中編3
  • 表示切替
  • 使い方

きっかけは些細なこと

とあるアパートに住んでいた頃の話。

私は普段節約を心がけており、電気は使うときだけ付けたり、湯船は貯めずシャワーだけで済ませたり、日用品も百均で購入していました。

別に貧乏というわけでは無く、一人暮らしする上でお金に困ることはありませんでしたが、何となく節約することで無駄が無くなるのが気分的に良かったんだと思います。

ある日の夜、残業したこともあって普段ならもう寝ていた時間になっていました。仕事の疲れに落ちこみながらもいつものようにシャワーと晩ごはんを済ませて、あとはゆっくり過ごすだけでした。

私は読書しようとデスクライトを付け、代わりに部屋の電気を消しに行きました。

パチっとスイッチを切り替えて振り向くと、妙なことに気づいたのです。

まず、何か影のようなものが見えていました。

部屋の光源はデスクライトだけでしたが、部屋のカーテンの手前に深い影のようなものがはっきりと見えていました。その大きさは子供くらいでした。

それと、耳を澄ませてみると壁を引っ掻くような音が聞こえるのです。もしくは、何かをノコギリで切っているような音でしょうか。

私は、初めて体験する出来事に焦りながら、何だか良く分からないけどすぐに逃げたほうが良いと判断し携帯を持って寝間着のまま部屋を飛び出しました。

アパートを出たあと、近くに住む友達の家に向かいました。変なことが起きて不安だから泊めて欲しいとメッセージを送り、返答も待たずに足早に夜道を駆けました。友達の家までは歩けば20分で着く距離、私は進む間にこれからどうしようあの部屋に何があるのかと気になって仕方なく得体のしれない恐怖に不安ばかりが心の中を満たしつつあることを実感してまた足を早めていました。

友達の家につく頃にはほぼ全力疾走で、途中からは恐怖のせいか何かに追われている妄想が消えず何度も叫びだしそうになりながらもやっとの思いでたどり着きすぐ玄関のチャイムを鳴らしました。

すると、それから数秒で玄関が開き、友達が真剣な眼差しで私を心配しながら出迎えてくれました。

どうやら私が走っている間に何度も電話を掛けていたようで、電話に出ないならすぐ反応できるようにと玄関の前で待っていたそうです。

私は事情について話したかったのですが、友達も一人暮らしをしていたので、あまり変なことは話せないとその時になってから気付きました。結局その日は後日ちゃんと話させて欲しいと約束し、ついでにわがままを言ってベッドで一緒に寝させてもらいました。

その日、私は夢を見ました。

部屋の中に私はいました。家具などが違いましたが、おそらく現在私が住んでるアパートと同じ部屋だと思います。私は、音が聞こえたのでそちらに向かいました。場所は風呂場で、中を覗くと寝ている子供の横に座って男の人が何かをノコギリで切っているようでした。床のタイルは赤く染まっていて、それを見た私は、ああそうかと納得したような気になりました。

朝起きてから、私は会社にしばらく休む連絡を入れ、友達には怖い映画を見て不安になったと嘘をついて自分の部屋に帰りました。

それからしばらく、私は夜更しをして気付いたことがあります。普段ならもう寝ている時間、どうやら部屋に現れたあの影も音も毎日決まってその時間になると出てきていたようです。

私はそれから引っ越してますが、夜更しはまだ続けています。

Concrete
コメント怖い
1
2
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信