中編3
  • 表示切替
  • 使い方

森から近づく声

毎日毎日まとまった睡眠時間もなく4tトラックで荷物を配送していたある日の実体験。

たぶん7年前ぐらいで、季節は秋口…かな?

時刻は日付が変わってしばらく経ってからだと思います。

埼玉から茨城まで配送に行った復路で筑波山の見える片側二車線の国道だかをナビに沿って走っていた。

それまで順調に運転していたのに急に重めの眠気が襲ってきた

直感で仮眠をとらないとマズいレベルだと察したので適地はないかと思うと対向車線側に眩く輝くコンビニが。

深夜の暗闇に対してあまりにも浮き過ぎている店舗。

何も買わずトイレだけ借りられるほど図太くないのでコーヒーを買いトラックへ。

長々と仮眠していられるような業務内容ではないのでスマホのアラームを10分後にセット。

いくらも倒れない運転席のリクライニングを倒して仮眠についた。

コンビニが眩しいので帽子のツバをグッと下ろす。

余程睡魔が重かったのか…落ちるように……

…………ポソポソ…………

何かの音で目が覚めたのと同時にガッツリ金縛りであることに気づく

(あれ…動けない…)

帽子のせいで瞼の内側から見える視界は暗く腕組みをしたままの格好

………サワ……コソコソ…

金縛りに抵抗しているからから鼓動が徐々に速くなる

その音はまったくなにかわからない

…ヒソヒソ…ヒソヒソ…

何かは聞き分けられないが重みのない軽い音。

次第に少しずつ少しずつ大きくなっている

…ゴニョゴニョ…ヒソヒソ…

(声だ…) (人の声だ) 私は察した

しかも大きくなっているのではない

遥か左後ろから少しずつ近づいている

時間を掛けて…ゆっくりとその声は近づいてくる

後方には筑波山の入り口とも言える森の壁がある。

だんだんとハッキリと聞こえてくる声が確実に近づいてくる…

心臓の連鼓で痛みを感じだした

金縛り特有の地鳴りのような音も響き渡っている

ゴニョゴニョヒソヒソブツブツ

気づけばその声はついに左の耳元にまで近づいてきて途切れる事なく何かを囁き続けている

男女の区別はおろか日本語か外国語かすら分からない声は左耳の真横で何かを囁いている

私は何も出来ずただただ硬直している

それ以外何もできない

ついにその声は耳元までくると頭の中で響きわたりだしたっ

ひたすらに呪文の如く囁き続ける

念仏とは違う、重みのない囁き

でも声の識別は何一つつかない

頭全体で確かに声が響いているのに母音の区別すらつかない

響けば響くほど鼓動も共鳴する 苦しいっ

抵抗すらできずもがいているとやがてその声は頭から助手席側に

声が微かに小さくなる 。

そぅ離れていく…下がっていく

しかし未だ鼓動は速く奥歯に力がはいりっぱなし

確実にゆっくりと距離をとる声

深い木々のある方向へと下がる声

やがて火種が無くなり燃え尽きるかのようにその声はフッと消えた

安堵と同時に金縛りが解けている事に気付いた

冷や汗だか脂汗だか出てている

小一時間?…それぐらい襲われていただろうか…

長くただ怖かった…

脱力しきった右手で帽子のツバを上げるとコンビニから溢れる明かりが眩しすぎて目が細まる

スマホを手に取りゆっくりと画面を開くとアラームはまだ7分しか経っていなかった…

瞳孔の反応から結構な時間、目を瞑っていたはずなのに…

僅かな放心状態をも許さないかの如く現実を直視してすぐさまエンジンをかけ、何一つ理解できぬまま運転を再開した。

突然過ぎる睡魔、丁度あったコンビニ、筑波山に続く森、何かの声…

何がしたかったのか…

実体験なのでオチはありません。

私の数ある体験の一つです。

Concrete
コメント怖い
1
7
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信