中編3
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呼び鈴

これは去年の夏、丁度8月に入った頃の出来事です。その日私は夏風邪をこじらせ、独りベッドで熱と戦っていました。 

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 そんな寝ていたいに日に限って勧誘やら宅配などの来客が続き、私は何度も浅い眠りについては起こされていました。

 夕方ごろに少し熱が下がり、何か食べるものをと台所をごそごそと漁っていると、また階段を上ってくる人の気配を感じました。

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 私の部屋は最上階で、この階には私の部屋しかありません。つまりこの階に来る人間は必ず私の部屋にやってくるのです。

 面倒だなと思いながらも玄関に近付き、誰が来たのか覗き穴からそっと外を伺いました。

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 そこにはゆっくりゆっくり階段を上がってくる一人の男性がいました。私はなんとなくその男性に違和感を感じました。

 理由はその男性が手ぶらだったからです。訪問販売、勧誘、配達、友人や知人でない限りどんな人間も何かしらの荷物を持っているはずなのになと玄関を背にして考えていました。

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 次の瞬間ガチャガチャと外から乱暴にドアノブを回す音が聞こえ、私は小さな悲鳴をあげてしまいました。

その手ぶらの男はインターホンを鳴らさずにいきなりドアを開けようとしてきたのです。

 私は玄関からすぐの台所で恐怖のあまり硬直していました。

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 少しして私は凍りついた体を無理やり動かし、覗き穴を再び覗きました。さっきの男はまだフロアにいましたがこちらには背を向けており、ゆっくりゆっくりと歩き、階段を登っていきました。

私はいなくなってくれたという安心感でしばらく事の重大さに気付けませんでした。

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 そうです。私の部屋は最上階、屋上のない最上階なんです。当然上に上がる階段などありません、しかしその男はさも当然のように上に上がって行ったのです、私の見たことのない階段を使って。

 私はその時愚かにもドアを開けるべきかと考えていました。男の登っていった階段はどこに行く

階段なのか、そして昨日までなかったはずの階段が何故そこにあるのか。恐怖よりも好奇心が私のなかで大きく膨らんでいたのです。

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 私はおもいきってドアを開けて、外を見回しました。しかしそこには上に向かう階段などなく、いつもの見慣れた下り階段があるだけでした。私はふと天井を見上げましたが階段などを設置した跡はありませんでした。  

 なんだかちょっぴり残念に思いながらまた台所で食料を漁っていると、ピンポーンとインターホンの鳴る音がして、私はまた台所で凍りつきました。その音は最上階の私の部屋の上から聞こえてきたのです。私は思わず天井を見上げました、すると聞き取れないくらいの大きさで人間の声が聞こえてきました。もう間違いない、この部屋の上に誰かが住んでいる。よく聞くと足音のようなものや、椅子を引く音など様々な生活音が聞こえてきます。

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 上にいるのはこの世のものじゃない、はっきりと私は確信しました。おそらくあの世とこの世の隙間にあの男達は住んでいるのでしょう。霊達も住む家が欲しいのかなと少し寂しい気持ちになりました。 ですがあの男は何故私の部屋に入ろうとしたのでしょう?

幽霊も部屋を間違えるのでしょうか?それとも人の世界に戻りたかったのか…私を連れて行きたかったのか。今となってはわかりません。私はあの部屋から引っ越してしまいましたから。

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 だってあれから毎日たくさんの人ではないものが無いはずの上の階のインターホンを押し続けるんですもの。声もどんどん増えてとても賑やかになったところで、私の精神も限界になってしまいました。

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 みなさんも気を付けて下さい。自分の部屋の外からインターホンが聞こえたとき、その部屋に人間が住んでいるとは限りませんから。

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@ろいど
読んでいただいてありがとうございます♪伝説はくすぐったいのでやめてください(笑)

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