短編2
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温みを盗られる

とある友人に聞いた話。

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友人は、大変寒がりな男だった。夏でも長袖を着ていたし、冬になればまるで雪男のように着ぶくれていた。

中高生時代の制服はどうしたのかと訊くと、日光アレルギーと嘘をついて長袖を通したらしい。

「なにかの病気じゃないのか」

心配して尋ねると、声を潜めて教えてくれた。

「実はこれな、家で飼ってるトカゲのせいなんだ」

「はぁ?」

友人の家では昔から、「ヒョウ」と名付けたトカゲを飼っているそうだ。大きさは二十センチほどというから、なかなか大きい。青みがかった灰色をした、きれいなトカゲらしい。

このトカゲは不思議なトカゲで、友人が言うには、時々口から氷の塊をポロリと吐き出すらしい。体温も、変温動物とはいえとても低い。まるで冷水に触れているようだという。

友人はまだ幼稚園に通っていたある日、ぼんやりと水槽の中のトカゲを眺めていた。するとトカゲはのんきそうにあくびをした拍子に、またポロリと、朝顔の種ほどの大きさの氷を吐き出した。

「ヒョウ、寒くないの? お腹に氷があって」

友人がそう訊くと、トカゲはまるで言葉を理解したかのようにじっと彼の顔を見つめた。そして、

「じゃあ、お前の温みをすこしくれよ」

と、旧来の友のように気安く言った。

その気安さにつられて、というよりは、よく意味を理解しないまま、友人は「うん、いいよ」と了承してしまった。

トカゲは、満足そうに頷いていたという。

次の朝、初夏だというのに友人は寒くて目を覚ました。

「あら、今日のお熱は低いわね」

登園前の検温で、母親は体温計を見ながら呟いていたという。

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「なんだって、そんなものまだ飼ってるんだ」

呆れて言うと、友人は「だって」と口を尖らせた。

「かわいいんだぞ。ひょうきん者で、俺になついてる」

「トカゲって、なつくのか」

「もう何十年と一緒だからな。当然だ」

果たしてトカゲとは、何十年も生きるものなのだろうか。

そもそもそれがトカゲかどうかも疑問に思ったが、当の友人は

「厚着すればいいんだから、平気だ」

と、涼しい顔で言った。

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