短編3
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行きつけの美容室のオーナー先生から聞いた話である。

常連のお客様に、ある女性がいた。

既婚者で小学生の息子さんもいたが、

髪の手入れや自身の美を保つことにとても熱心なきれいな女性だったそうである。

年齢は30代後半。

年齢が作る艶やかな色気が彼女を彩る。

男性の目を引く彼女は、ある飲み屋で男と知り合い、そのまま深い関係になったそうである。

ありきたりな表現を使えば、平凡な生活に降ってわいたような刺激的な出来事とでもいおうか。

彼女はどんどん男にのめりこんでいった。

その男は、裏の職業についている人だった。

心だけの刺激で終わるわけもなく、男はさらに彼女を刺激的な世界へ誘った。

男はたっぷりと女性に毒薬を注ぎ込む。

毒は彼女を侵食し、彼女は毒と男に溺れていく。

女性の心と身体が腐り始めた。甘やかな毒と男が女性を食い尽くす。

やがて、女性の体は腐臭を放ちはじめ、

腐臭に混ざった毒薬は、女性の家庭を壊していった。

夫は仕事に行けなくなった。

息子は部屋から出てこなくなった。

置き去りにされた夫と息子は朽ち果てた家の中でひっそりと腐っていった。

「金ならいくらでもある。贅沢をさせてやるから」

男は女性にそう言った。

女性はその言葉を信じた。

「俺と一緒になろう。家を出ろよ」

言われるまま、女性は家庭を捨てて男と一緒になった。

金のメッキはすぐにはがれた。

男の言っていることはすべて嘘だった。

何軒か持っている店は借金だらけだった。

はがれたメッキを補修するように、男は女性に毒を注ぎ込んだ。

女性は毒と知りながらそれに歓喜して溺れていく。

二人でからみあっていれば、虚構の中にいることができる。

だが、そんな生活はやがて終わりになる。

男が金を調達できなくなった。

薬どころか食べるものさえことかく生活になった。

男と関係をもつようになってから、女性は美容室へ来なくなっていたが、

突然、店に女性がきた。

要件はただひとつ、

「お金を貸してもらえないか」

だった。

先生が彼女の顔を見る。

あんなにきれいだった女性の顔は毒薬に食い尽くされ見る影もなく、

両頬にへびのうろこのようなものができていたのだという。

「へびのうろこがさ、両頬にびっしりとついてたんだよ。

これは本当なんだよ」

先生が私に話す。

うろこのようなものではなく、うろこそのものだったそうだ。

両頬の皮膚がうろこに変わっていたのだった。

「お金は貸せないよ」

先生が答える

「いくらでもいいんです。1万円でも・・・」

すがる女性に、店から出ていくよう、やんわりと言った。

「あれは薬の影響なのかな。きれいだった彼女の顔はカサカサになっていてさ

顔がへびのようになっていたんだよ」

真剣な顔をして先生が私に言う。

「人を不幸にして欲に溺れたむくいだと思うよ」

その後、その女性がどうなったのか先生も知らないと言っていた。

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