にそっくりの顔が映っているのだから。

Concrete
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コメントありがとうございます!
嬉しい!語彙が死んでますね

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