中編3
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負い目

結婚12年目にして女房に離婚を切り出された時

俺は生きる気力をなくした。

真面目だけが取り柄な俺。

女房と子供三人のために

仕事とバイトの掛け持ちをして懸命に働いてきたつもりだった。

だが、どう言い訳しようと

女房は俺を捨て他の男を選んだのだ。

夫として男としても失格なんだと言われてる気がした。

離婚してからも、そんなことばかり毎日考えては落ち込んでいた。

まさか医者に『鬱病』と診断されるとは思わなかったが…

サイトのブログで鬱病に苦しむ女性を見つけた時、同じ苦しみを共感できる者として運命を感じたほどだ。

だが厄介なことに彼女は霊感の持ち主だった。

恋人として付き合い始めしばらく経った頃

夜中に突然 彼女は起き出して天井を指差し

『ほら子供が三人走り回ってる』

『壁から、こっちを覗いてる顔がある。沢山いる。気持ち悪い顔、血だらけの男が睨んでる』

恐怖に怯えたかと思ったら今度は、焦点の定まらない眼差しで俺を見る。

頭がおかしくなったと思うほど表情が変わる。

病気のせいもあるが

本来感情の起伏が激しい女であることがわかった。

常に目は虚ろで生気がなく毎日何もせず、ぼんやりと暮らしている女だった。

彼女は一人暮らしだったが、重度の鬱病のため社会生活は難しく生活の面倒は、親戚がみているようだった。

彼女にも俺にも両親はいない。

彼女が育った家庭環境がどのようなものだったか

家事炊事洗濯が嫌いな彼女を見ていれば、おおかた察しはついた。

俺には霊は見えない。

霊が存在するともしないとも言えない。

ただ、ぎらぎらした目で髪を振り乱しながら包丁で空を切る彼女を見ていると、恐怖感よりも哀れさを感じた。

頭のイカれた女だと言ってしまえば、それまでだ。

空気が淀む薄暗い部屋の中で、身体を丸めて寝ている彼女を見ていると

おかしな話しだが、俺は次第に自分を取り戻していった。

しっかり生きなくてはと 思うようになった。

同時に彼女との別れを考え始めた。

彼女によって救われたのに自分勝手な話しだと思う。

彼女の叔母に当たる女性と、連絡を取り合った。

今後の彼女の治療について会って話しをした。

包丁を振り回す行為を、黙って見過ごすわけにはいかない。

話し合いの結果、病院に収容させるしか他に手だてはないと意見が一致した。

親戚の女性が俺に言った。

『あの娘の霊感は本物だと私は思っています。怖いと思います。苦しいと思います。でも貴方にも幸せになる権利はあるのよ』

涙が溢れ出て止まらなかった。

言い訳はしない。

俺は彼女を見捨てたのだ。

その後 俺は彼女に別れを告げた。

荒れ狂うかと覚悟してたが、彼女は穏やかに微笑んでいた。

『それが正解だよ』

彼女の言葉は一生忘れない。

そんな女と別れて正解だと慰めてくれた友達もいた。

どんな女だろうと

傷の嘗め合いだと言われようと気持ちが通い合った時期はあった。

彼女は極端な例だが

精神的に病んでいる人間は大勢いる。

大なり小なり人間は触れられたくない心の傷を隠し、同時に危険な要素も抱えて生きているはずだ。

俺は今、社会復帰して毎日忙しく働き人並みの生活をしている。

会社の人間は俺が鬱病だったことは誰も知らない。

彼女が今現在、何処にいるのかさえも俺は知らない。

怖い話投稿:ホラーテラー 俺さん  

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