短編2
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居るよ

あっ、どうも。晴瀬将矢(はるせ・しょうや)って言います。

家の中がどうにもおかしな事になっていますが、御構い無しに過ごしていた際の話でも致しましょうか。

*********************

年末年始に休みの取れる我々含めて、例年の御楽しみの一つであるクリスマスと言うか、正確には多くがクリスマスイヴに連れ合いか仲良くしている相手の待つ場所に、予約したり即日購入に間に合ったクリスマスケーキや、鶏肉を主役とした惣菜なんぞを片手に持って行く事が、或る意味出来て当たり前な事に特段何の疑いも持たず、私はその日も家族へのクリスマスケーキや、唐揚げの豪華版を中心としたオードブル、自分の好きな海老のチリソースの若干安いパックも忍ばせて、家路に就いていた。

いつも通りに帰宅して、勝手にガチャガチャやると嫌がられるのを思い出してインターフォンを押す。

「ピンポーン」と電子音のチャイムを押して、音が聞こえたのを確認すると「帰ったよー」と私は呼び掛ける。

ガチャリと扉が開いて「わっ」と子どもが驚く。驚く事でも無いだろう。親がクリスマスケーキや惣菜を買って来て、玄関に立っているのだから。

ゆっくりとクリスマスケーキと惣菜の入ったビニールの手提げ袋を私の指から外すと、奥の居間へと我が子が走って行く。

炬燵(コタツ)で寝ていたらしい妻が寝呆け眼で起き上がり「えっ」と我が子の持つビニールの手提げ袋を見て、目を丸くして、急に起き上がり壁へと後ずさりし怯えている。

「………?」

訳の分からなくなった私は、いつもの癖で洗面所に立って手洗いとうがいをしようとする。

蛇口を捻(ひね)ろうと手を伸ばした際、鏡を見てハっとした。

視線は有る。視線は有るのだけど………有るのだけど、有るのだけど、有るのだけど、有るのだけど、有るのだけど。

私自身の姿が無い。一瞬、姿を捉えたが、再び消えた。

「えっ………透明人間にでもなったの?」

バっと、居間に駆け込んだ私は凍り付く。

涙が溢れて来た。

隅っこに、位牌と私の写真………灰の壺と灰が焼け落ちて、ちびたままの線香が立てられている。

Concrete
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