短編2
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きぬた打つ

-たぬきのきぬた-

小学校の時、回文つくる遊びできぬたは意味不明と先生が却下、

砧って木槌で布をトントコ叩いて反物や着物のシワ伸ばしする、アイロン代わり。

昔から打ち盤と木槌と言っていて砧とは言わなかった。

うちにも納屋の隅にあった。

打ち盤は、クスノキの切り株を輪切りにしたもの、木槌は丸木を輪切りにしたものに柄の部分を彫り出したもの。

火のしやアイロンが普及してからは、打ち盤と木槌は納屋の土間に置いたまま。代々家の女性陣がトントコ叩き込んで打ち盤の断面は、なめらかになっていた。

もう片付けて処分すると祖父が言うと、祖母は猛反対。まだ使えるから置いといて、とのこと。

で、暇あれば、何かをトントコトントコトントコ叩いているの、納屋の戸閉めきって、今日みたいな暑い日でもね。

私が高校卒業して大学全部落ちてめでたく浪人生となった年の立春過ぎた頃のこと、所在なく庭で水仙とか草花見てた。

祖父はいつもの腰切りの着物姿ではなく、作業服着て打ち盤を抱えて家の横の畑に持って行った。パカンパカンと斧で叩き割っている音が聞こえて暫くすると縄で束ねた焚き付け二束、縁側の床の薪の中に放り込む。

「爺ちゃん打ち盤割ったん?」

「おいや、お父ちゃんこれでもの彫る言うてたよって、こんなもんで細工さしたらえらいことになるよって、焚き付けにしてもたんや」

意味わからんけど、なんで?とも聞かなかった。

それから祖父は畑仕事、暫くすると

「おーいターちゃんよ」か細い声、そちらを見ると祖父は転びそうな足取りで植木に掴まりながら歩いてくる。

で、急いで肩につかまらせて、祖父母の部屋まで運び込み祖母に布団敷かせ、医者に連絡、診断は軽い脳溢血、

帰宅した父母にことのあらましを話すと、

母は、

「爺ちゃんあれ割ったんやね」

それで思い出した。幼稚園勤めていた姉が言ってた事を、

仕事終わって帰宅したら、家に誰もいない。納屋の方でトントコ音がするので見に行って納屋の引き戸開けたら、祖母が泣きながら打ち盤の上で何か叩いている。それは誰かの名前が書かれてある紙の人型、怖気がさし血の気も失せた姉はそっと引き戸を閉めて自分の部屋に戻って、暫く震えが止まらなかったそうである。

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