24年03月怖話アワード受賞作品
長編14
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パラレルワールド

クリアファイルに必要な書類を挟み込むと、トイレへと向かった。

昨日、深夜まで掛かって仕上げた企画書に対し、今朝になって突然クライアントが条件の変更を申し入れてきたのだ。

まあ、イベント会社に勤めているとままある事なのだが、やはりため息が出る。

クライアントの我儘を柔軟に受け止めるのも仕事の内だとあきらめて、早急に企画を練り直すことにした。

考えが煮詰まった時や落ち着きたい時には、こうやって静かなトイレの、それも一番奥の個室に籠る。

俺のいつもの習慣だ。

電話も掛かってこなければ、話し掛けてくる上司や同僚もいない。

他人からはどう見えるのか知らないが、決して仕事をさぼっているわけではないのだ。

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◇◇◇◇

それは便器の蓋の上に座り、元の企画書で修正が必要な箇所にペンを走らせていた時だった。

突然トイレの照明が消え、周囲が真っ暗になった。

(お?停電か?)

そう思った次の瞬間、いきなり体全体が落下するような感覚に襲われた。

内臓が浮き上がってくるような感覚。

エレベーターよりも強く、ジェットコースターに近いか。

何かに掴まらなきゃ、本能的にそう思い手を持ち上げたところでその感覚は収まった。

その間、五秒か、十秒か、とにかくあっという間の出来事だった。

ほっと溜息を吐いたが、照明は消えたまま。

いったい何が起こったのだろうか。

手で持っていた書類を手探りでクリアファイルに戻すと個室から出た。

このトイレに窓はなく、辺りは真っ暗なのだが、何か違和感がある。

スマホを取り出しライトを点けた。

「え?何だ、これ。」

スマホのライトの照らし出された個室の外は、まるで廃墟のようだった。

壊れかかった他の個室の扉や壁、割れた鏡、そして足元はじゃりじゃりと砂埃が積もっている。

先程の落下するような感覚は、相当に大きな地震だったのだろうか。

しかしあんな短時間でここまで破壊されるとは。

しかし周辺が壊れるような音はしなかったと思う。

混乱しながら慌てて建付けの悪くなっているドアをこじ開けてトイレから廊下へ出た。

廊下も似たようなものだ。

トイレの中と違い、窓から光が差し込んでいる為に明るいのだが、それだけに建物の荒れ具合がはっきりと分かる。

そのまま廊下を横切り、オフィスの中に駆け込んで唖然とした。

整然と並んでいたはずの机や椅子が散乱し、廃ビルの風景そのものだ。

一体何が起こったのだろう。三十分前までは大勢の同僚達が忙しく働いていたのに、その同僚達の姿は何処にもない。

とにかく視界に誰の姿もないのだ。

この建物だけなのだろうか。

誰かに連絡をしてみようとポケットから再びスマホを取り出した。

しかし表示は”圏外”になっており、Wi-Fiも繋がっていない。

ここだけではないのか。

窓へと駆け寄って外を見た。

大通りに面したこの四階の窓からは、いつもなら通りを行き交う大勢の人や、車やバスが道路に連なっているのが見えていた。

しかし、通りに車は一台も走っておらず、歩道にも人影がない。

それだけではない。街全体が廃墟と化しているのだ。

道路や建物自体は記憶にある通りなのだが、ビルの窓ガラスは割れ、道路や歩道には所々亀裂が入り、その割れ目には雑草が生えている。

大きな地震でみんな非難したにしては、ひと気がなさすぎるし、道路の亀裂に生えた雑草からすると一瞬の出来事とは思えない。

「桜木さん!」

窓際に立ち尽くしていた背後から突然声が聞こえた。

振り返ると、総務課の栗田朋美だった。

泣きそうな顔で駆け寄ってきた彼女は、俺の袖を掴んだ。

「ねえ、何が起こったの?みんなどこへ行っちゃったの?」

それは俺が聞きたい。

「わからない。トイレに入っていたら突然こんな状態に変わってしまったんだ。」

「私も同じ。突然、高いところから落ちるような感じがして、電気が消えたから慌てて飛び出したらこの有様だったの。」

「同じだ。」

大きな地震が起こっただけならまだ解かる。

俺達ふたり以外の人間が誰もいなくなってしまうなどということが有り得るのか。

とにかく何が起こったのかが理解できなければ対処のしようがない。

「そうだ、一階のロビーへ行こう。」

「ロビー?」

「ああ、ロビーにはその日の新聞が置いてあるだろう?こうなった日の新聞があるはずだ。」

当然エレベーターは動かない為、照明の消えた暗い階段を一階まで降りた。

そして荒れたロビーの隅にある新聞ラックから新聞を手に取ると、その一面を見てふたりは絶句した。

「何だ、これ?」「何よ、これ。」

日本語ではなかった。

いや、ふたりの知識をもってしても、知り得るどの言語とも異なっており、何が書いてあるのかさっぱりわからない。

大きく載っている写真には、大勢の人が列をなしてどこかへ移動している姿が写っている。

何が起こっているのか全く理解も想像も追いつかない。

そこにあった埃だらけのソファに腰を下ろすと頭を抱えてしまった。

「桜木さん?」

その様子を見て不安そうに栗田朋美が声を掛けてきた。

「何が起こっているのか分からないけど、この新聞からいくつかのことが判るわね。」

「いくつかのこと?」

「ええ、まず、ここは私達がいた場所とそっくりだけど、違う場所だということ。」

今のこのビルの様子からしても、新聞に書かれている言語が違うことからしても、まったく同じ場所だと考える方に無理がある。

「そして、ここにいた人達は、存在しなくなったのではなく、何らかの理由でどこかへ移動したということ。」

新聞の写真からするとその通りだろう。

「そして、この世界の暦が私達と同じであるなら、この大移動は昨日の出来事ということになるわ。」

確かに新聞の日付はそうなっている。

「しかし、四階の様子や窓の外の風景、そしてこのロビーの様子も記憶と異なるところは全くない。本当に違う場所なのかな。」

俺の言葉に栗田朋美は首を傾げるだけだ。

「もう一度、四階へ戻ろう。」

「戻ってどうするの?」

「俺達のデスクを確認する。ここが俺達のいた場所と違うことをちゃんと確認したい。」

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********

「なあ、栗田さんは異変が起こった時、トイレの何処にいた?」

四階へ移動する階段の途中で俺は気になっていたことを確認した。

「一番奥の個室に入ってメールを打っていたわ。あ、でもサボっていたわけじゃないのよ。同僚の結婚式の二次会の予約をしていたの。」

就業時間中に仕事以外の事をしていれば、それはサボっていたと言うんだと思ったが、そんなことはどうでもいい。

「俺も一番奥の個室で、書類に目を通していた。考えてごらん。あのトイレのレイアウトからすると、俺達は壁一枚挟んですぐ隣にいたんだ。」

この建物のトイレは、外壁に沿うように細長く作られており、男女の入り口はお互いに離れたところにあるため、それぞれの一番奥は壁一枚隔てただけの位置になるのだ。

「私と桜木さんがいた、その狭い空間にだけ何かが起こった?」

「そういうことにならないか?」

「うん。そうとしか考えられないわね。」

そして四階に戻り、それぞれ自分のデスクを確認すると、荒れてはいたものの、それは自分の使っていた状態とまったく同じだった。

引出しには、忘年会の時に会社の同僚達と写した写真も入っており、そこには栗田朋美も写っている。

どう考えても俺のいた世界に間違いはなさそうなのだが。

栗田朋美の机も同じだった。そこには彼女の愛犬の写真も飾ってあった。

「間違いないわ。ピコの写真まであるんだもん。ここは私の机よ。」

涙を浮かべてそう主張するのだが、机の上の書類、そして机横のパーティションに掲げられたネームプレートも見たことがない文字なのだ。

「とにかく少し落ち着こう。そうだ、たぶんあそこにいいものがある。」

思いついたのは、ロッカー室の奥にある防災用の戸棚だ。

その中にいろいろな防災用品と共に非常用の食料と水がある。

キャビネを開け、水二本と乾パンの缶、そしてスティック状のチョコバー数本を手に取ると、事務所の隅にある休憩用の椅子に腰を下ろした。

「取り敢えず、少し腹ごしらえだ。」

愛犬の写真が寂しさと不安をかき立てたのだろう、栗田朋美はまだ鼻をぐずぐずいわせながらも、水に口をつけた。

「なあ、栗田さんはパラレルワールドって聞いた事がある?」

「ええ、住んでいる世界と並行して、いろんな似たような世界が存在しているって。ホントかどうか知らないけど。」

「理由は分からないけど、俺達は何かの拍子でその並行世界へ移っちゃったんじゃないかと思うんだ。」

栗田朋美は何か言いたそうな顔で俺の顔を見つめたが、何も言わなかった。

おそらく、そうじゃない、そんなはずはないと言いたい、思いたいのだろうが、それ以外に説明を思いつかなかったのだろう。

そしてしばらく押し黙った後、何かを考えながらゆっくりと口を開いた。

「もしそうだとしたら、あのトイレの一部の空間だけが別世界へ飛ばされたって事よね。」

「他に飛ばされた人間がいないようだから、そうとしか考えられないね。」

「四階だけだったのかしら。もし地磁気の影響とかだったら、他の階のまったく同じ場所で起こってもおかしくないんじゃない?」

その推測には一理あるような気がする。確かに四階だけと決めつける理由はない。

「他の階も見てこようか。」

一階はまるっきりレイアウトが違うし、先ほど誰もいないことを確認している。

俺達は二階から順に、この建物の最上階である八階まで確認してみることにした。

防災用品から懐中電灯を持ち出し、二階のトイレの前まで来ると俺は女子トイレを指差した。

「じゃあ、栗田さんは女子トイレを見てきて。俺は男子トイレを見てくる。」

「え、嫌よ。一緒に行動しましょ。もし桜木さんに何かあったら本当にひとりぼっちになっちゃう。」

誰もいないと思ってもやはり女子トイレに入るのは気が引けるが、彼女の言うことももっともだ。

「わかった。じゃあ、一緒に見て回ろう。」

二階のトイレもほぼ四階と同じように荒れており、そして案の定誰もいなかった。

事務所のエリアに声だけ掛けて誰もいないことを確認すると、すぐに上の階へと階段を上る。

三階も同じような状況だ。

そして四階のトイレを飛ばして、五階のトイレまで来た。

「ねえ、桜木さん、二階からずっとそうだったんだけど、この一番奥の個室だけ、妙に綺麗よね。」

そう、俺もそれは感じていた。

荒れ果てたトイレの中で、男女共に一番奥の個室部分だけ荒れていない、元の状態のままなのだ。

「やはり、栗田さんの言った通り、別世界へ移動してしまったこの空間は縦につながっていたんだね。」

「そうね。でも結局あの瞬間に、一番奥の個室に入っていたのは、全部の階の中で桜木さんと私だけってことなんですかね。」

「そうかもね、とにかく残りのフロアも見てこよう。」

「でも、桜木さんで良かった。もしこの世界に一緒に飛ばされたのが、性悪部長だったらと思うとぞっとするわ。」

「あのな、部長はあれでいい人なんだぞ。そう毛嫌いするなよ。」

そして六階のトイレ。

男子トイレは誰も居らず、これまでと特に変わったところはなかった。

しかし女子トイレは違っていた。

一番奥の個室に鍵が掛かっていたのだ。

「誰か入っていますか?」

栗田朋美がドアをノックしたが、何の反応も返ってこない。

しかしこのまま立ち去る訳にはいかない。

鍵が掛かっているということは、あの瞬間に誰かが中におり、そしてその後もここから出ていないということだ。

ひょっとするとあの落下感で気を失うか、怪我をしているのかもしれない。

「栗田さん、ちょっと下がっていて。」

栗田朋美を一歩後ろに下げると、思い切りドアのロック辺りに蹴りを入れた。

簡易的な錠は簡単に吹き飛び、バンと音を立ててドアが開く。

「ぎゃーっ!!」

栗田朋美の口から、ビル全体に響き渡ったのではないかと思われるような物凄い悲鳴があがった。

懐中電灯で照らされた目の前の個室の中には信じられない光景があった。

便座に女性が腰掛けている。

しかし女性の上体は斜めに傾き、男子トイレとは反対側の、隣の個室との仕切りの壁に埋まっていたのだ。

右肩から左の脇腹にかけて完全に壁の中に埋まっている。

用を足していた最中だったのだろう、下着は膝まで下ろされたままの状態だ。

慌てて隣の個室を覗いたが、そちらには何もない。壁にめり込んでいる部分は消えてなくなっているのだ。

「鈴木さん・・・」

「鈴木?営業の鈴木さん?」

顔は分からないが、着ている服と手に持っている財布とスマホからすると間違いないと栗田朋美は言った。

念のために個室へ入り、恐る恐るその手に触れてみたが氷のように冷たかった。

頭部がこの世界に無いのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

あの感覚に襲われた時、彼女は思わず隣の個室側へ身を寄せてしまったのだろう。

もし、男子トイレ側の壁に身を寄せていれば、こんなことにはならなかったのに。

「鈴木さんの頭は元の世界へ残っちゃったってこと?」

栗田朋美が声を震わせながらそう尋ねてきたが、おそらくそうではないと思う。

おそらく壁に近いところにその境界があり、この世界へ移動している最中に彼女の上体だけがその境界を越えていた為、どこか別なところに飛ばされたのではないだろうか。

「私達もあの瞬間に体の振り方を間違えていたら、こうなっていたってことね。」

考えるに恐ろしい。

そうなる事などかけらも知らなかったのだから、無事だったのは運が良かったとしか言いようがない。

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*********

嫌がる栗田朋美をなだめながら、七階、そして八階も確認したが、そこに人の姿はなかった。

「う、う、う、・・・・」

栗田朋美は六階であの鈴木さんの無残な姿を見て以後、泣いているような小さな唸り声を上げながら俺の腕にすがりついたままだ。

彼女の精神はもう極限状態なのだろう。

「ちょっと屋上へ出て、外の空気を吸おう。」

八階から屋上への階段を上り、鉄製の扉を開けて外に出た。

この辺りでは一番高い建物であり、周囲の様子がよく見え、遠くには海も見えている。

こうやって見ると、何も変わったところはなく、普段通りではないかと思ってしまうような、穏やかな風景だ。

「大丈夫。栗田さんはひとりじゃないんだから。」

何が大丈夫なのか俺にも分からない。

ただ、彼女が、彼女の精神が破綻してしまわないように、俺はそう呟いた。

そしてポケットから、先ほど防災用品の中にあったチョコのスナックバーを取り出し彼女に渡した。

「これでも食べて、少し落ち着きな。」

「うん」

素直にチョコバーを咥えた彼女が、突然海の方向を指差した。

「さ、桜木さん、あれ、あれ、あれ、何?」

ここから見える海は湾になっており、海の向こうには山も見えている。

いや、見えていたはずだった。

その水平線、地平線の辺りが黒い帯になっているのだ。そしてその帯の向こうはまるで夜のように真っ黒で何も見えない。

こうして見ていると、その黒い帯がどんどん幅を広げながら近づいてくるではないか。

何だ、これは。

このまま、あの黒い帯に飲み込まれるのか?

俺の頭の中を、昔見たネバーエンディングストーリーという映画の”無”という存在が過った。

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パラレルワールドというのは、細い糸のような世界が絡み合い、太いロープのようになって時間軸を進んで行く。

しかしそのロープには所々にほつれたように短く細い糸が出ているという。

そのほつれた糸の世界は、そこで消えてしまうのだ。

俺達が迷い込んだのは、このほつれた糸のような世界だったということか。

ひょっとするとこの世界の人達は何らかの方法でそれを知り、逃げ出したのではないか。

でもいったいどこへ逃げたというのだ。

このままでは、この世界と一緒に俺達も消えてしまう。

もうこれまでか・・・

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その時、ある考えが閃いた。

この世界への扉が開いたあの場所にいれば、この世界が消える瞬間に元へ戻れるのではないか。

見ると闇の線はもう海岸線の辺りまで近づいてきている。

俺は栗田朋美の腕を掴むと一目散に駆け出した。

「い、痛いわ。ど、どこへ行くの?」

ゆっくりと説明している暇はない。あの消去線はどんどん近づいてきているのだ。

間に合うか…

八階でも良いかと思ったが、だめだったでは済まない。

俺は転びそうになりながら、栗田朋美を抱えるように四階まで駆け降り、男子トイレに飛び込んだ。

そして一番奥の個室に駆け込むと、女子トイレとの境界の壁に背中をつけ、力一杯栗田朋美を抱きしめた。

「さ、桜木さん、どうしたの?」

「帰るんだよ!元の世界に!さもなければ、一緒に消えよう。」

「ど、どういうこと?」

その途端、あのジェットコースターのような感覚が襲ってきた。

「きゃ~っ!」

俺は悲鳴をあげる栗田朋美を固く抱きしめて目を瞑った。

戻るのか?

消えるのか?

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**********

落下するような感覚が収まり、顔を上げるとトイレの中は明るかった。

腕の中で栗田朋美も顔を上げてキョロキョロしている。

「戻ったの?」

「わからん。」

恐る恐る個室のドアを開けて外を見ると、男性がひとり、小便器に向かって用を足していた。

「部長?」

それは、栗田朋美が毛嫌いしていた部長だった。

「おう、桜木か。今、女の子の声がしたような気がしたが、お前、トイレで変なことしてたんじゃないだろうな。」

「いや、何言ってるんですか、そんなことするわけないじゃないですか。」

俺は慌てて中にいる栗田朋美に背を向けたまま、手でそこに居ろと合図をすると後ろ手で扉を閉めた。

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***********

何とか人目を忍んで栗田朋美を男子トイレから連れ出すと、改めてオフィスの休憩用の椅子に腰を下ろした。

俺達はトイレに籠ったあの時間に戻ってきていた。

「帰ってこられたのね。私達。」

同僚達が働く明るいオフィスを眺めながら、栗田朋美がそう言って安堵のため息を吐いた。

「ありがとう。連れて帰ってきてくれて。」

「運が良かっただけだな。帰ってこられる確証なんかカケラもなかった。」

実際、なぜ元の場所に、そして元の時間に戻ってこられたのか皆目解らないのだ。

「こうやっていつもと変わらないオフィスにいると、何だか短い夢を見ていたような気になっちゃう。」

「そうだな。」

何か飲み物でも買ってこようかと、ポケットに手を突っ込むと何かが手に触れた。

それは、あの奇妙な文字が書かれた非常食のチョコバー。

俺はポケットからそれを取り出し、彼女の目の前に置いた。

「やっぱり夢ではなかったようだね。」

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********

そして、その翌日、五階にいる営業の鈴木さんが昨日トイレに行ったまま行方不明になったことを聞かされた。

「私、あの時の鈴木さんの姿が脳裏に焼き付いて。一生トラウマになりそう。」

穏やかな日差しの下、昼休みに屋上で缶コーヒーを飲んでいると、栗田朋美が現れて悲しそうな顔でそう言った。

「ああ、俺もだ。忘れろって言われても無理だな。」

そしてそのまま黙って外の景色を眺めていた。

温かい太陽の光が、あれは夢だったのだと諭してくれているような気がする。

「へっ?桜木さん…あれ…」

栗田朋美が突然素っ頓狂な声を上げた。

なんと指差す地平線には、昨日と同じ黒い帯が見えているではないか。

「な、な、なんで?」

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戻ってきた元の世界は《メインストリーム》だと勝手に思い込んでいたが、そんな保証はどこにもないのだ。

この世界も《ほつれ》だった。

このままでは消えてしまう。

俺は再び栗田朋美の腕を掴んで走り出した。

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四階のトイレへ。

しかし元の世界であるここから、俺達は何処へ飛ばされるのだろうか…

そこは間違いなく、俺達にとって異世界。

このまま消えてしまった方が幸せかもしれない。

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どうする?どうなる?

◇◇◇ FIN

Concrete
コメント怖い
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ハリウッド映画とかにありそうですね
続編で世界の秘密が明らかになったりして、、、

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