中編4
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あの子と蝶と僕

僕は今まで生きてきて、一度だけ、不思議な体験をした事がある。

初めに言っておくが、この話は決して創作ではない。

ただ、みんなが期待するような、怖い話でもない。

今まで心の中に秘めていた事を初めて他人に話す。

暇つぶしにでも聞いてくれたら幸い・・・・

その日は後一週間程で夏休みが終わろうかという日。

クラスの女の子Sの誕生日会をSの家でやったんだ。

参加したのは近所の仲良し五人組。

僕とT(男の子)、SとK、Y(どちらも女の子)。

僕らは保育園からの友達で、年齢からいっても当然だが、お互いに恋愛感情など全く無かったと思う。

Sの家は裕福で、ピアノからバイオリン、高価なおもちゃまで何でもあった。

皆幼馴染だから、Sの家は当然知っていたが、中に入ったのは初めてで、自分の生活とは、余りにもかけ離れているSの暮らしぶりに僕はまず驚いた。

それまで食べたこともない、おいしいケーキをお腹いっぱい食べて、そろそろ帰ろうという事になった。

僕は当然、ここでSとお別れだと思っていた。

でも何故かSが、

「みんなを送ってく」

と言って譲らない。

Sのお母さんに

「さようなら」

を言って、結局五人でSの家を出た。

川沿いの道を五分程歩いてYの家に着いた。

Yの親はどちらも働いていていつも家にいない。

「さよなら」

Yと分かれて小さな橋を渡ったら、すぐTの家だ。

Tの家は酒屋で、中からお母さんが出てきて飴玉をくれた。

次はKの家。Kは

「家に上がってゲームしようよ」

と、僕とSに言ったが、僕は断った。

何となくSに自分の家まで来られるのが嫌だったから、さっさと一人で帰りたかったんだ。

僕の家は長屋みたいなオンボロアパートだったから、恥ずかしかったんだな。

「さよなら、またね!」

Kの家にSを残して、僕は一人とぼとぼ歩いていた。

しばらく歩いていると、後ろからSが駆けてきた。

「ついでに送るよ」

その時、僕は妙にイライラして、

「もうここでいいって!」

とSに少し強く言ってしまったんだ。

僕はSを背にして歩き始めた。

その時だった!

ギャギャギャギャギャ!

巨大な塊が僕の真横を通り過ぎた。

振り返るとSがいない。

ガッシャーン!!

大型のバンが家に突っ込んでいた。

何が起きたのか全く分からず、僕はただ、立ちすくんでいたように思う。

遠くでサイレンの音が聞こえ・・・気が付いたら次の日の朝だった。

母が言った。

「Sがさっき、病院で亡くなったって、M(僕の名)も危なかったねえ」

母は泣いていた。

僕は不思議と悲しくなかった。

夢の中にいるような感じだった。

お通夜、お葬式、全校集会と周りは大騒ぎだったらしいが、僕はどれにも参加しなかった。

僕の心を直すとか言って、病院の先生みたいな人が来たが、僕は内心思っていた。

(ちっとも悲しんでないのに・・・)

夏休みが終わって、久しぶりに学校へ行く日。

母と玄関を出た時、僕の上に蝶が一匹、舞っているのが目に入った。

白い羽に黒い線の入った、それまで見た事もない蝶だった。

ただその時はさほど気にも留めてなかった。

その日学校で何があったか、全く覚えていない。

Sの机の上に花が活けてあった、それ以外は・・・

友達数人と学校を出て、ふと上を見上げた僕は自分の目を疑った。

朝と全く同じ蝶がやはり一匹で、ひらひら舞っていたんだ。

(何?この蝶・・・)

ぼくはこの時、さすがに少し不思議に思って、友達に聞いた。

「ねえ、あんな蝶ちょ見た事ある?」

僕の周りには5、6人いた筈だが、みんな

「知らない」

と言った。

そして、今思い出しても実に不思議なんだが、何とその蝶は、僕らの後を付いてきたんだ。

いつ見上げても上を飛んでる。

みんな口ぐちに言いだした。

「何?この蝶ちょ、気味悪い」

そして結局、それは僕の家まで付いてきた。

僕はさすがに不気味に思って、玄関を開けるとすぐ閉めた。・・・でも、

その一瞬の間に、それは家の中に入って来たんだ!

(何だこいつ!!)

初めて感じる恐怖だった。

僕は下駄箱に立てかけてあった虫取り網でその蝶を捕まえると、足元に叩きつけ足で踏んずけた。

その時!!!

鼻を突く強烈な臭いに僕はこん倒した。

二日後、僕は病院で目を覚ました。

母が僕を見ながら泣いていた。僕も何故か、無茶苦茶悲しくなって泣いた。

今思えば、この時初めて、Sが死んだんだという実感が湧いたような気がする。

あの時僕の鼻を突いた臭い・・・それはガソリンの臭いだという事を、父親が芝刈り機を買って、油を入れている時に気付いた。

あの蝶がSの霊だったのか、僕には分からない。

昆虫図鑑にはあの蝶がしっかり載っていたから。

ただ僕は悔しいんだ。

「ついでに送ってくよ」

と言った時のSの笑顔を思い出すと・・・

なんで、

「ありがとう!」

って言えなかったかと思って・・・

Sを轢いた運転手によれば、Sが急に道路に飛び出したとか・・・

それを聞いた時のショックは、15年経った今でも・・・引きずったままなんだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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