短編2
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きかなきゃよかった

読んでる皆さんは怖くないと思いますが、私にとっては大問題なのです。

私には霊感がありません。なので、霊感が強い人には世界がどんなふうに見えているのか、ものすごーく、興味があります。

霊感が強い人と知り合いになったら、体験談をききまくります。

元同僚のKさんも、霊感が強い人で、恐い話をいろいろ聞かせてもらいました。でも、今なにが見えているのかとか、現在進行形の話は、一切聞かせてくれませんでした。

「俺は見えたり感じたりするだけ。何か問題が起きても対応できないから、自分の手に余ることは口にしない」のだそうです。

仕事が早くて、いつもきっちり定時で帰れるKさん。さすが、できる人は言うことが違う、と、その時は思ってました。

Kさんは、今年の春に転勤しました。

送別会の時、「最後なんだから事務所に何かいるなら教えてくださいよー」と聞いてみたところ、いつもならきっぱり断るKさん、お酒が入って口が軽くなったのか、語ってくれました。

「一番よく〈みる〉のは、小さい女の子なんだよな。いつも駐車場側の窓の外側から、事務所の中をじーっと見てんの。

しかも最近さー、時々夜に事務所の中にいんのよ。俺さすがに怖くって、仕事の進み具合いはどーでもいいから、絶対残業しなかったんだ。

その子、俺が〈見えてる〉ことに気付いてるっぽくて、今回転勤できて、ほんっと、ほっとしてる。

よくわからんけど、淋しいのかな。人のいる所に来たいっぽい。でも、みんなには見えて無いんでしょ?

んじゃ、しばらくほっといて大丈夫なんじゃない?」

話を聞いた時は、Kさんのできる人イメージ崩壊の方が印象が強くて、大して恐いとも思わなかったのですが、半年近く経って、じわじわ怖くなってきました。

Kさん、お元気ですか?

「一番よく〈みる〉のは…」ということは、一番じゃないけど、他にもまだ見えたってことですか?

「しばらくはほっといて大丈夫」ということは、いつか大丈夫じゃなくなるってことですか?

私は今日も、残業が怖いです。

怖い話投稿:ホラーテラー やのさん  

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