中編4
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勘弁してよー

 僕は、タクシーに乗る時、いつも運転手さんに、

「今まで、何か怖い思いしたことある?」って聞くことにしている。大抵の運転手は、

「高速で、前を走るトレーラーが、急に蛇行し始めて、あんときゃ死ぬかと思った」とか、

「お客さんを送った帰り、居眠りして、崖から海に落ちそうになった」とか、

はっきり言ってどうでもいい話(運転手さんごめんなさい)が多い。でも中には、狙い通り?の話に出会えることもあり、その内の一つを、ここで紹介しようと思う。

 夜10時ごろ、某駅で客待ちをしていた田中さん(仮名ってか名前知らない)は、蒸し暑かったので窓を全開にして、シートを倒して半分寝ていた。

 そこに、一人の若い女が声を掛けてきたという。

「○○まで行ってもらえます?」

○○といやあ、こっから60キロはある。

(やったーもうかったー)

 Aさんは大喜びで彼女を乗せ、出発した。

 ○○までには1時間はかかる。Aさんは、後ろに乗っている茶髪の女に声をかけようとバックミラーを覗いた。

 女はひどく疲れているようで、眠っているようだ。

(水商売も大変だな)

 Aさんはその女をかってに飲み屋のホステスだと決めつけていた。

 ひと山越えれば、目的地に着くが、この峠が結構きつい。蛇行蛇行の連続で、一瞬でも油断したら、ガードレールにぶち当たる。

 Aさんは注意深く運転していたが、前からも後ろからも、車の近付く気配はなく、少し緊張感が緩んできた。

 そして、峠を越え下り坂にさしかかった時、突然バックミラーが眩しく光った。後ろから猛スピードで車が近付いてくる。ハイビームにしたダンプのようだった。

(ぶつかる!)

Aさんは、スピードをぐんぐん上げた。

(後ろからあんなダンプ来てたか?)そんな疑いも、ダンプが真後ろに張り付いた瞬間消し飛んだ。

(殺される!!)

「後ろの・・・・じゃないから・・・」

後ろに座っている女が、何かつぶやいた。

「え?なんです?」

「後ろの車、この世のものじゃないから、気にしなくていいよ」

「・・・・」

(なんだ?今、なんて言った?)

Aさんは、怖くて聞き返すことが出来ない。

 ふと、気付くと、後ろの車は影も形も無くなっていた。

(えー?まじかよー)

後ろの女が目に入らないように、バックミラーを大きくずらす。

(頼むから、たのむからー早く着いてくれー)

 町の灯りが見え隠れし始めた時、自分がちゃんとこの世界にいるんだ、ということを実感して、少し泣きそうになる。

「そこのバス停の所でいいから」

 Aさんは、飛び上がるほど驚いた。たぶんもう、後ろには女はいないと思っていたのだ。

 おそるおそる後ろを振り向くと、女は普通に座っていた。でも、やっぱり怖い。

「一万5000になります。端数はサービス・・」

 女は静かに助手席に一万円札を2枚置くと、車から出て行った。

「お客さん、お釣り」なんて、とても言えない。ドアを閉めると闇雲に車を走らせた。

(あの辺り、家一軒もないじゃんかよー)

 日が経つと、恐怖はだんだん薄れるものらしい。

 Aさんは(あれ、やっぱり人間だったんじゃあ)と思うようになっていた。(幽霊というには、あまりにもリアルつうか、どう考えても人間だし)

 夜は毎日、女を乗せた駅に張り付いた。10日経っても、20日経っても、女は姿を現さない。

 Aさんは、意を決して、女を下ろした場所に行ってみることにした。夜になったら嫌だから、休日、朝早くに自分の車で出発した。

 降ろした場所はすぐに分かった。確かにその周辺に家はない・・・

 ふと見ると、バス停の横に、細い小道がある。

 Aさんは車を降りて、竹林の中に消えていく小道を歩き出した。

(この先が墓場だったら、しゃれにならんなあ・・・)

竹林を抜けると・・

そこには立派なお屋敷があった。(もうここまで来たんだから)

Aさんはブザーを押した。

 中から出て来たのは、品の良さそうなおばさんだった。

「つかぬ事お聞きしますが、お宅に茶髪のお嬢さんいます?」

 おばさんは怪訝そうな顔をして、言下に

「そのようなものは、家にはおりません!」と言い、ドアを閉めようとしたが、みるみるその表情が柔らかくなり、

「あなた、もしかしてタクシーの運転手さん?」と聞き返してきた。

「そうですけど・・・」

「まあ、あがってお茶でも飲んでって」

(・・・・)

Aさんは訳も分らず、おばさんの後に続いた。

「実はねえ、あなたのこと、聞いてたのよ」

「・・・」

「結○瞳さんって知ってる?」

「・・・」

「この頃、よく金縛りに遭うから来てもらったんだけど」

「・・・・」

「ここに来る途中、タクシーがダンプに追いかけられたんだってねえ」

「・・・!」

「結○さん、そのダンプの運転手見て、ちょっと驚いたんですって」

「首が完全に折れてて、顔を真横にしてたって」

「それで、事故られたら大変だから、ぶつかって来たって大したことないよ、と運転手さんに伝えようとしたんだけど、なんか、その運転手パニクってて」

「あーこの人、私のこと絶対お化けだと思ってるーて可笑しくって」

「ずーと、お化けの振りしてたんだけど」

Aさんは、霊能者とかいう人間が、大嫌いだったから、大変腹を立てて、その家を後にしたそうな。

 今は、彼女のファンらしいけど。

 

怖い話投稿:ホラーテラー ホラーハンターさん  

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